25.掃討作戦
翌日、我々はギルドに来ていた。
アマンダさんも後方支援に参加するとのことで、ギルドのおねーさん方とご飯を作っている。
実はこれも依頼として出ていたのだ。というわけで、アマンダさんも晴れて冒険者デビューということになる。
「うわぁ、冒険者って知ってましたけど、自分がなるとは思いませんでした!」
と言ってカードをしげしげと見つめる子爵令嬢たるアマンダさん。さらに料理までしている。この人も規格外で面白い人だ。
そんなこんなで、街の外に作られた休憩所兼お食事処に座って作戦を待っていると、ギルマスのおっさんが数名連れてやってきた。
「今日は皆、よろしく頼む。」
そうとだけ言うと、皆慣れているのか、座っていた面々が立ち上がった。
「行くみたいですね。」
「だね。まぁ、そこそこ頑張りましょう。」
「メリル様、くれぐれもやりすぎないようにしてくださいね。」
「でーじょうぶ。まっかせなさい。」
ふふふ、今日はちゃんと策を練ってきているのだ。
私はにんまりとしながら一行に加わった。そんな様子なので、シュレインさんがいぶかしんだ顔でこちらを見ている。
「何か企んでらっしゃいますね?」
目を半開きにして聞くシュレインさんに、満面の笑みを向ける。現地に着いてからのお楽しみだ。
不死迷宮は、岩山に掘られた寺院のようなものが入り口になっていた。
ここに着いた一行は、休憩をとっている。各々がこれから迷宮の攻略に向けて準備している。
我々はのんびりと建物を眺めていた。
「なんだか寺院みたいだけど、邪神を祭ってるとかそういう感じなのかね?」
「ここはゲーベリオンの屋敷だったんだ。」
いつの間にか後ろにギルマスのおっさんが立っていた。
「ゲーベリオンの街の始まりは、この屋敷でね。ここに住んだゲーベリオンという人物が、この岩山から採れる魔石に目をつけて、ここで様々な魔道具を作ってたんだ。
それが暴走して、不死迷宮となったってことさ。街はそのおこぼれに与った魔道具作成者たちの集落が元となってる。」
「失敗した人の名前を街に付けたんですか?」
「それは当時のやつらに言ってくれ。さ、休憩は終わりだ。中に入るぞ。」
中に入ると、普通に屋敷といった内装が見れる。
しかし、岩でできたそれらは、風化や戦闘跡なのか、所々崩れていたりする。
私は索敵魔法をかけると、とりあえず屋敷の中には敵影はない。
が、下に迷宮というにふさわしい、人工のダンジョンが感知できた。
一行はその入り口に向かってまっ直ぐ進み、ほどなくして地下への階段の前に来た。
「ここが入り口だ。今回は慣れてない者もいるから、いつもと編成を変える。俺がこいつらにつくから、ディムとギリーの班は一緒に行動してくれ。」
「はい。」
ギルマスの声に従い、数名ずつの組になって階段を降り始めていく。
「あの、私たちは別に二人で大丈夫ですよ。」
ギルマスにそう言うと、眉をハの字にする。
「お前らの心配はしてねぇ。お前らと行動した方が効率が良くなると判断したんだ。申し訳ないが、混ぜてくれ。」
その言葉に、今度はシュレインさんが眉をハの字にした。
「中層を目指そうというんですか?」
「そうだ。あいつらだけでも浅層はどうにかできると思う。ルートから外れて、こちらでも掃討しつつ、下に行きたいと思っている。ディムにはそれを話してあるから、こちらは自由に動いても問題はない。」
シュレインさんが難しい顔をしているが、私にとってはこっちの方が好都合だった。
「いいじゃない。危なくなったらこのおじさんを囮にして逃げることはできるし、私も少人数の方が戦いやすいし。」
「あまり無茶しないでくださいね。」
「わかった。」
暗にやりすぎるなというシュレインさんだが、私はまたも満面の笑顔を返したのだった。
地下に降りると、坑道になっているようだった。
「ここはゲーベリオンが魔石を掘っていた坑道だと言われている。この奥で、アンデッドがあふれる何かをしたようなんだが、奥に何があるかは俺たちは知らない。」
