100.別れ
私は他の世界で生きていた記憶があること。
精霊王に魔王を倒すためだけに呼ばれてここへ来たこと。
村で暮らしていたのが見つかって連れて来られたこと。
美代さんが皆から魔王だと思われたこと。
創造神とあったことと話した内容。
「それで、この作戦を精霊王とドラゴンに提案したの。
今回は、精霊王たちが分担して魔力を吸い取ること。これは私がしちゃうと私が魔王化するかもしれないからね。
それで、今後は精霊が作り出す魔素を、魔王が生まれる前よりも少なく保つこと。
そうすれば、今後は魔王が生まれないはずだから。それならば、もう聖女を呼ぶこともなくていいし、精霊たちも多くの魔素の中でのびのびと暮らせるだろうって。まぁ、これは多分だから、これから状況が変わるかもしれないし、何より、魔族は生まれやすい環境になるの。」
私はシュレインさんをまっすぐ見た。
「精霊王たちは、人間の事をこれっぽっちも気にかけていない。だから、人間が住みやすいような魔素の量では満足してくれないの。
これから人間たちは生活が難しくなると思う。今の魔物や魔族の出現が多い状況がずっと続くからね。
だから、私は決して人間にとっての聖女ではない選択をした。」
そう言う私を、シュレインさんもまっすぐ見返してくる。私は目をそらした。
「私は、それを言うのが怖かった。シュレインさんもアマンダさんも、私を聖女だって信じているからね。その信頼を裏切ることになるから。」
私はそこまで言って、息を吐き、背もたれに体重を預けた。
「これから、人間も多くの魔素によって変化があるかもしれない。魔法がもっと身近になるかもしれないし、精霊の時代になるから見える人間が増えたりもするかもしれない。もしかしたら狂暴になってしまうかもしれない。
先はわからないけれど、選択はなされてしまった。あとはこの世界を受け入れるしかない。
それを、私は私の独断だけで決めた。人間は文句を言っていいのよ。」
私はそう言って肩をすくめ、シュレインさんを再び見た。
シュレインさんはそれを受け、少し考えた後に口を開いた。
「正直、途方もない話過ぎて、私では理解しきれていません。ただ、あなたがなぜそんなにも大人びていたのか、精霊王に根本から解決したと言われていたのかの意味が分かりました。
それで一番に思うことは、あなたはただ巻き込まれただけなのではないかということです。
あなたは他の世界で生きていたのでしょう?なら、こちらへ来るためにその……殺されたのではないのですか?」
「それは……。」
まぁ、急に死んだしね。実際それは感じたけれど、あえて考えないようにしていた。
「まぁ、違うと思いたいし、それとは別に、ちゃんとここに生まれ直してここで暮らしたからね。この世界の事は私にもちゃんと関係あるからさ。」
「そうですね。」
「だから、巻き込まれたとかは選択には関係ないよ。私が精霊よりな考えなだけ。」
「そうでしょうか?魔王が復活しないのであれば、人間も得ることは多いと思いますし。それに、あなたはあなたと同じように、よそから連れて来られるだろう今後の聖女も救ったと思います。もうその必要はないのでしょうから。」
「どうだろう。ちょっといいように考えてくれすぎじゃない?」
「……そうかもしれませんね。私は、あなたのそばにいて、様々な経験と学びを得ました。そして、ついには魔王の事すら知った。」
シュレインさんはそう言うと、苦笑した。
「これから人間は魔素のせいで滅亡へと向かうかもしれない。それでも……それでも、私はあなたを未だに尊敬しています。」
なぜか、そんなことを満面の笑みで言うシュレインさん。この人、サイコパスじゃなかろうな?
シュレインさんは細かくは話さなかったようだが、城に魔王討伐の報告をした。
正直、信用されるか怪しいとも思ったが、なんと、フィアルさんが帝国の正式書面で各国に魔王討伐を聖女がなしたということを知らせてくれたので、どうにかなったようだ。これは第二王子に聞いた。
やることはやってくれるドラゴンである。あのドラゴンもなんつーか、良いやつなんだか悪いやつなんだか……。いや、悪いやつだわ。
そして、春が来た。
「じゃぁ、頑張って。」
「はい。聖女殿も、自分の信じた道をお行きください。」
「それは任せておいて。」
アマンダさんと第二王子とベリンダールへ立つ日、シュレインさんが見送りに来てくれた。
姉もディアも仕事を休むと言ったが、どうせすぐ会えると言って断った。
実際、二人の結婚式が夏に決まっている。それに、岩山の家に行けばディアとはすれ違うだろう。
あ、ディアは王都の兵士になりました。
モテて大変になるんじゃないかと予想していたけど、送り迎えをしている仲睦まじい姿が優勝前から多くの人の目に触れていたので、姉には勝てないと、涙をのんだ女性がいっぱいいたとかいないとか。まぁ、美男美女過ぎて入り込めないわなぁ。
にしても、ディアがこっちへ来た時の事を考えたら、姉を置いて私についてくるとか言い出さなくて本当によかった。むしろあの事は忘れていてくれ。
結婚を控え、姉は本当に美人になった。まぶしいほどだ。主人公の姉の方が主人公より美人ておかしくない?いじわる姉さんとかじゃないしさぁ。
幸せになるように祈っているが、割としたたかなのでうまくやっていくだろうし、超過保護なディアがいるから安心だ。
シュレインさんは、未だ魔物が多く出現するのでその制圧に出ると言っている。
なんと、第一部隊を抜けて第三部隊の隊長になった。
第一は城。第二は王都。第三から第五部隊は各地に遠征するのだという。
第一部隊は花形だろうにいいのかと聞いたら、「護るべき人はもういませんので。」というので、困ってしまったものだ。
私とアマンダさんはベリンダールへ行く。アマンダさんはもう帰ってこないつもりだ。
私も数年はあちらで過ごすだろう。アマンダさんの安全が確約されたら、少し旅に出てもいいし、オスカラートに帰ってもいい。
まだクルトの事や村の事も気になるし、結局は生まれ故郷だ。完全に捨てることはない。
「んじゃまぁ、またおねーちゃんの結婚式で。」
「はい。お気を付けて。」
「シュレインさんもね!またねー!」
私はさっさと馬車に乗り込む。
なんだかシュレインさんにアマンダさんが詰め寄ってるが、ろくな事を話していないだろうと思うので無視しておく。
「んじゃ、約束通り。」
「はい。よろしくお願いいたします。」
私と第二王子もろくでもないことを確認しつつ、いざ、ベリンダールへ!
大丈夫、私はもう自由だから!
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