23.越境
「何でこんなことになったんでしょうか・・・・・・。」
アマンダさんが馬車の中で独り言ちた。
「駄目でした?」
私の問いに少し考えた後、アマンダさんは小さく首を振った。
「いいえ。こうなりたかったのは本当なので。でも、こんなことが許されるとは思わなかったんです。」
そう言って馬車の外を見た後、満面の笑みをこちらに向けた。
「ありがとうございます!」
「いいえ、こちらこそありがとうございます。」
私たちは、いつもと全く違う服装をしていた。
いつもはワンピースだが、髪を一つにむすんで後ろに垂らし、ブラウスにジャケットを着て、ロングスカートをはいている。
服が上下に分かれているだけで、動きやすさがかなり違う。
「見えてきましたよ。」
御者台に座っているシュレインさんが言うので窓の外を見ると、遠くに建物が見えてきた。
シュレインさんも、見慣れてきた革鎧を着ている。
「あの、本当にいいのですか?」
「もう!何度も言ったじゃないですか!あそこを超えたら、私たちは姉妹!シュレインさんは護衛の人!」
「うぅ・・・・・・。」
胃が痛いとでもいうようにお腹をさするアマンダさんがうめくが、無情にも建物が近づいてきた。
シュレインさんが誰かと何かを話し、ドアをノックされる。
ドアを開けると、兵士さんが馬車の中を見回す。
「よし、いいぞ。」
そう言いながら扉を閉め、馬車が動き出す。
「やったー!初めての越境だー!」
そう、ここは我が故郷オスカラート王国とベリンダール王国の国境だったのだ。
ついに!国を!!脱出したのだ!!!ヒャッハー!
あれから結局、私たちはアマンダさんの実家の家業を手伝うという名目で、諸国漫遊することになったのだ。
なんと、アマンダさんは侍女を辞めた。
私がそそのかしたとはいえ、ご両親と話し合ったようで、晴れやかに「この仕事辞めます!聖女様と一緒に行きます!」と言われて、本当に嬉しかった。
そして、シュレインさんはどうやったのか、本当に国を超えて一緒にやってきた。
多分、他の国に取り込まれないようにとでも言ったのだろう。知らんけど。
この馬車も紋章こそついてないが、いつも乗っている王宮仕様の良い馬車だ。それを引く馬も、シュレインさんがいつも乗ってる馬と、私が乗せてもらってる馬なので、王城から借りてきているのは明白である。
「馬車の馬と乗馬の馬って違うんじゃないんですか?」
「何でもできるように訓練されてますから、これくらい大丈夫ですよ。」
そんなやり取りがあったり。
「ここはどんな国なの?」
「そうですねぇ。」
「口調。」
「あ・・・・・・えっと、この国はオスカラートの北に位置してるんだけど、岩山の多い国ね。標高も北に行くにつれてどんどん高くなっていくの。そして、最北には魔境との境、アジリア連峰があるわ。この世界で一番高い連峰よ。」
「魔境なんてあるの?!」
「そう。でも、そう言われているだけで、本当はどんなところかわからないって聞いてるわ。アジリア連峰が人が越えられる高さではないの。」
地球でもエベレスト登山には色々な器具が必要になる。この世界には魔法があるとしても、そう簡単に登れないのだろう。
「そういえば、前にシュレインさんにワイバーンがいるって聞いたんだけれど。」
「そうね。王都の北に生息してるみたい。この国には竜騎士と呼ばれる騎士もいるの。アジリア連峰にはブラックドラゴンもいるらしいし、ゲーベリオンには不死迷宮なんていうのもあるの。寒さも厳しいし、魔物も強い。オスカラートに比べると、とても生きるのが大変になる国よ。」
「うひゃー。」
「ただ、この国には珍しい鉱石がたくさんあるの。魔石の産出も突出しているから、魔法研究や魔道具の生産も世界一なの。」
「一長一短って感じなのね。」
「得ている豊かさでいったらオスカラートよりも上よ。でも、アジリア連峰の警備にかなり予算が割かれてしまうからね。」
「そんなことまでよく知ってるね。」
「ふふ。勉強してるから。」
「おねーちゃんについてきてもらってよかった。」
「・・・・・・こちらこそ、誘ってくださってありがとうございます。」
「口調。」
