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転生聖女は自由に生きたい  作者: 辻 壱
17/102

17.味噌汁

 信じられないようなものを見る目でギルド職員たちが私たちと蛇を交互に見ている。

 結局、倒した蛇を渡しつつ、大きいものは多分もういないことを伝え、小さいものや卵を駆除した方がいいという報告をしたのだった。


 そんな私たちを、受付をしてくれたおにーさんが魔物を見るのと同じ目で見てくる。やめていただきたい。

 そして、一人の品の良いおじ様がこちらに寄ってきた。

「ギルドマスターのオーリアです。討伐までしていただいてありがとうございます。

 今回の件についてなのですが、依頼としては討伐までが含まれていませんので報酬はそれのみになってしまうのです。

 しかし、この数を討伐していただいている以上、その討伐が偶然だとは思えませんし、私としては相当する点数の付与とランクの上昇をすべきだと思っています。あなたたちはギルドにとって必要となる人材でしょうから。

 ですが、私の一存だけでは決められないのです。これから手紙を書きますので、それを持って王都のギルドマスターに会ってください。」

「え?王都?」

「はい、王都です。そこで昇級試験を受けていただきたい。」

 Bランクになるには昇級試験が必要なのだ。

 私はシュレインさんを見上げた。無表情で何を考えているかわからない。この人王宮騎士だけど試験とか受けて大丈夫なんだろうか?



 手紙を待っている間、こそこそとシュレインさんに聞いてみる。

「どうする?試験受ける?」

「珍しい。金になるかもしれないのに、受けないつもりなのか?」

「えええ?だって、受けて大丈夫なの?」

「先に言ってはあるのだし、大丈夫だろ。高ランクの魔物退治に必要だというのなら、上げられるだけ上げておいた方が便利だと思うし。まぁ、俺の実力じゃ上がらないかもしれないな。」

