102:私は自由
これで完結です。
102話おつきあいくださってありがとうございました。
短い新シリーズも考えているので、フォローいただけると嬉しいです。
「最後に会ったのは、おじーちゃん先生のお葬式か……。」
「そうですね。」
今から二年前、残念なことにおじーちゃん先生ことクリストハルト・ゲルステンビュッテル伯爵が亡くなった。
ギリギリまで診療所で働いていたらしい。倒れた時に呼ばれたので会いに行けた。
今までのお礼と今後の話をちょっとした。
「君なら大丈夫。自由に生きなさい。」
そう言って、にっこりと笑ってくれた。
老衰だった。こればっかりは私の魔法でもどうにもならない。
そもそも、病気やケガならおじーちゃん先生自身で治せるからね。
おばーちゃん先生は、弟が先に逝ったのを嘆いた。その隣には初めて見る旦那さんがいて、聞いていたよりも破天荒なイメージはなく、とても精悍な老人だった。
きっと支えてくれているだろう。
「ギルドも代替わりがありました。」
「えっ?!ギルマス辞めたの?!」
「はい。あの葬儀の数か月後ですかね。自分たちの時代は終わったと。」
「サブマスがギルマスに?」
「いいえ。サブマスターは他国のどこかへサブマスターとして移動すると言っていました。」
そうやってギルドそのものを支える形なのだろう。まぁ、歳をとらないから長い時間一か所にとどまれないのもあるだろうが。
「ギルマスは今はどうしているの?」
「王都で奥さんと悠々自適に過ごしていますよ。息子さんは城で文官をしていますし、娘さんも奥様側の実家を継いで王都で食堂やってますし。」
あ、結婚してたの。
「シュレインさんは?第三部隊で各地をまわってるの?」
「それが……。」
なんと、シュレインさんは第一部隊に戻っているそう。
「今は副団長の補佐をしています。」
「ほーん。じゃぁ、次期副団長とかそんな感じ?。」
「いえ、そういうわけではないです。」
「えー?なのになんで?」
「副団長に指名されて戻ったんです。で、副団長の仕事をほぼやっていますよ。」
「丸投げされてるの?副団長って知らないけど、そんな人だったんだ?」
「今は前の副団長が団長になっていて、今の副団長はロイエンタール様がやっています。」
「待って?なんか聞いたことある気がしないでもない。」
「エリザベス皇太子妃殿下の兄上です。」
それを聞いて、うわぁって顔になってしまった。あ、ドリルちゃんたちも結婚したそうです。
「絶対いびられてるでしょ?」
「そんなことはありませんよ。まぁ、少しは嫌味も言われますが、副団長はエリザベス皇太子妃殿下につきっきりですので。」
無表情だが、絶対ピキッてるわこれ。つきっきりっていうか、さぼってるんだろうなーって想像がつく。
「ディアは今、第二部隊で副隊長していますよ。」
「えっ?!聞いてない!っていうか、騎士になってるの?!」
「そう、言っていないんですね。」
「誰も教えてくれないよー!お葬式の時だってちょうどこっちも忙しくて話せなかったしさー。」
「あれから、まぁ、色々ありまして……。」
そう言って語ってくれたのは、兵士だったディアを騎士に推薦したことから始まる。
しかも、それは私たちが出ていく前だったというのだ。
「しかし、当然それは受け入れられませんでした。出自が問題でした。」
「まぁ、そうだよねぇ。」
「なので、父に話して我が家の養子にすることにしたんです。」
「え……。」
シュレインさん、そんなことまでしたの?
「もちろん簡単には受け入れられませんでした、しかし……実は、聖女殿がいた頃から爵位の授与を打診されていたのです。」
「えええ??」
「以前、ソフィアさんを襲った伯爵家の者がいたのを覚えていますか?」
「もちろん。」
「あの後、当然しかるべき対処がされ、その領地が宙に浮いたんです。それで、私が止めたことになっているのと、多分聖女様をそれで釣ろうとしたのもあると思うのです……。」
なんだか言いにくそうにする。
「なんで釣られるのよ。」
「権力主義の者は権力が何よりも素晴らしいものだと思っていますから。」
「あーね。」
「ですので、それをメリル様が出て行く前に受けまして、その爵位を次兄に譲ることを交換条件にしたんです。」
やだ、策士。ってか、まさか挙動不審になってた時に受けてたんだろうか?
