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転生聖女は自由に生きたい  作者: 辻 壱
26/102

26.中層

 幾度かの戦闘を経て、私たちは中層への階段の前にいた。

「信じられねぇ。本当についちまった。しかもこんな短時間で。」

 下へ延びる階段を見つめ、ギルドマスターがつぶやいた。

 確かにシュレインさんの鬼神のごときの戦い・・・・・・いや、光精霊の加護の強力さによって、瞬時に溶け去っていくアンデッドたちを、私とギルマスは見つめているだけだった。


「聖女ってのはすげぇんだな。うちの国にも来てくれないだろうか。」

 隣に聖女がいるとは思いもしないつぶやきに、私は眉毛をハの字にした。

「確かにそうですよね。世界の宝なんですし、どこかの国にとどまっていない方が聖女としての役割を果たせそうな気がします。」

「世界中で困ってる地域があるだろうしな。聖女様がどんな人なのか知らないし、旅に耐えられるかもわからんが、できたら世界中で活躍してほしいなぁ。」

 私たちがそう話してると、今度はシュレインさんが見つめてくる。捨てられそうな子犬のように、切ない目で見ないでほしい。


 でも、健全な聖女ってのは、そういうものなんじゃないだろうか?国の寵愛に浸かって、そこで幸せに暮らしましたってのは、なんとなく違うような気がする。

 というか、聖女の私自身がそう思うのなら、やはり世界中で起きてる魔王の出現による魔物の脅威に立ち向かうべきなのだ。


 しかし、それがどの程度の時間続くのか。どれがどの程度の影響になるのかは分からない。

 魔王が出現すれば、私はそこへ向かわなければならないし、そうなれば数か月内に決着もつくだろう。

 その後、私はどうやって生きていくべきなのだろうか。平和になれば魔物がいなくなるのだとしたら、私の聖女という地位は地に落ちるだろう。その場合は王子と結婚しておけば安泰なのだが、私にはそれができそうにない。


