20.不穏な動き
おじーちゃん先生の治療院を手伝おうと現地に行くと、おじーちゃん先生はこちらを見るなり、渋い顔になった。
「おはようございます。あの、今日は御邪魔でしたか?」
その顔にたじろぎ、恐る恐る聞いてしまった。
「いや、すまない。違うんだ。この前姉が来てね、これを渡して欲しいって。」
そう言って、メモのような紙を渡してきた。
読んでみると、そこには衝撃的なことが書いてあった。
「これ・・・・・・。」
「ないことはないだろう。姉が凄く心配していてね。君には喜ばしくないことだろうと。」
「はい。どうしたらいいですか?」
「まず家族に話が行くだろうから、そこで断ってもらうのが一番なんだが、さすがにこんなことを断ることは難しいと思う。」
おじーちゃんが更に渋い顔になる。それが事の困難さを物語っていた。
「そうですか・・・・・・。」
「まだ正式な発表がされたわけではない。猶予はあると思う。今すぐお家へ帰りなさい。」
「すみません。ありがとうございます。」
私は荷物を持ち直し、外へ出た。シュレインさんは無言であとをついてきた。
「申し訳ないですけど、実家に帰ります。今日中には部屋に戻りますから、心配しないでください。」
「ご一緒いたします。」
「いや、特に何かがあるわけではないですから。」
「ご一緒させてください。」
横から聞こえる固い声に、私はぴたりと止まった。
「・・・・・・まぁ、そうですね。じゃぁ、お願いがあります。」
「はい。」
「これから、一旦帰ってアマンダさんを連れて生地屋まわりますよ。荷物持ち、よろしくお願いします。」
「・・・・・・はい。」
若干青ざめたの、気持ちはわかる。
アマンダさんは無敵だった。
予算と急いでいることを言うと、一軒だけ指定してくれた。
生地を選んだ後の値切り術。魔王と渡り合うといわれる聖女の私ですら、震えあがるほどだった。
「ありがとうございます。」
「また何かあったら、遠慮なく言ってくださいね。」
その満面の笑みが、歴戦の武将のごとく頼もしかった。
「ただいまー!」
私は懐かしの我が家の扉を開けた。
昼時だったのもあって、全員がそろっていた。
「あら、また帰ってきたの?」
母よ、それが第一声とは酷いじゃないか。
「え、誰?」
姉が口を大きく開けてシュレインさんを見てる。
「あ、こちらはシュレインさん。私の護衛騎士さんです。」
「うわー騎士様?!キャーいらっしゃいませ!クルトそこどいて!おにーちゃん荷物持ってあげて!」
「あんだよ、俺さやむきしてんだろ。」
クルトがぶーたれながらチラリとシュレインさんを見て、そのままさやえんどうに向き直る。昼の準備で忙しいようだ。
「荷物持ちますよ。これ、下置いていいです?」
ロルフ兄さんはシュレインさんに手を差し出している。
「あーごめん忙しい時間に来ちゃったわ。」
「いいよ。ちょっと待っててね。」
父がそう言って、椅子を二脚持ってきた。
「あ、それお土産だから。」
「まじで?やったぜ。」
荷物を受け取ったロルフ兄さんに声をかけると、にんまりと笑った。
「騎士様、ここに座ってください。あ、メリルは私の席に座っていいわよ。」
そう言って、姉のソフィアがシュレインさんを目をキラキラさせて見つめている。
ヤバイ、シュレインホルモ・・・・・・フェロモンが仕事し始めた。二脚並べた椅子の片方にシュレインさんを案内し、自分が横にちゃっかり座る気のようだ。ちなみに姉の本来の席はクルトの横だ。
「で、急にどうしたんだい?夏休みかい?」
おじいちゃんが聞いてくる。
「ううん、近くを通ったからお土産を持ってきたの。またすぐ帰るよ。」
「あらそうなの。せわしないわねぇ。」
おばあちゃんがお茶を出してくれる。
「メリルー。ご飯食べていくー?」
台所から、母の声が聞こえた。
「ううん!急に来ちゃったし、大丈夫!」
「何を言っているんだい。時間があるなら食べていきなさい。騎士様にとっては質素な食事になってしまいますが。」
「いえ、私のことはお気遣いなく。」
「そうよ!メリルご飯食べていきなさいよ!あの、私メリルの姉のソフィアです。シュレイン様はご結婚なさってるの?」
