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転生聖女は自由に生きたい  作者: 辻 壱
13/102

13.足枷

 私はギルドの掲示板を見ていた。

 お弁当を持たせてもらえたので、今日も遠征ができるだろう。

 正直、どれがどんな魔物なのかわからないので、シュレインさんの意見を聞こうと思い、横に立つシュレインさんを見上げると、シュレインさんが眉をひそめて掲示板を凝視していた。

「何か気になる事でもあるの?」

「今までの傾向が分からないので、これが普通かわからないのですが・・・・・・。」

「口調口調!」

 よほどそのことに意識をとられているのか、いつも通りの口調になってるので、つつきながら指摘した。


「あ、すまん。えっと、やたらゴブリンの依頼がないか?」

 そう言われて掲示板を見ると、確かにゴブリンの討伐依頼が五件出ている。しかも、全て王都の横の森が依頼地だ。

「増えてるのかな?」

 小学生並みの感想をつぶやいたが、その言葉にまた眉をひそめるシュレインさん。

「やはりそう思うよな。近くで悪いが、今日はこれを受けてもいいか?」

「もちろん。五件もあるし、全部やったらいい時間になるかもね。あ、薬草採取もやっていい?」

「あぁ。」

 私たちは依頼をはがし、おねーさんに持っていく。


「お願いします!」

「はい。えっと、薬草の採取とゴブリン退治ですね。カードお願いします。」

 私が話しかけたのに、シュレインさんを見て返事するのやめてもらってもいいですかね?若干傷つくぞ。


「あの、ゴブリン退治はいつもこんなに出ているのですか?」

「え、あ、ゴブリン退治は常にあるんですが、最近は森の凄く浅いところにも出現するようになってしまったんで増やしています。

 あと、森の奥で大きなゴブリンを見たといううわさがあって・・・・・・。」

「!」

 シュレインさんが前のめりになった。

「それは城に報告しているのですか?」

「いえ、まだ確証がないのです。王都の森に出るゴブリンは、本来奥地にいて数も少ないとされています。ただ、森の奥地は危険な魔物もいることがあるので、ゴブリン退治をするような初心者の冒険者は受けることがほぼありませんし、奥地に行く中級者はゴブリンを気にかけないので、本当にちらっと見えた気がするくらいのうわさなんです。」

「本当にいたら大変なことになるが・・・・・・。」

「はい。ですので、とりあえず数を減らすためにゴブリン退治がこれだけ出てるんです。今はゴブリンの数を減らしつつ、ギルドの有志で奥地の探索を週末にする予定になっています。」

「そうですか。ありがとう。」

「は、はい。」

 おねーさん、顔がとろけてますよ・・・・・・。



 ギルドを出ると、シュレインさんが立ち止まった。

「聖女殿、今日はお帰り願えませんか?」

「え?」

「私は森に行き、ゴブリンの様子を見てきます。聖女殿にお使いをさせて申し訳ないのですが、兵にそのことを伝え、数名人をよこしていただきたい。お願いできませんか?」

「そんなにまずいの?」

「多分、倒されていなかったゴブリンたちが森の奥で増えて、上位種が生まれているのではないかと思います。

 そうなると、集団で狩りを始めますし、人里に出て町や村を襲い始めるんです。

 王都から近いために人が多くいますし、万が一王都に攻めてきたら大変なことになりますから、早急に調べなくては。」

「週末にギルドが見に行くっていうけど。」

「状況によってはそれでは遅いでしょう。それに、これは我々騎士がやるべきです。」

「わかった。」

「では、伝令をお願いいたします。」

「いやよ。一緒に行く。」

「聖女殿の強さはわかっています。けれど、連れて行くわけにはいきません。その・・・・・・ゴブリンは若い女性が好きなのです。」

 あ、そういう感じなのね。

「それに、馬を連れて行かずに行こうと思います。森につないで離れてしまうと、殺されてしまうかもしれません。森から離れたところにつないだとしても、それに誘われて森から出てきたら厄介ですし。」

