21.無駄な戦い
16話が15話の内容だったのを今更直しました。
指摘くださった方ありがとうございます。助かります。
「こちらスネーク。ターゲットの存在を確認。」
物陰に隠れ、小さく呟く。
「何を言ってるんですか。」
コソコソとする私の横で、シュレインさんが半目になっている。その後ろでは、アマンダさんがかわいそうな子を見る目で私を見ている。
おい君たち、堂々と廊下に立つでない。ちゃんと隠れたまえよ。何なら段ボールでもないだろうか?
「雰囲気が大切だと思うんですよ。」
「ちゃんと約束を取り付けてるのに隠れる必要はないじゃないですか。」
実はあの後、アマンダさんの案で王子の誘いに乗ってみるということになったのだ。
王子の誘いとは?
実は、私がのんべんだらりとお城で過ごしている間、毎日のように様々なところから手紙が来ていた。
お茶会へのお誘いである。
ドレスを着る事すら拒否している私に、お茶会へ出るという選択肢が現れるわけがない。それが王妃からだろうが全て丸っとお断りだ。
アマンダさんいわく、城の文官がお断りの返事を書いていたとのこと。それは知らなかったので、ホントすみません。
まぁ、その中に王子からお茶をしようという誘いがあったのだ。それに乗ることにしたというわけ。
「やぁメリル!久しぶりだね!」
満面の笑みで王子が出迎えてくれる。後ろには護衛騎士君以外にもメイドがずらりと並んでいる。ギョエーヤダヤダ!っていうか、今さらっと呼び捨てたな?
私は案内されるままに、席に着いた。そのタイミングでお茶も出される。
ここは庭が見える大きな窓のある部屋だ。夏場なので灼熱地獄になりそうだが、涼しい風が吹いてくる。どうやら魔道具があるようだ。
「お招きいただきましてありがとうございます。それで、人払いをしていただきたいんですけど。」
もうさっさと帰りたいので、流れとか知ったこっちゃねーしてお願いしてみる。
王子は面食らってはいたが、手を上げるとメイドさんたちが下がっていく。
そして、ここには王子と護衛騎士君。それとシュレインさんとアマンダさんというメンバーになった。
「で、話は何かな?」
「私と殿下が婚約するという噂を聞いたんですが、本当ですか?」
歯に衣など着せることも無い。
「そう・・・・・・知ってるんだね。なら話は早いね。その通りだよ。一緒にこの国を導いて行って欲しい。」
「お断りいたします。」
バッサリと言ったので、王子と護衛君の目が丸く見開く。多分後ろでは、シュレインさんとアマンダさんが苦虫をかみつぶした顔をしているだろう。いや、もしかしたら無表情で宇宙を背負っているかもしれない。
「なぜ?」
「嫌だからですよ。私は庶民なので、貴族のことは知りません。ましてや国政なんて背負えるわけがありません。」
「大丈夫、私や他の者が全てやるから。」
「それでは私がいる意味がないですね。やっぱりお断りいたしますね。」
「君はいてくれるだけで十分な力を持ってるじゃないか。」
「それは、殿下は・・・・・・いえ、この国は私の聖女の力を使いたいということですか?」
「そうでは無いよ。民衆にとって、聖女が国を支えてくれているということは大きな安心と誇りを持てるからね。それだけでも十分な偉業さ。」
「では、別に殿下と結婚する必要はないと思いますが。」
「これは国からの敬意だと思って欲しい。君を王族に迎え入れたいと思うほどに必要とし、また、貴んでいるんだよ。」
それが価値だと思っていることが片腹痛い。私に地位など必要は無いのだ。
だが、これ以上話してもらちが明かないだろう。
「シュレインさん、アマンダさん、下がってもらっていいですか?」
「・・・・・・。」
「大丈夫です。無茶はしないです。決して魔法使ったりしませんから。」
一拍開いて、二人の足音が遠ざかり始める。
「できましたらその方も。」
護衛君の顔を見るが、王子は首を振った。
仕方ないので、二人が出て行った後に切り出す。
「殿下は、聖女の本当の仕事が何かはご存じですか?」
「・・・・・・そうだね。知っていると思うよ。」
「それを知るのは、他に誰がいますか?」
「陛下たちとお二方の護衛騎士たち。もちろん後ろのイグナーツもだ。後は騎士団長と宰相だね。」
思ったよりも少なかった。が、魔王の出現なんてことは知らないに越したことはない。
そして、やはりシュレインさんは知らないのだ。はじめから蚊帳の外だったというわけか。知らぬままに私に付き合ってきたと思うと、本当に大変だっただろうと思う。
「そうですか。ではその仕事上、私はこの国にとどまれません。よって、この話はお断りいたします。これは決定事項です。」
私はそう言って席を立つ。
後ろから王子の声がかかることはなかった。
これで済んだと思ったが、数日後、私の部屋に騎士団長がやってきた。
「陛下がお呼びです。すぐお仕度ください。」
だが断る!しようと口を開きかけたが、シュレインさんが首を振った。
「きちんと決着をつけるべきです。」
アマンダさんも小さくそういうので、私は仕方なく頷いた。
私がそのまま行こうとすると、騎士団長が止める。
「お着替えを。」
「先日殿下に会った時もこの格好でした。別に何も言われませんでしたよ。」
「お着替えを。」
あぁん?上等だ。やるのかコラ?そう思いながら騎士団長を見上げる。
