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転生聖女は自由に生きたい  作者: 辻 壱
22/102

22.転職活動はコネを使おう

「・・・・・・。」

 部屋の入り口で、暗黒を背負いつつ魂の抜けた顔をして立っているシュレインさんを横目に、私はアマンダさんの入れてくれたお茶をがぶ飲みしていた。魔法でキンキンに冷やしたお茶がうまい!

 アマンダさんは憐みの目を向けてシュレインさんを見ている。

 あの後、私は固まったシュレインさんの姿勢をいじり、お姫様抱っこしながらここまで歩いてきたのだ。

 その様子は何人もの人に見られている。しかし、何も言うことも身動きすることもできずにそのまま抱っこされてここまで来たシュレインさんの心中は、今のシュレインさんの姿を見ればわかる。


「で、何をなさったんですか?」

「いやぁ、多分斬られそうになったからね。全員の動きを止めただけですよ。意識は奪わないであげたから、私の術にはまったのだけはわかったと思いますけどね。

 命を取らなかったことに感謝してほしいくらいだわ。」

 ぼそりとつぶやいた最後の言葉に、アマンダさんがひゅっと息をのんだ。


 もうこれで私と王子の婚約騒動はなくなっただろう。

 だが、面倒なことは多くなっていくと感じた。

 今回は王子だったからいい。でも、騎士団長のようにシュレインさんやアマンダさんをつかわれたら困る。


「もう、潮時かもしれませんね・・・・・・。」

「何がですか?」

 独り言ちて三杯目のお茶をすする私に、アマンダさんが小首をかしげる。

「この国にいるのがです。」

「え?」

 アマンダさんとシュレインさんが目を見開いてこちらを見る。

「面倒くさいことが多いな・・・・・・と。」

「そ、そんな・・・・・・。」

 アマンダさんが泣きそうな顔で首を振る。この人にはお世話になったのに、恩を返せてない。


「・・・・・・アマンダさんて、婚約されてたり恋人がいたりしますか?」

「え?あ、いいえ。いま両親が探してくれていますが。」

「ご実家って、貿易なさってるんですよね?用心棒雇ったりしてませんか?」

「へ?」

 予想しない話になって、困惑しているアマンダさん。でも涙がこぼれることはなくなったと思うとほっとした。

「アマンダさんの紹介で、雇ってもらえませんかね?私、こんなか弱そうに見えて、ランク高めの冒険者なんですよ。」

「えええ?!」

 アマンダさんの手を握ってまっすぐ見つめれば、素っ頓狂な声を出しつつオロオロする。そして、助けを求めるようにシュレインさんを見る。

 因みに、冒険者の事はアマンダさんはちゃんと知っている。

 アマンダさんに見つめられたシュレインさんは、何とも言えない顔をしていた。


 シュレインさんはしばらく考え、絞り出すように口を開いた。

「・・・・・・行かれるのなら、私もついて行きます・・・・・・。」

「え・・・・・・。」

「えええええっ?!」

 私は半開きの目で、アマンダさんは体を乗り出してシュレインさんを見る。

「いや、お父さんはついてこなくていいよ。大丈夫。ちゃんと一人でやれるよ。」

「確かに一人でやっていけると思いますが、あなたはまだ若く、世間を知らない。私はこんなか弱そうに見えますが、諸外国の事を勉強していますし、役に立てる場面もあると思います。」

「真似しようとして真似できてないじゃないですか・・・・・・。」

 か弱いネタを使わんでくれ。

「それに、私は世界を知らないのではないかと思ったんです。」

「え?」


「私はこの仕事に誇りを持っていますが、この仕事ではできないことがあることを知りました。そして、自由に動く事で得られることが多いことも。それに、私は知りません。あなたが何者なのかを。」

 シュレインさんがまっすぐ見てくる。この目になった時の頑固さは知っている。

「私は知りたいのです。この世界で今、何が起きようとしているのかを。」

 聖女の出現。聖女の役割。そして、魔物の出現の乱れ。

 私の隣にいたシュレインさんはそのことがつながっているのではないかと気がついたのだろうか?


