27.見えないもの
翌日、私たちはまたもアマンダさんの物色に付き合っていた。
その待ち時間の間に、シュレインさんに明日の話をすることにした。
「あのさ、明日の事なんだけど。」
「はい。また潜るとのことですが、何かあったんですか?」
「うん。奥と下の層に変な気配があって。」
「変な気配?」
「私の索敵は自分の知らない物はちゃんと索敵できないって言ったよね?残念だけど、今まで魔物がどういうものがいるかなんて勉強してこなかったから、それが何なのかは分からないんだけど、多分意志を持って動いてるのが数体いる。
それらが他と違って威圧感があるんだよね。小さいんだけど、やばさで言うとダクテオンくらいなの。」
「それはまずいですね。」
「うん。ギルドの人たちだけで行くって言ってたから、それはまずいなって。だから、シュレインさんとついて行って、ギルマスにやばいのがいるって教えないとと思って。勝手にごめんね。」
「いや、私はいいですが、本当に潜っても大丈夫なんですか?」
「うん。私なら倒せるよ。」
あっけらかんという私に、シュレインさんはクソデカため息をつく。
「あと、最奥にもなんか変なのがいるね。そっちは他のと別な感じで変。それに、一番強い。」
索敵魔法の限界を感じる。迷宮のような場所なら、今後はそこに住む精霊と情報共有した方が正確になるだろう。だが、ギルマスがいる以上、今回はそうもいかないだろう。人と行動する難しさはこういうとこだなぁ。
「元からいたものだといいですが・・・・・・。」
「え?」
「やはり魔物の出現が狂ってきていますよね?強いものも出てきたり、数が増えたりもしてて。
聖女殿、世界で何が起きてるのですか?」
周りに人がいないのを伺っての発言だったが、聖女殿とここで言うことに、シュレインさんの本気度を感じた。だから、私はまっすぐに見ながら聞いてみた。
「国はあなたにそれを聞かせる気はないようだよ。それでも聞きたいの?」
その言葉を受け取って、シュレインさんは二拍ほど置いて、口を開く。
「知りたいです。この世界の住人として。」
それは当然の権利だと私も思った。だから答えた。
「もうすぐ、魔王が復活するんだよ。」
「魔王・・・・・・。」
「そう。この世界をめちゃくちゃにするんだって。で、私はそれを倒すために生まれたの。」
「聖女殿がですか?」
「うん。私は精霊にお願いされて、魔王と戦うの。そのために強く生まれたんだ。
国はそれを知ってるみたいだね。私がいなければ世界も破滅するから国すら私には逆らえないのはそういうことよ。」
その言葉を受けて、シュレインさんは無表情だった。しばらく見たけれど何も言わないので、店の中で店員と話すアマンダさんを見た。店員さんが気圧される勢いで何かを交渉しているっぽい。
「・・・・・・それで色々腑に落ちました。」
「そう?」
「あなたは、一人で行かれるのですか?」
もう一度シュレインさんを見ると、悲しそうな目でこちらを見ている。だから、目線をアマンダさんに戻した。
「うん。」
「どこかに仲間がいたりは?私では力不足なのはわかりますが、この国やどこかの国にはもっと強い人がいるのではないかと。」
「どっかにいる誰かがどのくらい強いかは見てみないとわからないけどさ、今のところ、私は世界を亡ぼせる自信があるんだよね。」
「・・・・・・。」
「何もさ、人間全てを殺さなくてもいいじゃない?
人間は愚かにも国っていう単位を作って、バカみたいに城を建てて王族を護ってるもん。そこだけ焼け野原にすればさ、その国は制圧できるじゃん?少なくとも私たちがいた国なら簡単にできるよ。」
「・・・・・・。」
「そんな私が死ぬかもしれないって言われてるしさ、魔王ってのもものすごく強いんだと思うよ。人間では歯が立たないんじゃないかな?」
「・・・・・・。」
「でもさ、一人じゃないよ。」
「え?」
「私には精霊たちがいるから。精霊王たちもそうだけど、この世の全ての精霊が私の仲間。だから、人間は私だけでも、一人で戦うんじゃないよ。」
まあ、精霊王たちは力を貸してはくれるが、多分私だけに戦わせるだろう。それができるように強くされているのだ。
私が勝てればそれでいいし、負ければ精霊王たちがいよいよ本気で動くはずだ。人間はそもそも数に入っていないだろうと思う。
それはシュレインさんに言う必要がないだろう。
「自分の非力さが悔しいです。」
「シュレインさんだけじゃないよ。私にとっては皆非力だもん。でもさ、それだけが価値じゃないと思うんだ。」
「・・・・・・。」
「ギルマスも言ってたじゃん。この街が冒険者にとって大きな存在だって。
人はさ、助け合ってるから生きてけるんだよ。私も同じ。一人じゃ生きてけないんだよ。
アマンダさんがトウワの事を知らなければ、お米を食べることができなかったかもしれない。そもそも、そのお米を作ってくれる人がいなくちゃだめだし。
そうやって、人は誰かのために生きてるんだよ。シュレインさんが騎士なのも、周り周ったら私の為になる。そうやって生きてるんだから、非力な人々も、大事な人々でもあるんだよ。」
「ですが、私がいなくとも騎士団は周りますし、補充される人員もまだあります。」
ブラック企業みたいなことを言うので笑ってしまった。
「じゃぁ、それを人間全てがいなくなるまで補充するの?同じ働きをできる人はいるかもしれない。でも、人員はね、有限なんだよ。
それに、その人はこの世にたった一人。誰にも変わりはできないんだ。
私の護衛騎士はどの騎士でもできるかもしれない。でも、シュレインさんと全く同じ騎士は一人もいない。」
「それはそうですが、そういう話じゃないです。」
シュレインさんがうつむく。
「そっか。まぁ、ちゃんと言えばさ、今私と一緒に旅してるのがシュレインさんとアマンダさんで良かったよ。他の人なら振り切って一人で行ったと思う。」
「あれほど来なくていいと言ってたじゃないですか。」
半目でにらんでくるので、苦笑した。
「本当に来ないでほしかったら、私には手段があるよ。わかるでしょ?」
「それは・・・・・・はい。」
素直に認めてくれてよかった。私はシュレインさんを気に入ってるのは本当なのだ。
「そういえば、騎士辞めてないよね?昨日話してるの聞いて心配になったんだけど。」
「辞めてませんよ。聖女殿がどうしても出ていくつもりのようで、この国の護衛騎士としてついて行きたいと言ったら、国王の命令で許可が出ました。少し疑問に感じていましたが、国王があそこまで執着する意味が分かりましたよ。」
そう言ったシュレインさんもアマンダさんの方を見た。
「私はあなたにとって足手まといでしょう。でも、可能な限り・・・・・・許していただける限り、あなたについて行きます。」
イケメンがそう言ってから、改めてまっすぐ見つめるもんだから、照れ臭くなる。
私はそれを悟られないようにそっぽを向きながら、答えた。
「魔王が出てくるまではアマンダさんと旅をするからね。その間だけよ。」
「はい。」
どんな顔でその返事をしたのか、私はシュレインさんの顔を見ることはできなかった。
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