「今、次兄は新しい領地を手に入れ、父と共にそちらに行っています。
いろいろと手続きもありますし、結構時間はかかりましたが、今はディアもハルドリック姓を名乗っていますよ。」
「でもさー、それで言ったら、シュレインさんが爵位取って、ディアを養子にすればよかったんじゃないの?」
私がそう言うと、シュレインさんはため息をついた。普通のやつ。
「……そんなことしたら、メリル様といれないでしょうに。」
「え?」
「メリル様は爵位は面倒くさいとおっしゃる。だったら、私は持っていない方がいい。」
う、うん?っつか、さりげなく聖女殿呼びじゃなくなってる。鼓動が速くなる。匂わせやめて???
「私はもう、騎士を辞めるつもりです。」
「はぁ?」
「ディアはもう大丈夫です。野心はないでしょうから、第一部隊に入ろうとはしないはず。ならば、私はもう手を放してもいい。やるべきことはやりました。」
「いいの?魔物結構出るでしょ?」
「そうですね。でも、後進がちゃんと育っています。今の団長は裏方をしていましたが、切れ者ですし、ディアに触発されて古臭い剣技だけでは不十分なのは皆が実感しています。今では騎士団全体が以前よりも強くなりました。
スロールド殿……あ、元ギルドマスターの言う通り、時代が変わったのです。」
私が名前覚えてないのを見越してるの流石である。
「メリル様。」
「ん?」
小首をかしげシュレインさんを見ると、こちらをじっと見てくる。無表情というよりは、固まっているといった風だ。
「何?」
私が聞き返すとシュレインさんは目をそらし、小さく息を吸ってからもう一度こちらを見た。
「離れていたこの数年、あなたを思わぬ日はありませんでした。私は、貴族であるより、騎士であるより、あなたと共にありたい。
これからあなたがどこで何をする時も、この目で見ていたいのです。」
シュレインさんはそう言って私の手を取ると跪き、私の手の甲に額を当てた。
「どうか、この命が尽きるまで、そばにいることをお許しください。私の全てを捧げます。」
「あ、あの、やはりだめでしょうか?」
私が微動だにせず無言だったので、そのままの体勢でシュレインさんが聞いてくる。声が少し震えているので、私は慌てた。
「あっ!違うの!顔上げて?」
私がそう言っても、シュレインさんはその体勢のままだ。
なので、私はしゃがんでシュレインさんの顔を覗き込んだ。
「ゴメンね?これって、どういう意味なんだろうって考えちゃってただけなの。プロポーズなのかなって思うんだけど、シュレインさんの生真面目さから、下僕になりたいって言ってる可能性も割とあるなーって。」
「ちがっ!そういう意味ではなくて!」
「え?じゃぁ、どういう意味?」
私が首をかしげて聞くと、シュレインさんは目をぎゅっとつむる。頬が赤い。
「あ、あの、プロポーズの方……です。」
「そっかー。好き好き大好き!かわいいメリルを死ぬほど愛してるから結婚してくださいって言ってくれないとわかんないよ。」
「す、すみませんでした。」
「うんうん。さ、ほら、言って?」
「えっ。」
赤くなっていた頬から血の気が引いた。人間の顔色ってこんな急に変わるものなのね。
「言って?」
私がもう一度そう言うと、顔をそむけ、口元を私の手を握っていない方の手で隠す。顔はまた真っ赤になっている。
「あっ……あの……。メリルの事を慕っております。……私と、結婚してください。」
声は震えているし、顔をそむけたまま、恥じらいから目までつむってしまった。乙女か。
まぁ、この人は属性で言ったら、年齢=彼女いない歴の魔法使いだからなぁ。免疫ないんだろうね。そんな私も前世含め彼氏いたことないけど。
「セリフが違うし、目を見て言ってくれないと伝わらないなぁ。っつか、慕うって中途半端だなぁ。」
「っ!!!」
私の追撃に、目を見開いて声にならない叫びをあげ、体を硬直させた。もはや首まで真っ赤だ。
ついいじめすぎたようだ。私はふきだし、声をあげて笑った。
「あはは!ごめんごめん。こんな女だよ?それでもいいの?」
「それはもちろんです。」
こんな状況で即答された。
「そっかー。シュレインさんはいじめられるのが好きなんだねぇ。」
「違いますが!それでも私はあなたがいいんです。」
恥じらいで薄目になっているのかも知れないが、なんだか切ない表情に見えて、たまらない。
あああああああもうめちゃくちゃかっこいいいいいいい!今だから正直に言えるけどさぁ、すっごくタイプなんだよおおあああああああ!