筋肉質の大きな体に、オールバックの白髪。白い髭はきっちりとそろえられている。目つきの鋭さと威圧感はすさまじい。でも、私から見ればひよこみたいなものだ。
「じゃぁ、あなたが私に勝てたら着替えてあげますよ。さ、戦いますか。」
私はそう言ってにっこり笑う。シュレインさんが眉間をもみほぐしている。ため息を我慢したのは団長の前だからだろうか。
「お着替えを。」
それし言えないんかい。
「もういいや。いこいこ。」
私はスタスタと騎士団長の横を通り過ぎて部屋を出る。
「シュレイン、聖女様を止めなさい。」
あ、私この人嫌い。私は止まって振り返った。
「そう出るなら、このままいかせるか、この国を亡ぼすかあ・な・たが選んでいいですよ。どっちにします?」
まっすぐおっさんを見ると、おっさんは目をすっと細めた。
「さぁ。」
私が顎でしゃくると、おっさんが歩き出す。最初からそうしろやボケ。
無駄に臨戦態勢になってしまったが、もうこのまま突き進むことにした。
通された部屋はまた王子と話した部屋だった。
今回は数人の騎士が並び、中央には王が座っていた。
私の格好を見ても眉一つ動かさない。さすがである。
面倒になった私は、勝手に空いてる椅子に座った。
これには騎士たちがピクリと動く。
「とても愉快な迎えをよこしてくださってありがとうございます。で?」
私は王の顔を見た。
「うちの息子は出来が良いですが、お気に召しませんか?」
「そうですか?私にとってはどうってことない大勢の中の一人ですね。なんていうか普通?」
すでに機嫌が悪い私はジャブどころかストレートで応戦だ。
王の後ろに立つ金髪碧眼の騎士が凄い視線でにらんできている。これは知ってる人か知らない人か。
騎士団長もスッと私の横に立つ。戦闘態勢なのは私だけではないようだ。多分シュレインさんは白目になっているだろう。
「我が国は周りの国から見ても、美しく豊かです。この国の王妃になることは、女性ならば誰しもうらやむことだと思うのですが。」
自分でいうの凄い。
「周りの国ですかぁ・・・・・・。ぜひ行ってみたいですね。」
そう言ってにっこり笑うと、にっこり返してくる。
「私は王妃という立場にも興味はありません。見てください。このマナーの悪さ。誰がこんな小娘を王妃にすることを望みます?」
「聖女殿には何も望みません。王妃になった後、遊んで暮らしていただいて結構です。仕事は周りがすればよい。」
またそれか。
「傾国させるほど散財するかもしれませんよ。私は庶民の生活に慣れていますから、傾国した後も自分だけは楽しく暮らせる自信がありますし。」
「聖女殿はそんなことなさらないでしょう。」
「なぜです?」
「今ここにその姿でいることがその証明だと思っていますよ。ドレスはお嫌いのようだ。」
そう言ってまっすぐ見つめてくる。私はため息をついた。
「さぁ、それはどうでしょう?
ただ、わかっていただきたいのは、私にとってはここはたまたま生まれた場所に過ぎ無い上、私の価値はあなたたちよりもはるか上にあるということです。
あなたたちはそれを知っていらっしゃるんでしょう?」
そう言って、今度は私がまっすぐ見つめ返す。その視線の勝負に負けたのは王だった。というか、負けも何も事実だ。私がいなければ、この世界は魔王に蹂躙されるのだから、国がどうとか言ってられない。
「・・・・・・その通りです。」
その言葉に騎士たちの動揺が伝わってくる。シュレインさんもそうだが、知らされていない人たちにはこの発言は衝撃的だろう。
「世界にたった一人の聖女が、どうして何人もいる王族より地位が下だと勘違いできるの?国なんて掃いて捨てるほどあるのよ?私にとってはこのおじさんすらも、あなたたちから見た庶民程度の価値しかないのに。」
そう言って、ずっと殺気を発している金髪碧眼の騎士を見てあげた。きれいな顔がゆがんでいる。
この人はさっき動揺していなかった。しかしこの視線だ。きっと真実を聞かされながらも半信半疑で、私を庶民出のくだらない小娘だと思っているのだろう。
その苦々しい顔を見て、シュレインさんの顔がここからは見えなくてよかったと思う。
「私は私が選んだ人しか興味がありません。あなたの息子さんも、この国も別に私が選んだわけではないことをちゃんと理解してください。今後二度と私の手を煩わせないように。
王子はちゃんとエリザベスさんと結婚させてくださいね。」
金髪ドリルちゃんの名前を思い出せた私偉い!というか、いかにも悪役令嬢な名前だったので、一発で覚えていたのだが。
私が席を立つと、金髪碧眼が動いた。でも、それは動きになれなかった。
「あえて言わせてもらうけれど、身の程をわきまえなさい。あなたたちの行動が、あなたたちの国と私の仲を割くことを忘れずに。」
そう剣に手をかけようとした姿勢で止まっている金髪碧眼に声をかけ、微動だにしていなかった騎士団長を見上げた。無表情の心は、何も読み取れない。
私は入り口付近で立っていたシュレインさんを片手でひょいと抱え上げる。
「ではごきげんよう。」
私は時の止まった部屋を振り返りもせず、立ち去ったのだった。
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