「わかった。じゃぁ、早く移動しなくちゃ。これは内緒ね。」

「は?」

 私は周囲に人がいないのを確認すると、シュレインさんを連れて森に転移した。



「こんなことまで・・・・・・。」

 自分の置かれた状況を素早く飲み込み、眉間に手を当てるシュレインさん。

「おほほほほ。で、のっぴきならないのはわかったから、さっさと奥に行こう。」

「駄目です。聖女殿はこんなことができるならすぐにでも兵士を連れてきてください。」

「でも、今倒した方がいいんでしょ?もしかして、シュレインさんでも勝てないかもしれない?」

「・・・・・・ゴブリン自体は脅威ではありません。ですが、ゴブリンはたまに組織を作ります。そうすると、組織の中に上位種が生まれるんです。

 組織だって動かれた上に数がいれば、私一人では難しくなってきます。

 それに、上位種にはいくつか種類があって、ゴブリンの最上位種になれば一人では全く歯が立ちません。もちろんその周りにもゴブリンや上位種が多数いるので、騎士側も討伐隊を組織しなくてはいけないのです。」


「じゃぁ、今はとりあえずの斥候って感じ?」

「そうですね。本当に上位種がいるのかの確認だけでもしたいです。」

「知るだけでいいなら、索敵魔法やるけど。それなら私も安全でしょう?」

「そういえばそんなのがありましたね。・・・・・・では、すみませんがお願いできますか?」

「うん!じゃぁ、感覚を共有するから手を握らせて。オークは見た後だったからできたけど、私はゴブリンを見たことが無いからどれがどれだかわからないの。だからシュレインさんが判断して。とりあえず、どの程度の大きさ?」

「ゴブリンは一メートル二十センチぐらいが平均的な亜人種です。」

「わかった。一メートル以下の生物は省くわ。目をつむった方がいいよ。気持ち悪くなったら言ってね。」


 私は索敵魔法を放つ。シュレインさんの握った手がピクリと動いた。

 索敵範囲をどんどん広げていくと、索敵に反応がある生物の中に小人のような姿を見つけた。まぁ、よく見るゲームに出てくるゴブリンだった。

「これ?」

「そうです。単体ですね。」

「これでゴブリンだけ索敵できるから、範囲を一気に広げるよ。」

 森の奥へ向けて、かなりのスピードでゴブリンを索敵する。すると、ちらほらといたのが、だんだんと複数になり、やがて・・・・・・。


「森の奥で村のようになっているようですね。これはまだよくあるともいえます。ただ、それがいくつか点在してますね。これはまずい。」

「シュレインさん。今見えてるのはゴブリンだけなの。上位種は含まれてない。だから、その村のようになってる場所に絞ってゴブリン以外も索敵するよ?」

「わかりました。」

 シュレインさんが目を閉じたので、一つの村を調べてみる。すると、明らかに大きめになっているものが三体いた。シュレインさんの手に力が入る。

「ゴブリンナイト二体とゴブリンメイジですね。メイジまでいるとは。」

「メイジっていうからには魔法唱えるの?」

「そうです。魔法よりも知能の高さが厄介なんです。多分この村のリーダーがメイジですね。」

「じゃぁ、他の村も見てみよう。」

「お願いします。」


 結果はまずいものだった。

 村が五か所できており、その全てにナイトがいた。メイジは一体だけだったが、村の一つにオオカミを飼っていると見れるものがあったのだ。

「これはもう放ってはおけません。すぐに討伐隊を組織しなくては。聖女殿、本当に申し訳ありませんが、今日はこのまま帰らせていただきたい。」

「わかった。」

「依頼を放棄する形になってすみません。」

「それくらいまずいんでしょ?」

「はい。王都を護らねば。」

「じゃぁ帰りましょう。明日にやったっていいんだし。」

「ありがとうございます。」

 私は笑って自室に転移した。



 それからシュレインさんは忙しくなった。

 私はそっとギルドへ行って馬を引き取った。

 受付のおねーさんには、今日はできなかったと報告したのだが、その途中で騎士が来てゴブリン討伐隊編成の報告がギルドに入った。シュレインさんが素早くやることをやっているのだろう。


