24.ゲーベリオン
ゲーベリオンは街全体が灰色の石造りで、周囲に壁もあり要塞のようなつくりになっている。
魔石が採れることや、不死迷宮とやらが近くにあるからなのだろうか。
武骨なつくりのギルドに入ると、シュレインさんは掲示板へ、私とアマンダさんは椅子に座りに行った。
掲示板に行きたいところではあるが、アマンダさんが暴走したら怖いので、自主的に見張りでついておいた。
「おねーちゃんはここの言葉が分かるんだね。」
「周辺諸国の言語は大抵話せますね。」
「え・・・・・・。」
「商人には必須のスキルですから。通訳も使えますが、信用できる人を探すのが大変なので。」
口調を指摘するのも馬鹿らしい返事が来た。
シュレインさんを見れば、受付のおねーさんと何やら話している。掲示板で依頼書を見ていたし、言葉が分かっているのだろう。
「そういえば、メリルも分かるのね?」
「私パワーで全部わかるんだ。」
「え?」
「全部の言語が分かるのだ!」
ドヤっと胸をそらすと、アマンダさんが目を輝かせる。
「凄い!どこに行っても商売ができるね!」
それ基準なのね。
そんなアホなやり取りをしていたら、シュレインさんが帰ってきた。
「やはりアンデッドの出現頻度が上がっているようです。近々掃討作戦に出るようですね。」
どこの国もやってることは変わらなさそうだと、ゴブリンの件を思い出した。
その時、遠くで何かが聞こえた。
何だろうと窓の外を見ると、カンカンカンとけたたましい鐘の音が鳴り響いた。
「ふぁ?!」
「わ、なんでしょう?!」
私とアマンダさんがびっくりしている中、シュレインさんが周りの人にこれは何かと聞く。
「アンデッドが出た警報だ。俺も行かなくちゃ!」
答えてくれた冒険者が外に出ていく。
「おねーちゃんはそこにいて!」
「はい!」
私とシュレインさんも頷いて出て行った冒険者を追いかけた。
冒険者について行くと街の門の一つへ来た。そこには他から来たであろう冒険者たちが集まっている。
「なんだお前らは。これから門を閉めるから、街の中に入っていろ。」
紛れてついてきた私たちに気が付き、ごついおっさんがこちらへやってくる。
浅黒い肌にくすんだ金髪で、白い歯が眩しい。
「私たちは冒険者です。」
そう言ってカードを出すと、おっさんは眉をひそめる。
「お前がそのランクだと?」
カードにはランクが分かる色が付けられているので、一目でランクがわかる。
「私も。」
シュレインさんもカードを見せる。
「ふむ、真偽はわからんが、今は手が欲しい。お前たち、アンデッドとは戦ったことがあるか?」
「私は数度戦っています。」
「私はありませんが、ここに来るまでにこの人から戦い方は聞いてますので、様子を見てからなら戦えると思います。」
私たちが答えると、おっさんは頷いた。
「わかった。これからスケルトンが十数体くる。とりあえず後衛について、援護できそうならしてほしい。」
「わかりました。」
「門を閉めろ!」
おっさんの声で、街の門が閉まる。門は両開きではなく上から降ろす一枚板で、鎖の音がかなり鳴るのでうるさい。
「突破されにくい構造にしてますね。」
「ここは常に脅威がいるからな。扉の開け閉めは簡単にできないようになっているし、すると周囲にわかるようになっている。」
うるさいのにも理由があるようだ。
「おじさんは後ろに控えるの?」
ごっつくて強そうなおっさんのくせに、最後尾についているので聞いてみた。
「最前線で戦いたいが、そうすると怒られるんだ。」
そう言って肩をすくめるおっさん。
この街は岩山近くの森の中にあるのだが、街の周りの木々は倒されており、視界がいい。
その境に、そろそろアンデッドがつく。速度が速いのは、四つ足アンデッドだからだ。
「来たよ。」
そう言うと、シュレインさんは自分の剣に火の魔法をかける。さすがの王宮騎士。剣魔両方いけるのだ。
それを見て、ピクリとおっさんが反応した。
「お前、最前線に行け。」
おっさんの声に頷き、シュレインさんが前に出る。
「お前は武器はないのか?」
そう聞かれたので、素直に頷いた。
「お前本当に冒険者なのか?」
疑いのまなざしで見てくるおっさんに、ニヘラと笑っておく。
「弘法筆を選ばず。いや、私レベルになれば筆すらいらぬのだ!」
「何言ってんだお前。」
おっさんが呆れた顔で見ているが、前線が接敵したので、その視線もすぐ外れた。
皆戦い慣れているが、その中でもシュレインさんは飛びぬけて強かった。
自分が数体引き付けてはうまくいなし、人のフォローもしている。
「うーん、シュレイン強い。」
自分ちの子が活躍しているのを見て、私はにんまりとした。
「お前は何もしないのか?」
善戦してるので安心したのか、こちらに皮肉を言うおっさん。
「じゃぁ、一個試したいのがあるんでやってみていいですかね?」
「味方の邪魔にならないことならやれ。」
「わーい。じゃぁ、あいつにほい!」
私が指さしたアンデッドが消滅した。これがターンアンデッドだ!