「騎士たちとは話さないのですか?」
「正直いけ好かない奴らなんだ。すましているというか、俺たちに興味がないというか。ふらっとやってきて、すっと帰っていく。挨拶はしていくんだが、茶を飲むことすらしていかねぇよ。」
「でも、歴代の騎士全てがそうではないでしょう?」
「いやぁ、それがなぁ。俺が知ってるだけで三組見たが、全員そんな感じだった。あいつらは戦いにしか興味がないのかもしれないと思うよ。」
この国の騎士はどうなっているんだ。
「お前はどこかの騎士なんじゃないのか?」
ギルドマスターはそう言うと、シュレインさんを見た。
「オスカラートで騎士をやっていました。」
さらっと言うが、過去形にしている。
「お前たちはどういう関係なんだ?」
「私とおねーちゃんは商人の家に生まれて、こっちにルートを開拓に来たの。その護衛が彼。」
これは最初から打合せしている項目だ。
「だが、お嬢ちゃんは冒険者なんだろ?」
「商人だもん。才能があったから、用心棒を雇うより自分が強くなった方がお金がかからないじゃない。だから、本当は私とおねーちゃんだけでよかったんだけど、お父さんが女だけだといらない騒動に巻き込まれるから彼も連れて行けって。」
「それは親父さんのいう通りだなぁ。」
「私強いのに。」
ぶぅと口をとがらせるが、これもパフォーマンスとしてやることにしている。
わがままお嬢さん二人と、苦労多き護衛設定なのである。
「その強さを発揮してほしいところだ。」
「それでもいいけど、今日はダメ。」
「え?」
ギルマスよりもシュレインさんが驚いてこちらを向いた。
「私は昨日のターンアンデッドで疲れたから、シュレインが頑張るのよ。どうしてもだめだったら手伝ってあげるから、ちゃんと言いなさいね。」
私はそう言って、にっこり笑う。
「まぁ、あれだけの魔法が連発できるわけねぇか。」
ギルマスが頬を掻いて呟いた。が、正直そんなものこの辺一帯にかけることすらできる。
でも、今日はシュレインちゃんが主役になるのだ。
私はうんうんと頷き、シュレインさんにそっと魔法を重ね掛けする。
「さ、来るわ。頑張ってらっしゃい。」
ぎょっとこちらを見るシュレインさんの背中をたたいて前に押し出す。すると、それに合わせたように角からオオカミのゾンビの群れが出てきた。
戦いは一瞬だった。
私が剣にかけた光精霊の加護のせいで、剣が触れた瞬間にゾンビが絶叫して崩れたからだ。
数体いたところで、狭い坑道の中、一対一の戦いでシュレインさんが後れをとることはなかった。
やりすぎたかもしれない・・・・・・。
シュレインさんを見ると、半目でこちらを見ている。
アンデッドだから安易に光魔法の方がいいと思ったのだが、ビンゴだったらしい。
「まじかよ・・・・・・。」
ギルマスも唖然として見ている。
「ふふん。うちの護衛もそこそこ強いんだから!」
目線をそらしてそう言いつつ、シュレインさんの刺さるような視線から逃れておく。怖い。
「あ、あぁ、これは凄いな。魔法を使ったと思っていなかったが、どうやったんだ?」
「これは・・・・・・。」
「知らないの?オスカラートには聖女が現れたのよ。その聖女が作る聖水を持ってきているの。それを先に振りかけてきたのよ!」
言い淀むシュレインさんを押しやり、私がさっと答える。アドリブの利かない男だ。
「確かにそんなことを聞いたが、そんな聖水があるのか?いくらだ?売ってくれないか?!」
「駄目よ。これで商売したなんて言ったら、国から商人の権利をはく奪されるわよ!あくまで、自分たち用なの!」
自分でもよくこんな嘘がスラスラと出てくると思うが、出したものは引っ込まない。これでごり押ししよう。シュレインさん、こっちをじっと見ないでください。
「国に報告して、取り寄せられないか聞かなくては。こんな効果があれば、深層に行くのも騎士頼みにならずに済むかもしれない。」