 今回の事で、シュレインさんは私にゴブリンを倒させなかった。

 オークのことを思えば、あのまま奥に行って私が殲滅できないか聞くこともできただろう。でも、彼はそうしなかった。自分たち騎士こそが国民のために働くという姿勢を見せられてしまった。


「私とアホなことしてる姿しか知らないけれど、やっぱりかなりできる騎士なんですねぇ。」

 そうアマンダさんに言えば、アマンダさんは若干怒ったように言い返してきた。

「そうですよ!第一部隊といったら国の最強の騎士ですからね。強さだけじゃなくて、頭もよくないとなれませんから。あの歳で各部隊の隊長並みに強いんですよ。」

 何やら詳しいと思ったら、年に一度武闘大会が行われるとのこと。の割にはギルドのおねーさんたちにバレなかったな。


「そりゃそうですよ。会場すごく広いですもん。顔が見える距離なんて、庶民じゃいけませんよ。」

 上位は第一部隊で占められているそうなのだが、シュレインさんは五位入賞までには入れていないようだ。なかなかに厳しい。しかも今はプラプラと小娘と遊んでるようなものだろうから、今年も絶望的だろう。かわいそうなシュレインさん。

「でも、今回の事はお手柄なんじゃないですかね。」

 アマンダさんがにっこりするので、私もにっこりした。



 そう話していると、扉がノックされた。話題のシュレインさんだ。

「あれ、どうしたんです?もしかして私も何か話した方がいい感じですか?」

「いえ、隊長に引き継いだので、私はここまでです。」

「え?!」

 なんてこった。お手柄どころか蚊帳の外に追い出されているではないか。


「シュレインさんが調べたのにシュレインさんは行かないんですか?」

「私は聖女殿の護衛が最優先ですから。」

「そんなこと聞いてませんよ。悔しくないかって話ですよ!」

 アマンダさんも頷いている。

「そのような感情はありません。命令に従うだけです。」

 シュレインさんは無表情で答える。いつも通りなので本心かもしれない、でも、私が嫌だった。

「はー??せっかく見つけたのに手柄をかっ攫われる?やってらんね。小遣い稼ぎしときゃ良かったわー。知ってる?国が動いたから、ギルドのゴブリン依頼取り下げられたんだからね!今日やっときゃお金になったのに!」

「・・・・・・それは申し訳ありません。」

「違うよ。そういうのが聞きたいんじゃないよ。」

「・・・・・・。」


「一緒に作戦に参加しましょう。これだよ!」


「え。」

 これはアマンダさんの声。アマンダさん、アホの子を見る顔になるのやめてください。

「聖女殿を危険にさらすわけにはいきません。」

「はー舐められてるわー。ゴブリンごときが危険とか舐められすぎちゃってるわー。」

「聖女殿がどんなに強くてもです。かすり傷一つつけるわけにはいきませんから。」

「ふーん。じゃぁ勝手に行くからいいでーす。薬草摘みしてたらうっかりゴブリン村に行きついちゃうからいいでーす!」

「今回は駄目です。」

「・・・・・・シュレインさんが作戦にちゃんと組み込まれてたらここで待ってたよ?でも、ハブられてるじゃん。それって私がいるからじゃん。そんなの絶対やだ。だって、シュレインさんは国民を守るために騎士として動いてたじゃん。隣にいたからすごく焦ってたのもわかったし。」


