11.遠征
私たちは馬で二時間かけて、依頼主の村までやってきた。
「本当は国に頼んだんですがね、ここはオークの生息地じゃないからとギルドに回されてしまって。でも、本当にいるんですよ!」
そう言いながら、村長はしきりに汗をぬぐっている。シュレインフェロモンにやられているのかもしれない。アッー。
「それは大変失礼いたしました。さっそく調査に出ますので、見かけた場所を教えていただけますか?」
シュレインさん、騎士の顔になってるけども・・・・・・。我々冒険者。オーケー?
そのシュレインさんの堂々たる騎士オーラも手伝ってか、男性一人と明らかなるお荷物の少女二人だけなのにオークの居場所に連れて行ってもらえた。
いや、誰でもいいからどうにかしてほしかっただけかもしれないが。
「城の兵士さんは何やってんですか。こんな村オークが三匹もいたら壊滅しますよ。」
因みにここまで言っておいてなんだが、私はオークの強さを知らない。報酬の高さとノリでここまで来ました。はい。
「それについては言い訳もできません。本当にいたら大変なことです。」
どうやら本当に壊滅しそうな感じである。
「そういえば、聖女殿は武器をお持ちなのですか?」
「いいえ?」
「・・・・・・。」
「あ、今全部やらせるつもりだな?って思いましたね?!違いますよ!私は武器はもってませんけど、普通に魔法で戦いますし、何なら魔法で武器作れますし!ライトなセイバーみたいなの出せるんですからね!」
最後のは通じない。
「そんなこと思っていませんよ。なのになんで退治クエストなど・・・・・・しかもオークだなんて。」
また眉間をほぐしながらクソデカため息をついている。きっと眼鏡で目が疲れているんだろう。
「で、シュレインさん的にはオーク三匹って倒せる感じです?」
「倒せないようでしたら受ける前にぶん殴ってでも止めてますよ。倒せても止めるべきでしたが。」
「んじゃ問題ないですよ。私後衛になりますねー。後ろは任せてください。さーレッツラゴー。」
案内された先には、洞窟がある。この中に入っていくのを何度も確認したそうなので、間違いなさそうだ。
「確かに足跡や匂いがありますね。」
「くっさ。無理。私の周りに浄化まほーう。しょうがないからシュレインさんにも浄化まほーう。」
周囲五十センチに浄化魔法をまとう。これで臭いや毒霧を防げる。ついでにこちらの匂いも消せる。治療院でそっとかけたアレだ。ちなみに、おじいちゃんもかけてた。ですよねー!
「意外に役立ちますね。」
「辛辣ぅ。」
そう話しながら洞窟を覗くと、浅いようで奥にほんのりと光が見えている。
足元を照らす明かりを出し、奥に進む。私は二人に守護魔法と肉体強化魔法をかける。無詠唱ではあるが、シュレインさんがこちらをチラリと見たので、かけられたのに気が付いたようだ。
明かりの範囲まで来たので、ちらりと奥を覗くと、一匹がこちらに背を見せて座っているのが分かる。
その背中の大きさを見るに、かなりの巨体だ。下手すると二メートル半くらいありそうだ。
よく見ると、奥にもう一匹寝転んでいる。どちらもこちらに気が付いていないので、さっくり殺ることにした。
「ほい!」
そうつぶやくと、座っている方の首がごとりと落ちる。
横のシュレインさんがこちらを見ているが知らん。奥の寝転んでいる方は頭が見えないので、胸のあたりを切断した。断末魔の声すらなく天に昇れたようだ。安らかに。
「あと一匹ですね。」
「私は必要ないみたいですね。」
「何言ってるんですか。さっさと奥調べてきてくださいよ。シュレインさんはデコイ役ですからね。」
シュレインさんはそう言われ、半目になりながら奥を見に行く。死角になっている場所も見るが、どうやら居ないようで首を振っている。
ということは、外にいるのだろう。我々は洞窟を出た。
「うーん、仕方ないから索敵魔法をかけますかー。」
「初めからそれをやっていればよかったのでは?」
「いやいや、やっぱりドッキリビックリがあった方が楽しいじゃないですか。最初から敵がどこにいるかわかるなんてダメですよ。」
まぁこの魔法、何を探すか指定しないと虫から生き物全部引っかかるんで、何も知らない状態ではできないんだよね。
索敵魔法で範囲を広げていくと、程ない川辺にいることが分かった。どうやらこちらへ向かい始めている。
我々も近づいていくと、変な動きになった。
「うーん、気が付かれた気がしますね。迂回し始めました。」
「遮断しているから忘れていましたが、洞窟から血の匂いが行ったのかもしれませんね。」
「くさかった方が良かったですか?」
「このままでいいです。」
「でしょー。」
そう言いながら、やや回り込むルートを取る。
しかし、ここは森の中。視界では見えずとも音がしてしまう。
「完全に気づかれました。こちらを警戒して止まっています。」
「便利ですね、その魔法。」
口調が軽いので、シュレインさんも余裕そうだ。
「十時方向十メートルです。」