ギルマスがぶつぶつとつぶやいている。やばい。このままだと国に聖水作らされる。
「馬鹿ね。そんな安いはずないに決まってるじゃない。常用するような値段じゃないわよ。」
「くそっ。そうだな。そんな予算割いてくれるわけないか。じゃぁ自分たちでどうにかするしかないな。」
そうそう、聖水は諦めてくれ。
「そういえば、ここのアンデッドって、人型じゃないんですね。なんとなく、アンデッドって人型だと思ってました。」
話をそっと変えてみる。
「そうだな。ここは魔力が出てるようで、死が近づくと、森の生き物たちがここにやってくるんだ。もちろん街の人間にもその魔力がかかる。だから、年老いた者はここから出ていくし、街には墓がない。魔力の範囲から逃れたところに作ってある。
骨になったものも時間をかけると組み合わさってスケルトンになるからな。本当に厄介なんだよ。人間はどうにかできるが、一帯の生物全ての死体をきれいになくすことはできないからな。」
狩りをするのも取り逃がさないように気をつけないといけないだろうし、骨の処理も大変だろう。
「そんなに凄い魔力なんですね。」
確かに、この一帯には奇妙な魔力の流れがあるが、特にどういったものなのかを気にしてはいなかった。そもそも、私はこういう魔法にかからないので、どうでもよかったというのが正しい。
「この中で死ぬわけにはいかないっていうことですね。」
シュレインさんがそうつぶやく。
「そうだな。だから、ここに入る時は無茶をしないようにしている。向こうのやつらも駄目そうならすぐに出ていくよ。」
「盗賊なんかもいるようですし、大変ですね。」
「そうだな。街に入り込まれないようにしなくちゃならないが、盗賊すらも大けがをさせたり殺したりすると大変なんだ。」
色々と大変なようだ。
「この迷宮がなくなったら嬉しい?」
「そうだな。仕事は楽になるさ。だが、この迷宮があることでいいこともあるのが現実なんだよ。」
「いいこと?」
「魔石の産出地はあまりない上に、ここの規模はかなりでかい。魔道具の店もかなり集まっているから、盗賊にはこの街は格好の餌食になる。
だが、この迷宮があることによって、周辺にもアンデッドが少なからずいるんだ。だから、盗賊どもがやってくるのが減るのは本当だ。無謀な阿呆しか来ないんだよ。
まぁ、その分死ぬ気でやってくるから厄介ではあるが、賢い盗賊団はここを狙わない。それが街の発展した理由でもある。」
アンデッド退治の難易度が、ある種街の外の治安維持に貢献しているのだろう。盗賊もアンデッドに遭遇する場所に行きたくないということだ。
とすると、この迷宮を完全に閉鎖するのはこの街が望むことではないのだろう。だからこそ、騎士もこの迷宮を閉鎖させていないのだろうし。
「ギルドのやつらの仕事にもなるからな。ここのやつらはほぼ定住していて、ここの警備団みたいになってる。
冒険者っていうのはさ、お前らもわかるだろうけど、騎士になれなかった半端なやつだったり、人との付き合い方が下手なやつだったり、他でやってくのが難しい奴が多かったりするんだ。
だが、ここでは感謝されて生きていける。それは大きいんだよ。」
人間にとって、褒められたり感謝されたりする事は、精神的に満たされるのに大きな効果がある。承認欲求というやつだ。
色んな人の色んな気持ちが世の中にはあって、それがうまく回ってることが平和なのだろう。
ここの街にとってこの迷宮は、ある種の平和をもたらすもののようだ。
アンデッドが住む迷宮。これが平和につながるとは、世の中は不思議なものである。
そう考えると、私が聖女という地位を笠に着れるのも、魔王という恐怖のおかげなのだ。何とも言えない気持ちになるのだった。
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