姉よ、さらっとナンパを始めるのは止めてくれないかね?しかも、直球どストレートにもほどがあるだろう。お茶を飲んでたら盛大に吹くとこだぞ。口付けてなくてよかったわ。
「シュレインさん、相手しなくていいですからね。ほら、お土産の袋!お兄ちゃん出して!ほら、姉さん!生地買ってきたから!」
「えっ!どれ?!!」
姉の目の色が変わり、お土産に食いついた。
姉だけではなく、母と祖母にも生地を買ってきたし、男衆にもそれぞれお土産を買ってきた。
アマンダさんの超級値切り術によって、全員分のお土産を買えて本当に良かった。まぁ、その分シュレインさんの荷物が増えたのだが。
結局はご飯をごちそうになってから家を出た。
「何か話があるわけではなかったのですか?」
シュレインさんが聞いてきたので、首を横に振った。
「あの様子だと知らないみたいですし。ならば、今後も知られないようにすればいいだけなので。」
そう言って、私は村から外れて森に入る。
「さて、それじゃ、結界を張りますか。」
「結界?」
「そうです。この村に、村人以外が入れないようにします。」
「・・・・・・。」
「大丈夫です。村人が招いた場合は入れますし、今まではそんなことなかったんでこれからも大丈夫ですよ。細かくは、精霊たちにお願いしておきますし。」
「そうですか。」
シュレインさんは相変わらず無表情だ。
「シュレインさんも城に報告しておいてください。聖女が村に人よけの結界を張っていると言ってたと。そして、その結界に攻撃をすると、業火に焼かれると。」
「本気ですか?」
「本気です。まぁ、大丈夫ですよ。村にもたどり着けないように周りの森に迷いの魔法もかけておきますから。」
私がにっこり微笑むと、久しぶりのクソデカため息が出た。
「ぶしつけな質問で申し訳ありませんし、言いたくないようなら言わなくてかまいませんが、何があったのか教えていただくことはできますか?」
眉間をもみほぐしながらシュレインさんが言う。
「刺繍の先生からのリークで、水面下で私と王子の婚約話が進んでいるようです。近々現婚約者さんとの婚約破棄が発表されるとのことで。」
「・・・・・・そういうことでしたか。納得いたしました。」
更に寄る眉間のしわをもみほぐしている。この人も国と私の中間に挟まれてとことん苦労する。かわいそうに。
うん、他人事☆
城に帰り、アマンダさんにも報告すると、アマンダさんも大きなため息をついた。
「破棄の発表がされる前にどうにかしないとまずいんじゃないですか?侯爵家を相手にすることにもなりますし。」
アマンダさんの言葉に、またもシュレインさんが眉間をもみほぐし始める。
「確かに、そう言われるとその通りですね。あの金髪ドリルちゃんが本気で怒ってきそうで怖いです。」
「金パ・・・・・・。」
アマンダさんが聞き返そうとしたものの、途中でやめた。もしかしたら思い至ったのかもしれない。ドリルはここでも通じるのか。
「しかし、よろしいのですか?王妃になれば、生活に苦労しませんよ。」
「どっこが!お金があろうとも、自由なんてないじゃないですか!」
その言葉に、アマンダさんも難しい顔で頷いている。
「大体、お二人とも考えてください。私がこの国の王妃になるってことは、私がこの国のトップになるんですよ?不安しかないじゃないですか!」
その言葉に想像したのか、二人が天を仰いだ。おい、めいいっぱい嫌がらないで!
「もういっそ、乗り込んだ方がいいかもしれませんね。」
「え?」
「直訴するんです!婚約などしないと!」
「おやめください。」
シュレインさんが即座に止める。
「お、シュレインさんはあっちに着くんですね。あーあ、敵だ敵だ!」
「私はこの国の騎士です。王族を護るのが一番の仕事ですから。聖女殿が本気で乗り込んだら、国が崩壊する可能性すらあるじゃないですか。」
おい、シュレインさんの中で私が魔王になってるぞ。
「何言ってるんですか!平和的に話し合いますよ。とりあえず王子をさらって、本当にそんな話があるか白状させましょう。」
「「どこが平和的なんですか!」」
アマンダさんとシュレインさんがハモった。仲よしか。
こうして、婚約断固阻止し隊の作戦が決行されることとなったのだった。強制的に。
いいね、評価、ブックマークしていただけると喜びます!