数メートル移動すると、開けた場所に出た。そして、その中央からこちらへ向かって突進してきているオークの姿が見えた。視界の良い場所で待ち伏せていたのだ。
索敵魔法でわかっていたので、私はスッとその進路からずれるが、シュレインさんはそのまままっすぐ対峙する。
シュレインさんはこん棒を振り下ろすオークの攻撃をぎりぎりでかわし、そのままオークを斬りつけた。
私の胴体ほどの太さのオークの左腕がボトリと落ちた。悲鳴のような雄たけびを上げ、オークのこん棒が周辺を薙ぎ払う。
姿勢を低くしてそれをよけた後、シュレインさんが剣を突き上げる。
その剣はオークの首を貫通していた。お見事。
「めっちゃ強いじゃないですか。」
「聖女殿に言われたくないです。この凄い強化魔法なんなんですか。自分を制御するのが逆に難しい。
しかし、オークが本当にいましたね。申し訳ありませんが、これは報告しなければなりません。」
降りかかる血が浄化魔法によって、シュレインさんに到達する前に消えていく。
それに気を散らさず見つめてくる真剣な眼差しに、今度は私がため息をつく羽目になった。
「仕方ないですね。冒険者的には儲け口が増えていいですけれど、国民が国に助けを求められないのは困りますしね。私も村出身ですから、他人事ではないです。」
「すみません。」
そう言って頭を下げるが、表情は柔らかい。
「・・・・・・本当に便利ですね。」
今気が付いたとばかりに、全く汚れることが無かった体を見ている。
そんな姿が何だかおかしくて、私は苦笑するのだった。
オークの死骸は村長の確認後、私の魔法で燃やした。
ラノベでは豚肉換算できるという話もある気がしたが、食べるようなものではないらしい。
まぁ、人型の生物を食肉と考えるって、ヤバイ思考だと思うからそれでいい。
依頼書に村長のサインとハンコを押してもらい、王都のギルドへ帰る。
「ご無事で何よりです!」
何やら受付におねー様たちがいっぱいいる。汚れもなく、依頼完了の書類を提出するイケメンに群がってきている。
そんな様子を少し離れたところでぼんやりと見ている。
「しまったなー・・・・・・。」
「何が?」
私の小さなつぶやきをシュレインさんは聞き逃さなかった。あの黄色い声の中からよく聞きつけたものだ。
「いやぁ、せっかく森に行ったんだから、ついでに薬草採取もすればよかった。」
そう聞いて、あきれ顔になっている。
「お金大事。それに、採取なら危なくないでしょ。」
「お前はオークがいても危なくなさそうだが。」
「はは。・・・・・・まぁ、こんな感じでやっていきたいんだけど、止められるかな?」
「どうなるかは分からない。」
「言い訳を考えたんだけどさ、あそこって普段オークがいる場所じゃないんでしょ?」
「そうだな。王都の周辺は魔物が少なくて平和なんだ。そうじゃなければ国の中枢を置かないだろ?」
そりゃそうだ。
「場所によってはそうとも言えないが、あの周辺でいうならもう一時間離れたぐらいから見かけることもあるかもしれない。そんな感じだ。」
「あのさ、そういう依頼が他にもないか聞いてみて。私よりおにーちゃんが聞いた方が情報が出そうよ。」
そう言ってカウンターを見ると、おねー様方がまだこちらをチラチラ見ている。
シュレインさんは若干ひるみながらも、頷いてカウンターへと向かう。それに吸い寄せられるようにおねー様方がふらふらと集まってくる。
何だろう、水槽にエサをやる時に魚が寄ってくる時に似ているな・・・・・・と思った。
「どうしてわかったんですか?」
部屋に帰ってきて、いつも通り三人でお茶をしている。
「まぁ、色々とね。」
予想通り、魔物の出現が若干乱れているようだ。それを私が言い当てたので、シュレインさんはいぶかしんでいる。
いよいよ魔王の復活が近づいてきているのだろう。ここが何かしらの乙女ゲームの世界ならば、卒業前後にそんなイベントが発生するに違いない。でも、それを言うわけにはいかない。
「このこと、できたら王様に言って欲しいの。聖女は危惧して周辺を見回りに行きたいと言っているとでも言って。」
「・・・・・・本当に危惧していらっしゃったのですか?」
目が鋭いので、そうと知ってて隠していたのではないかと疑っているのだろう。
「まさか。本当にたまたまなんだけど、便乗したい。お金大事。あ、もう秘密がなくなったから、契約魔法解除しとくね。」
乗りたい、このビッグウェーブに。公然と金稼ぎをしたい。
「あ、騎士たちと一緒にとか言い出したら、聖女が直に話があるって言っといて。ギルド経由で金稼ぎできないなら断らないといけないんで。その時は私はこの国に手を貸さないからね。」
そう言うと、シュレインさんはいつも通り眉間に手を当てクソデカため息をついている。眼精疲労に効くというブルーベリーはこの世界にもあるのかな?
私はそんなことを思いつつ、お茶をおいしくいただくのだった。はー他人事☆
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