 後半ちょっとした嫌味なのか自虐なのかわからなかったが、いいのなら受けておこう。

「本職廃業しても、冒険者として生きていけるかもね。」

「廃業するつもりは今のところないが。」

「どっかの小娘のせいで職を追われたりするかもよ。」

「そうしたら、責任をとってもらわないといけないな。」

 思っていた反応と違ったのでシュレインさんを見ると、うっすら笑っているようだった。


「お待たせしました。」

 ギルドマスターが封筒を渡してきた。シュレインさんが受け取り、懐に入れる。

「これからの活躍に期待します。またどこかでお会いいたしましょう。」

 そう言って、ギルドマスターはニコニコと私たちと握手をした。なかなか人懐こいおじ様である。



 間を開けて二週間後の週末に、王都のギルドへやってきていた。

 王宮騎士のシュレインさんがこんな事してていいのかと思うのだが、多分上に確認してるのだろう。と、信じておく。


 私たちはギルドの扉をくぐり、見慣れた受付のおねーさんに手紙を渡した。

 手紙の中身はわからないので、首をかしげながら奥に入っていくおねーさん。

 ほどなくして、三十代くらいの男性が、私たちを呼びに来た。


 奥に行くと応接間があり、そこに五十代くらいの茶色の隻眼に短い銀髪のおじ様が座っていた。

「ようこそ。私がここのギルドマスターのグレック・スロールドだ。誰かと思えばシュレインじゃないか。久しぶりだな。」

 シュレインさんを見ると、驚いた顔でマスターを見ている。知り合いのようだ。

「団長!ここにいらっしゃったんですか!」

「元だ。もう三年か。皆は息災か?」

「はい!団長もお元気なようで安心しました。」

「元だ。それで、そちらが妹君か。」

 シュレインさんが全力でしっぽを振ってるように見えると思っていたら話を振られ、びくりと肩を震わせてしまった。

「初めまして。メリルと申します。」

「お前にこんなかわいらしい妹がいるとは思わなかったが。それに、騎士はどうしたんだ?」

 私をしげしげと見るギルドマスターに戸惑い、シュレインさんに視線をやると、シュレインさんも眉毛をハの字にしている。

「あの、話してもよろしいですか?」

 そっと耳打ちするシュレインさんに、仕方ないと思って頷いた。口ぶりから元騎士団長なのだろうし、シュレインさんがなつくくらいだから信頼できるだろう。

「実は・・・・・・。」



 私たちが何者なのかをざっくりと説明すると、マスターは苦笑した。

「ベルネストがこんなことを許可をするとは。奴も歳をとったか。」

「聖女殿が規格外すぎるんです。」

 さりげなくディスるシュレインさんを半目で睨むが、ちっともこちらに目線をくれない。

「昇級テストは色々あるんだが、お前なら試験無しでもいいだろう。」

「いえ、それが・・・・・・。」

 シュレインさんが目を伏せる。

「どうした?」

「私はオークを一体倒しただけなのです。他はすべて聖女殿が。ですから、私が昇級に値するとは思えません。」

 点数はPTで等分されてしまうので、ブースティング(自分の実力より上のランクに、他者の力を使って引きあげてもらうこと)ができてしまうのだ。それでシュレインさんはいじけていたのだろう。今後はちゃんと働いてもらおう。

「ふむ、ならば、久しぶりに手合わせしようか。」

 そう言われ、シュレインさんがバッと顔を上げる。その表情が、ぱああといわんばかりに輝いているのが怖い。シュレインさんてこんなキャラだったの????


「三年だ。強くなっただろうな?」

「・・・・・・全力で行かせていただきます。」

 そう言うと、男二人はスクっと立ち上がり、私にかまわず部屋を出ていこうとする。


 何この展開。

 もはや目の前の戦いに全てを持っていかれているようなので、あほらしく感じた私は部屋でお茶を飲んで待つことにしたのだった。



 三十分後、何やらキャイキャイとしている男たちの声が聞こえてきた。帰ってきたようだ。

「辞められる必要はなかったじゃないですか。どうして・・・・・・。」

「後発に席を譲るのも大切なんだよ。と言って、ここでトップやってるんだから説得力がないがな。」

「団長が・・・・・・。」


 椅子に座ってもまだキャイキャイしているので、半目でお茶菓子に出してもらったクッキーをかじる。なんなんこの人たち。

「今年の大会は行けそうか?」

「強くなったのは私だけではないですから、そう簡単にはいきません。」

「若い内に追い抜かないと、一生そのままだぞ。」

「耳が痛いです。」

 おーい、私もいるんだぞー。とか思っていたのが通じたのか、マスターの方がこちらを向く。


「で、お嬢ちゃんは昇級テストは無しでいいか?」

 聖女だとばらしたら、なぜかお嬢ちゃん呼びになった。

「はぁ。無しでいいなら無しがいいです。」

「聖女殿は、私ごときでは歯が立たないくらいですから。」

 シュレインさんが私を化け物みたいに言うのだが?

「はは。戦ってみたいな。」

 そういうマスターの目が笑ってないのが怖いんですけど。

「私はか弱いのでやめておきます。」

「か弱かったら昇級させられないだろう!だが、シュレインがこういうのだし、無しでいいさ。」

 シュレインさんの信頼のおかげで、何やらテストをパスしたようだ。やっぱり信用のある大人といると便利である。


「お前がここに来るくらいだから、上には許可はもらってるんだろう?だが、身分登録が必要だし、有事の時は招集がかかるが良いか?もちろんお前は騎士団の方での遠征があったらそちらを優先していいが。」