「おー!できるやーん。」
「お前!それ全部にやれ!」
「え?あ、はい。」
そう言われ、背中をたたかれたので、勢いでサクっと全部にかけたら、骨の群れが消え去った。
皆驚愕の声を上げるが、シュレインさんがこちらをさっと向く。あーあー、また活躍を奪っちゃったよ。拗ねちゃうんじゃないの?
「メリル様!またそうやって!」
あ、怒ってる・・・・・・。グイっと引っ張られ、少し離れたところで耳打ちされる。
「聖女だとばれたら面倒になりますから、力を行使するのは控えてください。あくまで普通の冒険者です。いいですね?」
実は、これはこの旅に出る前から言われてたので、ぐうの音も出ない。
「すみません。ついやってしまいました。反省します。」
「まぁ、人助けにはなりますからいいですが、あまり目立ちすぎると大変ですからね。」
シュレインさんがクソデカため息をついていると、頃合いを見計らってさっきのおっさんが来た。
「お前ら本当に凄いじゃないか。頼みがある。ギルドに来てくれないか?」
私たちは顔を見合わせた。
「近々、ギルドの動けるやつを連れて、不死迷宮に入る予定なんだ。しかし、日程を早めようと思っていてな。明日にでも行きたいんだ。」
応接室のようなところに案内されて、そうおっさんに言われた。
このおっさん、ここのギルドマスターだったのだ。
「この街に来た時にここへ寄ったので、それは聞いていました。私はその依頼を受けようと思っていましたし。」
「なんと!これなら大丈夫かもしれない。」
何かよくわからないけれど、ギルマスとシュレインさんの間で話が進んでいる。シュレインさんおっさん好きなん?
「何かあるんですか?」
さっきから大丈夫かもとか大丈夫だとか言ってるのが気になる。
「年に数回、中層までは騎士団が入ってくれるんだが、次回まで時間がある。
しかし、ここのところ今までにないほどに迷宮から漏れ出る魔物が増えているんだ。
普通の魔物ならいいのだが、不死者が出てくると、どうしても当たれる人間が少なくなるからな。」
「少数精鋭って感じなんですか?」
「さっきのメンバーに二人追加されるだけだ。少数精鋭なんていいもんじゃない。アンデッドに対抗できる奴がそれしかいないんだ。」
さっきの人たちはおっさん以外では五人ほどしかいなかった。二人とおっさんで八人。私たち入れて十人だ。
「迷宮がどの程度の広さなのかは知りませんが、十人ほどでどの程度行けるものなのでしょう?」
シュレインさんも不安になったようだ。眉をひそめている。
「正直、我々は浅層しか行っていない。今回も浅層の数を減らすだけになると思う。だが、漏れ出る魔物を見るに、ほとんどアンデッドなのではないかと思っている。」
「応急処置って感じなんですかね?」
「そうだな。行けるところまで行くくらいの気持ちだ。無理をしたら今後に影響が出すぎるから、絶対に人数を減らせないしな。」
アンデッドに当たれる人が増えない限り、減らすことができないのだろう。
「でもお前たちがいるなら、状況によっては中層まで行けるんじゃないだろうかと思っている。」
すでにかなり期待されているので、シュレインさんを恐る恐る見てみると、眉がハの字になっている。
「まぁ、やってもいいですけど、ちゃんと報酬出るんですか?」
しょうがないので、吹っ掛けようと思って聞いてみる。
「任せろ。これは街からの依頼だからな。働きに応じてちゃんと払ってやるよ。」
そういうのなら、良いだろうと私は思う。シュレインさんは思うところがあるだろうが、私は聖女として、国を問わず世界を救う使命があるはずだ。・・・・・・多分。
「あのぅ、一応聞いておきたいんですけど、深層ってどんな感じなんですか?」
「深層はな、正直分かんねぇ。騎士団のやつらに聞けばわかるかもしれないが、奴らもいつも三人で来るから、深層までは行ってないと思うんだ。」
三人?!
「三人で中層までは行けるものなんですか?」
シュレインさんが聞く。
「奴らこそ少数精鋭だよ。戦う姿は鬼神のごときさ。兄さん、あんたよりも強いよ。」
シュレインさんもかなり強いはずだが、王都ですら五位には入れていない。もっと強い人たちがいるというこちらの国では、もっと強い人たちが多いのだろう。
でも、そう聞くと、なんだかおもしろくない。
「そうですかー。じゃぁ、明日は行けるとこまでってことで参加させていただきます。よろしくお願いしますね。」
私はそうにっこりと言い、席をたった。
「明日は深層まで行くよ。」
「は?」
「我々が強いことを示すのです。」
目が座って言う私に、シュレインさんのクソデカため息が炸裂する。
「どうして聖女殿はそうやってすぐに対抗しようとするのですか。」
「うちの子が!バカにされて!黙っていられない!」
「誰がうちの子なんですか・・・・・・。」
「シュレインちゃんでしょ!うちの息子よりも強いっていうそいつらに勝つ!」
「いやいやいや、今度は息子ですか?!大体、対抗する必要はないですよ。別にばかにもされてないですし。」
「きいいい!ヤダヤダ!」
「ふふ、ありがとうございます。しかしこれは己の未熟さです。もっと強くならなければ。その旅にもなればいいと思っています。」
なんだか爽やかに笑いながらそんなことを言うので、私は渋々この話を切り上げたけれど、やっぱり対抗心が消えない。いつかそいつらよりうちのシュレインちゃんが強くなるように、私も何かできることはないかと考えるのだった。
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