シュレインさんももう三十三歳。渋みも少しは加わって、ものすごくかっこよくなった。
大体さ、私は真面目黒髪メガネ男子が大好きなんだよ!初めからぶっ刺さってたよ!ただ若すぎただけでさ!メガネ男子バンザイ!チクショー!
というのはおくびにも出さず、握られている手を握り返す。
「ものすーっごく心労かけるとは思うけど、私の命が尽きるまで、面倒見てください。」
「はい!お任せください。」
私も若干照れながらそう返すと、シュレインさんもはにかんだ笑顔になった。はーかっこいい。
戴冠式が終わり、続けて和平調停も行われた。
見届け人になぜかいるフィアルさん、ゴーディアス帝国王弟。帝国って本当に権力あるのね。ずるいわ。
あ、ベイダルさんたちにはこちらから出向いてご挨拶しておきました。今日は来ていないのである。
そして始まるパーティー。
ディアはちゃんと甲冑を脱いで、礼服を着ている。騎士団の服もあっただろうが、私が出したものから選んだようだ。
姉はディアと色を合わせて、フィオレと揃いのドレスを着ている。
本当に幸せなのがわかる。美しさにさらに磨きがかかり、アマンダさんよりも目立ってないかと若干不安になるわ。やめてホント。
そういや、化粧水はおじーちゃんが王都の家の畑で薬草を育てたことにより自分で入手できるようになった。
あそこ、水も精霊王のにしてあるし、畑も私が作ったからね。温室も作ったらしく、なんか色々とやってるみたい。
化粧水も姉の働いてる店に卸してるらしく、結構儲けてるそうだ。おじーちゃんアグレッシブぅ。
「ディアさん。」
アマンダさんがまっすぐにディアのところへ行ったので、私もついて行く。
声をかけられ、ディアは跪いてこうべを垂れる。前はここの王宮騎士だったから、作法はわかっている。なんなら私よりも詳しいだろう。
「この度は……。」
ディアが挨拶を述べようとするも、アマンダさんはしゃがんでディアの腕をとった。
「そんなことしないでください。私たちはそういう間柄ではないでしょう?前と同じように友人として扱ってください。ソフィアさんも楽になさってください。」
「そうはおっしゃりますが……。」
困惑するディアとおねーちゃん。
というか、アマンダさんも丁寧な口調な段階で、友達っていっていいのだろうか?と若干思う私。
「私、ずっと気になっていたんです。」
「?」
「私、ディアさんに家を用意するって言ったでしょう?」
「あれは、私から断りましたが。」
「でも、私は言い切ったんですもの。それを反故にしてこちらへ来たことを、ずっと後悔していたんです。」
「気になさることでは。」
「だからね、和平調停に入れたんです。」
「ん?」
雲行きが怪しくなって、ディアがいぶかしむ。そんなディアを見て、私は笑いをかみ殺す。さらにそれを姉がチラチラと見ている。
「オスカラートに、ワイバーンを送ることにしました。」
「は?」
「そして、あなたを竜騎士の指南役に指名してあります。」
「ちょっ!」
「王宮に、ワイバーンの宿舎ができるでしょう。そこに、ディードも移してください。これで、王都にディードの居場所ができ、毎日大手を振るって会えるでしょう。」
「なんで……そんなことまで……。」
「言ったでしょう?私たち、お友達ですよね。それに、商人は信頼を失ったら終わりなんです。だから、絶対に仲間を裏切らない。」
アマンダさんはにっこりと笑った。ものすごーい圧力のある笑顔だ。
「は、はい。」
「口調。」
「あぁ……。はぁ、負けたよ。感謝する。」
「ふふ。さぁ、フィオレちゃんよね?おばさんはお父さんとお母さんのお友達なの。おばさんの子にも会ってくれる?仲良くしてくれると嬉しいの。」
「うん!いいよ!」
颯爽とディア一家を連れて、ルーシルさんと居る子供に向かって歩き出した。
アマンダ、恐ろしい子……。
っていうか、これで隣国一番の強い者を味方につけたわけで……。ディアも絶対アマンダさんを裏切らないよなぁ。そういうの計算されてると思うぞー。
ディアは心配していたけれど、こちらの王宮の面々もかなり入れ替わった。顔見知りもまだいるだろうが、多分もう敵対心のある人間はいないだろう。