 まぁ、どうでもいいか。


「いや、知らんし。」


 私はばっさり切り捨ててあげたのだった。



「あ、あの、本当に?」

「お願いします!食べていくために必要なんです!」

「いや、城にいれば・・・・・・。」

「ヤダヤダあんなところで囲われてるだけの生活ヤダヤダ!」

 私は立派な門の前で地団駄を踏んでいた。

 門の横にいる兵士さんたちが困った顔をして、私とアマンダさんの顔を交互に見ている。


「あの、お嬢様、大丈夫ですか?」

「お嬢様だって!」

 遠慮がちにかけられた兵士さんの声に、私は歓声を上げた。

 アマンダさんは城ではメイドでも、この家にとっては令嬢だ。

 私の反応に、アマンダさんは困ったように後ろを振り向く。

 そこにはシュレインさんがいた。おいて行こうとしたのに、断固としてついてきたのだ。


「しつこいストーカーだこと。」

「すとーかー?」

「そんなことより、お願いしますよお嬢様!」

「やめてください!」

「そろそろ迷惑になりますよ。」

 アマンダさんに縋り付く私を、シュレインさんが引きはがす。

「なんなのもう!勝手についてきたくせに。」

 ぶーすか言う私に、お得意のクソデカため息がこぼれる。

「まだ仕事中なのですよ。」

 そう言ってシュレインさんはアマンダさんに頷いた。それを見て、アマンダさんも大きなため息をつく。

「私、どうなっても知らないですよ?」

「大丈夫大丈夫!ゴーゴー!」

 私たちは、アマンダさんの屋敷に乗り込んだのだった。



「で、こちらが聖女様とその護衛騎士様で、うちで雇って欲しいと・・・・・・?」

「はい・・・・・・。」

 アマンダさんの力ない返事に、お父さんは宇宙猫のような顔で遠くを見た。その横で、アマンダさんそっくりのお母さんがにこにことお茶を飲んでいる。

「お仕事はどうなさるの?」

 お母さんがおっとりした声でシュレインさんに話しかけた。

「聖女殿の警護が仕事ですので、これも仕事の範囲だと思っています。ですので、これから上と掛け合うつもりです。」

「そんなことやってる間に、さっさとどこかの船に一人で乗せていただきたいと思っています!」

 私が挙手して話すと、お母さんがあらあらまぁまぁと笑っている。シュレインさんの半開きの視線は気にしない。

「それで、アマンダはどうするの?」

「えっ!私?!」

「よかったら一緒に行きたいです!」

「えっ?!」

「聖女殿・・・・・・。」

 急に母親から進退を聞かれ困惑した瞬間に、聖女から一緒に行こうと誘われるアマンダさん。シュレインさんがそっと私を制するが、知ったことではない。

「いや、だって、アマンダさんてメイド続けてても楽しくないんじゃないんですか?」

 そう言ってアマンダさんを見ると、ぐっとのけぞる。

「そうよね。アマンダは本当は家の仕事がしたかったんだものね。」

「えっ!そうなんですか?」

 今度は私が驚く番だった。


「この子は長女で、初めはこの家を継ぐことになるかと思っていたんです。本人も興味を持っていたの。なのに、十歳になった時に男の子が生まれたの。続けて更に弟も生まれちゃってね。夫は喜んだけれど、この子はその時に家業を継ぐのをあきらめたの。」

「そ、そうなのか?」

 お父さんが驚いて聞くと、アマンダさんはうつむいた。

「男が継ぐのは当然だから・・・・・・。」

「・・・・・・。」

「あなたが悪いのよ。あんなにアマンダを連れ歩いておきながら、男の子が生まれた途端に後継ぎ後継ぎってはしゃいで。」

「いや、だって・・・・・・。」

 今度はお父さんが、ぐっとのけぞる。そのしぐさがアマンダさんと一緒なのがほほえましい。


「トウワとの件もね、この子が主体で動いたのよ。」

「そうなんですか?」

 アマンダさんを見ると、恥ずかしそうに顔を赤くしている。

「聖女様の話を聞いて、どこかで見たことがあると思って。なので、調べてトウワに行きついたんです。」

「家で仕入れてたものに似てるのがあったって・・・・・・。」

 私はそう聞いていたのだ。

「もちろんはじめはそうでした。遠い国ですから、そんなに早く手配できませんし。ですが、みそなどはこの子が仕入れたんですよ。聖女様の為に。」

「それじゃ全然採算取れてなかったんじゃ・・・・・・。」

「いえ、元々トウワとは民芸品なんかも仕入れていて、食材はそのついでなんです。本当にたまたま持ってる商船がありましたから。」

「アマンダさん・・・・・・。大好き!!!」

 私は隣に座っていたアマンダさんに抱き着いた。思っていた数倍恩があったのだ。もうこれはアマンダさんに全力を出して幸せになってもらわなくてはいけない。


「私ができる事なら、何でもします。この国を亡ぼすことも出来ますから、何でもお申し付けください!」

「そんなこと望んでませんよ!」

「じゃぁ、北方で採れるクレアライトという宝石の売買ルートを!」

「お父様!」

「よーし、アマンダさんの為に鉱脈見つけちゃうぞー!」

「聖女様!やめてください!」

「聖女殿、あなたが言うとシャレにならないです。」

 我々はそんなノリのまま、アマンダさんのお宅で夕食までごちそうになったのだった。


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