そう言ってアマンダさんを見ると、目にいっぱいの涙を浮かべてこちらを見ていた。
「アマンダさん?」
「父に王城へ送り出された時、本当は悔しかったんです。弟は二人います。私は嫁ぐ身ですし、サポートができるかもわかりませんでした。
本当はメイドよりも今の内に家業に携わっていたかった。でも、女の私がそんなこと考えているなんて父は思いもしなかったんです。」
「お母様は見てらっしゃったみたいですね。」
「はい。私は表に出したつもりがなかったんですが、見抜かれていましたね。おっとりした母なので、びっくりしました。」
そう言って、涙をぬぐいながら笑うアマンダさんが眩しくて、私は本当に誘ってよかったと思ったのだった。
街道沿いの町に宿をとって落ち着いた後、アマンダさんに今後を聞いてみた。
「このまま王都に向かうの?」
「うーん、そこで物の流れや品質を確認する方が良いとは思うんだけど・・・・・・。」
「何かあるの?」
「私はないけれど、二人にはあるかもしれなくて。」
今日の宿の部屋でアマンダさんがそう言ったので、別の部屋にいるシュレインさんを呼んで、食堂へと移動した。
「さっき馬車でゲーベリオンの不死迷宮の事をちらっと言ったでしょう?」
「あーなんか物騒な名前だなーとは思った。」
「ここ数日この国の事を探ってたんだけど、どうやらそこの魔物が溢れ出してきてるみたいなの。」
アマンダさんがさらっと言うので聞き逃しそうになるけれど、探れるルートがあるということだ。アマンダさんは思っている数倍は凄い人なのではないだろうか。
「あそこは年に数回国の騎士が入ると聞きますし、元からではないのですか?」
シュレインさんがそう言う。シュレインさんもちゃんと知ってるのか・・・・・・。もしかして、これが学力の差???
あ、シュレインさんは護衛役なので、私たちに丁寧語のままなのだ。
「例年以上だと。」
「ということは、この国でも魔物の活動が活発になってるのかもしれませんね。」
「ゲーベリオンは魔石の産出地でもあるので私も行きたいですし、そっちに寄ってみませんか?」
アマンダさんも若干口調が戻ってきてると思いつつ、私は頷いた。不死迷宮。なんか凄いゲームっぽい!
数日後、私たちはゲーベリオンの街に来た。
国境から王都への街道から東にずれてはいるものの、かなり大きな街で魔道具の店がたくさん並んでいる。
それを見たアマンダさんの目が爛々と光ったので、ギルドに行かずにまずは店を見て周ることにした。
「すみません!ちゃっちゃと見てきます!」
そう言うや否や、店に一直線にすっ飛んでいく。
店に入ってはざっと商品を見、気になったものを店員に聞く。お店を出たら何やらメモを書き、次の店へ入っていく。
「生き生きしてるね・・・・・・。」
「そうですね・・・・・・。」
私たちはついて行くだけで精一杯になるくらいに、次々と店を攻めていく。
そんなアマンダさんが大きな建物の前に止まり、私たちを手招いた。
「ここがこの街のギルドですよ。」
「え?あ。」
「私は一人でも大丈夫なので、お二人はここでそちらの情報を得てください。じゃ!」
そう言って一人で行こうとするアマンダさんを、慌てて引き留める。
「いやいやいや、一人で行っていいもんじゃないでしょ!」
「え?別に大丈夫ですよ。慣れてますから!」
「いやいやいや、ここは初めてなんだよね?そんなとこで一人にできないよ!」
「メリル様にもそんな常識があったんですね。」
シュレインさんがそっとつぶやいたので、足を踏んでやった。頑丈なのか、眉をしかめる程度で済んでいるようだ。
「シュレインさんも止めて!」
「アマンダ様、一人にはさせられませんので、こちらで先程のメモを整理なさっては?」
そう言ってまっすぐ見つめるシュレインさんを見て、アマンダさんはぐっとのけぞった。
「う、わかりました。そうします・・・・・・。」
そううつむくアマンダさんの耳が赤いので、イケメンオーラにやられたのだろうと推測するが、シュレインさんはわかってるのだろうか。わかっててやってたら怖いな・・・・・・。
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