五年とは、短いようで変化をちゃんと伴う年月だ。
そしてこれからも、どんどんと変わっていくだろう。
「ついて行かないのですか?」
シュレインさんがやってきた。まぁ、すぐそこにいたんだけど。
「お腹空いたからご飯食べたいし。」
「珍しくドレスを着られているのに、変わってなくて安心します。」
「今日くらいは着ないとね。かわいい?」
私がその場でくるりと回ると、シュレインさんは微笑んだ。
「はい。とってもきれいですよ。」
こういうことをすんなり言えるのは凄いと思う。私たちは決してそういう関係ではなかったから、シュレインさんと甘い空気になるのが想像できないのだが、そうではないのかもしれない。
「シュレインさんもかっこいいですよ。でも、それって騎士団の服じゃないね?」
「ありがとうございます。服は仕立てました。学校を卒業してから、騎士団の服で事足りていたので。」
まぁ、礼服になるもんね。
シュレインさんは紺色の生地に黒と白い糸で刺繍がされている服を着ている。
黒と白とはいっても薄っすら光沢があり、しっとりとした美しさが出ている。
「シュレインさんは黒髪だから色んな服が似合っていいね。私なんか主張のどぎついまっピンクだからねー。ピンクか緑系しか着れないんだわ。
せめておねーちゃんくらい柔らかい色ならなぁ。」
ピンク髪のキャラって結構いると思うけど、皆服装に困ってるだろうなーって思うのだ。まとめているとはいえ、どぎついピンクだと、髪が勝ってしまうんだよぉ。
「私としては、メリルがこの会場で一番きれいですから、そのままでいいと思いますよ。」
またもさらっと言ってくる。でも、顔が赤くなっている。
部屋でのやり取りを思うに、慣れてはいないものの、腹をくくったのだろうな。
「好き好き大好きは?」
「ちょっ!なにを……。」
口をパクパクさせているシュレインさん。
「シュレインさん。」
「……はい。」
警戒して半目なシュレインさんをじっと見る。
「な、なんですか?」
「好き好き大好き愛してる。」
「……。っ!!!」
私の言葉を一瞬理解できず、間をおいて真っ赤になるシュレインさん。
私も腹をくくって認めなくては。私は、シュレインさんが大好きで、誰よりも大切なのだ。いや、アマンダさんとどっこいかも?
「あっ。か、からかってますね?!」
そう言いながら、他の人に聞かれてないか、キョロキョロしている。
「えー?ちゃんと目を見て言ったのに伝わらないのかぁ。悲しいなぁ。」
そう言って、私はしょんぼりとうつむいた。
「っ!すみませ……いや、絶対からかってますね!」
謝り始めたところでチラリと見たのが見つかってしまった。
「んっふっふー。」
「はぁ、あなたは本当に……。」
シュレインさんはクソデカため息をはいて、眉間のしわをもみほぐす。
それを見て私が笑うと、シュレインさんも仕方がないなという風に笑った。
私たちの変化は、今始まったばかりだ。
それでもまぁ、シュレインさんとなら楽しくやっていけるだろう。
これからどうするかは決めていない。
でも、だからこそどうにでもなる。私は自由なのだ!
いろいろと突っ込みどころが多かったと思います。
しかし、この物語の前提に「聖女は魔王と共に死ぬことを何とも思わない存在」であることがあります。
メリルは気が付きかけてはいるものの、本当の意味では気が付けません。かなりの感情を殺されているのです。
恋愛もそうです。生に執着する可能性があるものはつぶされているのです。
だから、喪女ということにも意味がありました。自分には恋愛事は関係ないことだと思いきることができるから。
そして、好戦的にもなります。人が寄り付かないようにするためです。
こうやって、聖女は一生不自由なままで過ごします。魔王を無事倒せても治りません。
プラスの感情の起伏がほとんどありません。マイナスは普通にありますが、多くの人間を恨むことはありません。そこまで行ったら自分が悪いのだと思うようにされています。死が受け入れやすくなってるわけです。それはとても辛い事です。
でも、それに気が付かずに自由を欲し、自由だと信じる。そして、そんな聖女を二度と作らないようにした、最後の聖女の物語でした。