 そう言ってたら、なんか泣けてきた。私は今、この人の足枷になってるんだ。

 いや、わかってたよ。わかってたんだけど、泣けてきちゃったのだ。


「私は私のやりたいことをさせてもらってる。だから、シュレインさんにもシュレインさんが本当にやりたいことをやって欲しい。シュレインさんがやりたいことって騎士としての仕事でしょ?私のお守りなんかじゃないじゃん!それに、手柄だって立てて欲しいよ。」

 みっともなくボロボロ泣きながらになってしまったけど、これが本心なのだ。

 アマンダさんが優しく背中をさすってくれる。

「・・・・・・ありがとうございます。でも、私は聖女殿とここにいます。」

 わかってた。頑固すぎ。

「バーカバーカ!」

「え?」

 私は部屋を飛び出した。



 索敵をする。騎士たちが集まっているとこはあっちか。

 まっすぐそちらに走る。途中何人かに止められそうになったけど、私を捕まえられる人間はいない。


「その作戦、許さない!」

 私はそう叫びつつ、多分作戦会議真っただ中の部屋に突っ込んでいった。


 中にいた人が一斉にこちらを見る。

「シュレインさんも連れてって!」

 要点だけ簡潔に伝える。すると、もう絶対この人が騎士団長って感じのおじ様がこちらに歩いてきた。

「これは聖女様。今回の件はご助力をいただいたそうで、ありがとうございます。シュレインですが、大切な任務がありますゆえ、この作戦には連れて行けないのです。」

「私も行く。」

「それはできません。」

「なら今行ってくる。シュレインさんと二人で倒してくる。」

 私は踵を返した。

「お待ちください。」

 騎士団長が静かにだけれど、かなりの威圧を放って呼び止める。でも、どんなに偉くて強そうな人でも、私から見たらただの知らないおっさんだ。ひるんでなるものか。

「あなたたちは勝手にあなたたちの作戦を立てているのだから、私だって私が勝手に作戦を立ててもいいでしょう?やることは一緒だし、民の為にもなるわ。」


 そのタイミングで、シュレインさんも追いついてきた。息が切れてる。

「団長、聖女殿を止められず申し訳ありません。」

 第一声がそれか!くっそー。

「シュレイン、聖女様を部屋へ送りなさい。」

「はい。さ、行きましょう。」

「嫌!シュレインさんが気が付いてシュレインさんが調べたのに、シュレインさんが行けないなんておかしいじゃない。シュレインさんが良くても、私が嫌なの!」

 私は涙目でシュレインさんをにらみ上げた。

 シュレインさんはそんな私を困ったように見、目線を合わせるようにかがんだ。


「聖女殿、確かに私が報告したことではあります。ですが、それを然るべき者が然るべき対応を取る。それが自分ではなくとも、作戦が成功すればいいのです。組織というものはそういうものなのです。自分に与えられた役をきちんと果たすことが重要なのです。誰の手柄ではない。皆の力を合わせて成したことが皆の成果なのです。」

 そう言う声がものすごく優しいのが癇に障る。子ども扱いするなとぶん殴ってやりたくなった。誰のためにこんなに怒ってるのかと。


 でも、体は意志とは関係なく、シュレインさんの首に抱き着いていた。


 声をかみ殺して泣く私の頭をなでて、耳元で「ありがとう。」と呟くと、シュレインさんは私を抱え上げた。

「失礼いたします。」

 そう言ったシュレインさんの声の後、会議室の扉は閉じられた。



 私は百五十センチくらい背がある。そんな私を首からぶら下げるように抱えてすたすたと歩くシュレインさん。

 はたから見れば、奇妙な二人だっただろう。シュレインさんが騎士でなければ捕まってたね。

 部屋までは結構な距離があったため途中で泣き止み、私はシュレインさんの首からはがれた。


 その後はどちらも口を開こうとはしなかった。


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― 新着の感想 ―
わぁァァァ、むりむりむりむり一緒にないてる シュレインさんもカッコよすぎる
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