「はい。大丈夫です。ですが、聖女殿は・・・・・・。」

 そう言って私の方を見るのだが、見られても困る。

「お嬢ちゃんは聖女ではなく、村娘として登録しておこう。」

「ありがとうございます。よろしくお願いいたします。」

 なぜかシュレインさんがお礼を言う。勝手に話が進んでいるようだが、まぁ良いか。



 近場の討伐依頼は特に気になるものはなかったようで、お城に帰ってきた。

「シュレインさんがギルドマスターと知り合いで楽できました。元騎士団長なんですか?」

「はい。とても強い方で尊敬しています。魔物との戦闘で片目と肺をやられてしまってお辞めになったのですが、あの時と変わらず強かったです。」

 後半うっとりしてるの怖い。

「大好きなんですねぇ。」

「尊敬しているんです。本当に強いのに誰にでも気さくで、新人の私たちにも直に指導をくださっていました。」

「今の団長は違うんです?」

「いや・・・・・・。いえ、そうですね。新人には特には。そういう機会があったら新人もやる気を出すと思うのですが・・・・・・。」

 うーん、シュレインさんがこんな風に言うとは。ちょっとしか見ていないけれど、確かにギルドマスターよりは堅物なイメージだった。

「大人は大変ですねぇ。」

「聖女殿は大人になっても気楽にやってそうですけれどね。」

 言うようになったなぁ。そう思っていたところ、ノックが響く。


「あ!来ました!」

 そう言ってアマンダさんが扉の所に行くと、外にワゴンを押したメイドさんがいた。

 扉を開けた時に、懐かしいにおいがする。

「嘘!味噌汁?!」

「はい!材料が届いたので、作ってもらったんです。」

 そう言ってワゴンを受け取り、テーブルに並べる。

 私はその周りをちょろちょろとし、懐かしの味噌汁がスープ皿に盛られてるのを見て、ケラケラと笑った。


「え?何か変ですか?」

 私が変な笑い方をしたので、アマンダさんが不安がる。

「ううん。みそ汁は深い器に入れるのが普通だから、笑っただけ。」

 懐かしの汁を見ながらそう言うと、アマンダさんが眉毛を下げた。

「あ、あ、別にこれでもいいんだよ!いつも本当にありがとうございます!」

 そう言って、アマンダさんに抱き着いた。

「配膳してますし、危ないですよぉ。」

 アマンダさんはそう言いながらも、口調は柔らかい。なので、もう少し力を入れてみる。

「ちょ、ちょっと、聖女様?」

 アマンダさんの戸惑いに、さらに力を入れる。

「サバ折り~~~~!」

「ぎゃああ!」

「聖女殿?!」

「あ、ハルドリック様、大丈夫です。ノっただけですよ。」

 アマンダさんがノリ良く叫んでくれたのが、シュレインさんから見ると本気でやったと取られたのだろう。ゴリラだとでも思ってるんじゃないだろうか?



 この国だと、器に直接口をつけるのはカップくらいしかないので、味噌汁をスプーンですくって食べることになった。

「うーん、これだと何となく味噌汁の本領を発揮してない気がしますね。」

「こういうものではないんですか?」

「いや、この国のマナー的に、多分味噌汁は受け入れられない気がします。」

 そう、器に直接口をつけ、何なら熱々の汁をズズズと音をたてて飲んだりするのだ。これは二人の前でやったらビックリされるだろう。

「でも、味はこれです!むしろおいしいです!」

 インスタントやらだし入りみそで作ってた味噌汁より、これはちゃんとかつお節から出汁をとってくれているのだろう、上品なおいしさがあった。

「というか、日本人以外はうまみというのを感じないって聞いた気がするんだけど、そんなことないんですね。」

 そうつぶやくと、二人は???という顔をする。

「いや、こちらの話です。」

 そう言ってもう一口味噌汁をのんだ。


 私はこの世界がどういう世界なのかわからないのだけれど、やっぱりゲームか小説かの世界に入ったような気がする。

 日本の一般的なファンタジー観が反映されている。王都は上下水がちゃんとしているし、本当の中世ヨーロッパのような生活ではない。

 なのに貴族やドレスが定着していて、だからといって独裁政権でもなく、ほど良い豊かさがある。

 一般的なそういうゲームのあるある世界なのだ。


 そして、どこかには絶対ある日本食。

 正直、自分で初めから作るには米だけでも、イネ科の植物を見つけ、品種改良をするとこからだとすれば、その知識があったとしても数十年かかるだろう。

 稲作を定着させるには、適した地域に広範囲に田園をこしらえなければいけないし、与える肥料や作業も簡単にはいかない。


 実は、こちらの世界で一度米を作れないかと田んぼもどきを作ったことがあった。稲はパケマネに出してもらった。

 しかし、うまく育てられなかった。想像以上に稲作は難しい。そして、何よりも辛かったのは、広さに対しての収穫量の少なさだ。

 一年に一回の収穫と考えると、年中通して米食をするには結構な広さが必要になる。私一人だけのために、その広さを占有することができなかった。

 それに、他国の植物を植えるのはリスクがある。花粉の管理なんかをするために、かなり気を使うことになる。

 そのため、どうしても精霊の助けがかなり必要になってしまうのだ。私がコショウなんかのスパイスを村で作らなかったのもここら辺に理由がある。

 諦めるべきだと判断し、私は稲作を封印した。


 調味料も簡単には作れないだろう。それに、私にはその知識がない。醤油と味噌は大豆から作るくらいのものだ。麹菌なんてどっから持ってくるのか全く分からない。

 鰹節ってカビさせるんだっけ?てなもんだ。

 この世界がどっかの日本産ファンタジーでなければ、私は今こうしてスプーンで味噌汁をすくうこともなかっただろう。

「アマンダさんとこの世界に感謝いたします。」

 私がそう言うと、二人は苦笑していた。



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