 考え込んでしまった私を、シュレインさんがポンと叩いた。

「大丈夫ですか?下に行けますか?」

「あー、ごめんね。ちょっと考え事してただけ。何もしてないし、大丈夫だよ。シュレインさんは大丈夫?」

「はい、私も剣を当てさえすればいいだけですし。」

 若干の嫌味か自虐が含まれてそうなことを言いつつ、シュレインさんは地下への階段を見つめた。

「それじゃ行くぞ。」

 そう言ってギルドマスターが先に階段を降り始める。それに続こうとした時、シュレインさんが止まっていたので振り返った。


「どうしたの?」

「あの、自分で戦ってもよろしいですか?」

 やっぱり加護が強すぎたのだろう。

「もちろん。強化魔法は?」

「もう少し緩めていただいてもいいでしょうか?普段こんなに強化されたことが無いので。」

 騎士団でも支援魔法をかける人がいるだろうが、私のは桁が違ったのだろう。

 そんなわけで、シュレインさんのいい具合になるよう、加護を消して強化魔法をかけ直す。

「こんなもん?」

「はい。せっかくかけていただいたのにすみません。」

「別にいいよ。確かにあれじゃ何の訓練にもならないからね。」

 そう言ってシュレインさんを見ると、寂しそうに笑っていた。自分の強さとは関係ない強さには意味がないのだ。騎士とは面倒なものである。


「おい、大丈夫か?」

 私たちがついてきていないので、ギルマスが下から戻ってきた。

「すみません、聖水の効果が切れてしまったみたいなんです。」

 私がそう言うと、ギルマスが腕を組んだ。

「そうか。これだけ進めただけでも大きいが・・・・・・。下をちょっと様子見て、ダメそうなら引き上げよう。帰るまでに接敵しないという保証もないしな。」

「そうですね。ちょっと進んで様子を見ましょう。」

 シュレインさんが気を引き締め直してそう言った。

 私は索敵魔法で大体の状況が分かっているが、特に何も言わないでおいた。



 中層の戦闘は、シュレインさんにとって、とてもいい訓練になっただろう。

 私は普段魔法詠唱をすることはないのだが、それらしい詠唱をでっちあげておいた。というか、魔法の詠唱なんてなんも知らないのだ。感覚で使えるからね。

 そうやって援護的に攻撃魔法や、ギルマスにもシュレインさんくらいの強化魔法を使うことによって、ギリギリな感じで進んでいった。

 ギルマスもさすが強い人が多いと言われる国のギルマスなだけあって、シュレインさんよりも強かったのだ。


「三人だが、こんなに戦いやすいのは初めてだ。嬢ちゃん、お前凄いな。」

 休憩をした時、ギルマスに褒められて頭をなでられた。ごつくて汚い手だが、力強くガシガシとされると、なんとなく嬉しいのである。やっぱり褒められるのは嬉しいのだ。

「お前も強いな。騎士でも十分戦って行けただろうに、なんで辞めちまったんだ?」

 シュレインさんはそう聞かれ、困ったように眉を下げたが、少し考えてぽつりと言った。

「・・・・・・メリル様と戦うことに、生きがいを見つけたのかもしれません。」

 それには驚いて、私が口をぽかんと開けた。それを見て、シュレインさんは苦笑して言葉をつなぐ。


「騎士団にいてはできないことがあります。本当に困った人を助けることができないのなら、それは騎士としてどうなのかと。

 私は国のために戦おうと思いました。でもそれは、王族や貴族の為というわけではありません。民を護るためです。それを思い出したんです。」

 前にもそんなことを言ってたような気がするが、ここまでは聞いていない。しかも、現王宮騎士団第一部隊の彼が言ってると考えると、何とも言えない言葉である。

 いやマテ、もしかして本当に辞めてきてないだろうか?ちょっと不安になってきた。後でちゃんと聞かなくては。


「よかったら、二人ともここにとどまらないか?家が商人だと聞いたが、俺ならここの道具を降ろすルートも紹介してやれるし。」

 アマンダさんが聞いたらさぞかし喜ぶのではないかと思うが、私たちが勝手にどうこう言うわけにもいかないし、何よりここに住むのは違う。

「姉さんの目当てはクレアライトなので、多分住むのは駄目だと思います。」

 私の発言になぜかシュレインさんが目をむいている。なんだ?

「メリル様が固有名詞をちゃんと覚えているとは・・・・・・。」

 私の疑問を感じ取ったのか、ぼそりとつぶやくシュレインさん。おい、今馬鹿にしたでしょ?

「そうか。残念だ。でもクレアライトというと、国が一括してるからなぁ。よっぽどのことが無ければ難しいだろうなぁ。」

「そうなんですか。」

 やり手商人だろうアマンダさんのお父さんでもクレアライトのルート開拓ができていないのを考えると、本当に難しいのだろう。でもまぁ、そしたらクレアライト鉱脈を精霊に頼んでアマンダさんちの地下にでも作ってもらえば・・・・・・。

「何か悪い事企んでませんか?」

 シュレインさんのつっこみが入り、現実に戻された。なんでばれるのか。

「まぁ、お前らがいい相棒だってことはわかった。この調子でもう少し進むか。」

 ギルマスの声で、休憩が終わったのだった。



 その後も何度かの戦闘が続いた。浅層ではゾンビが多かったものの、中層ではスケルトンが多い印象だ。

 アンデッドとは面白いもので、ゾンビやスケルトンを倒しても、ばらばらになった骨が融合して、またゾンビやスケルトンになるのだという。

「時間がたつとどうしても復活しちまうから厄介なんだ。」

 ギルマスはそう言った。すぐに復活するわけではないし、骨を細かく砕くと復活しないそうだが、元から小さな骨は粉砕するのも難しく、灰にするのが一番いいという。

「骨や肉を断つのもな、魔法のかかった武器でやらないと、すぐにくっついちまう。どういう理屈かは知らんが、そういうもんなんだ。」

 ギルマスも自分の使う剣に自分で魔法をかけている。彼のは火の魔法のため、骨や肉を焼いてくれる。

 細かい骨はそれで灰になるようで、この迷宮ととても相性がいい。だからこそここでギルマスをやっているのだという。

 そう考えると、同じように火の魔法を剣にまとわせているシュレインさんを欲しがるのも納得だ。

 うちの子はできる子なのだ!えっへん!


「よし、これなら深層に行けるかもしれない。」

 そういうギルマスに。私はストップをかけた。

「すみません。私はもうそんなに魔法を撃てないです。帰りの接敵を考えたら、引き返した方が良いと思います。」

「・・・・・・そうか。それなら仕方がない。引き返すか。」

 自分も息が上がってきているし、シュレインさんも肩で息をしている。冷静に見たら、引き返すべきだと気が付いてくれた。

 私はもちろん全然平気だったのだが、中層の奥や深層と呼ばれるそこに、嫌な気配がするのを感じた。

 私だけなら余裕だろう。でも、二人は多分足手まといになる。別に守りながら戦うことも出来るし、何なら即時この迷宮を浄化もできる。でも、それをシュレインさんもギルマスも望まないだろう。


 帰りもやはり戦闘があり、入口に戻った時には、夕暮れになっていた。

「マスター!よかった。どこまで行かれたんですか!」

「ディム、すまない。中層まで潜ってた。」

「行けたんですね。どうでした?」

「いや、こいつらが強くて助かった。だが、俺達でも中層も行こうと思えば行けるかもしれない。これから帰って色々考えないと。」

 まずい。奥にいるやつに気が付いてないから、ギルド総出で潜ろうと考えていそうだ。

「あのぅ、明後日でよければまた行けると思うんで、もう一度私たちと行きませんか?今日減らした分だけ、先に行きやすいと思いますし。」

「そうか?お前らがそれでいいならそうするが。」

「はい。」

 私たちはそう約束をし、街へ帰ったのだった。



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