01.聖女、学園デビューする
初めて書きました。
確認はしているのですが、誤字脱字がありましたら教えていただけると助かります。
毎日更新すると思います。
私は気が重かった。
立派な門の前にたたずみ、豪華な建物を見る。宮殿のようなその建物は、王立魔法学園だ。
ここは貴族の子供たちが通い、魔法や家庭教師では習いきれなかったことを勉強していく場。そこを見上げる私はただの庶民だった。
「本当にいかないとだめですか?」
後ろを振り返ると、これまた豪華な馬車の横にフチなし眼鏡をかけた黒い髪と瞳のイケメン騎士さんが立っており、無表情で頷いた。
今は懐かしきこの配色も、この世界では珍しい。そう思う私の瞳はエメラルドグリーンで、髪の毛に至っては淡いピンクである。あぁ、ファンタジー。
騎士さんの名前は聞いたけれど、忘れた。カタカナの長い名前は苦手である。
仕方がないので、私はとぼとぼと歩みを進めた。すでに遅刻が確定しており、今は入学式をしているはずだ。
豪華な建物の中をさまよい、どうにか会場に到達できた。
コソコソと中へ入り、隅にそっと立つ。壇上を見ると、金髪碧眼のきらびやかなイケメンが何やら挨拶をしている。あれは王子だ。名前は・・・・・・忘れた。
うわの空で過ごしていると入学式が終わったようで、王子のいる列にそっと紛れて出ていく。
王子は私を見つけ、手を振ってこちらへやってきた。
「メリル嬢!少し遅刻じゃないかい?」
爽やかに笑いながら、私と並んで歩きだす王子。
その親し気な雰囲気に、周りの子たちがざわつく。
「殿下、その方は?」
金の見事なドリル・・・・・・じゃなくて縦ロールの髪に、赤いつり目という明らかなる悪役令嬢が話しかけてきた。
「あぁ、エリザベス。メリル・クラージュ嬢だよ。この子が噂の聖女様だ。」
その言葉に、また周りがざわつく。
そう、私は聖女なのだ。
聖女出現のニュースが流れたのは、たった二週間前だ。
私は一か月前まで、辺境の名もない村でのんびりと家の農業を手伝いながら生きていた。
しかし、魔法が使えるとばれて王都へ連れてこられたのである。
馬車で二週間も旅をする羽目になって、本当に辛かった。
まぁ、そんなこんなで聖女なのもばれてしまい、田舎娘の私が王都の貴族が通う魔法学園へ入学させられたというわけである。
どんな乙女ゲームやねん!
私の突込みもむなしく、私と王子の周りには人だかりができていた。
精霊と魔法に愛されしこの世の宝、聖女。
最後に現れたのは何百年も前の事だという。
もしかしたら、人知れず現れ、去っていった聖女もいるかもしれないともみくちゃにされながら思う。おい!今誰か髪の毛引っこ抜いたぞ!
私の虚ろな瞳に気が付いたのか、王子が皆をおさえてくれた。
「ほら、先生が来てしまうよ。皆ちゃんと席に着かなくては。」
爽やかな笑顔に、皆が従う。私はため息をついて、黒板に書かれた自分の隣の席に着いた。
右隣が王子で、左隣が金髪ドリルちゃんなのが怖い。悪意しかない配置だ。
「メリル様、わたくし、クレスティオ殿下の婚・約・者!で、ロイエンタール侯爵家次女のエリザベスと申しますわ。よろしくお願いいたしますね。」
「あ、メリル・クラージュです。よろしくお願いいたします。」
私がぺこりと頭を下げると、金髪ドリルちゃんはにっこりと笑った。その笑みの後ろにゴゴゴとついていそうで怖い。私はさっと前を向いた。
教科書などが配られ、ガイダンスが始まった。移動教室の場所を周りながら説明され、最後に食堂へやってきて、ここで解散のようだ。
解散した皆が好きなメニューを選んで頼んでいるのだが、私は固まった。
お金がない。
これはとても由々しき問題だ。しかも、お弁当もない。
もう帰っていいみたいだし、帰ろう。どうやって帰るのかもわかってないけど、帰ろう。そう思って踵を返した時、王子に声をかけられた。
「メリル嬢、こちらへ。」
そう言われて案内されたのは、食堂の横にある個室だった。
「あの、ここは?」
「昼は私と一緒にここで食べることになるからね。今日はそのまま一緒に帰ろう。」
そう言われながら、真ん中にあるテーブルにエスコートされる。なんという流れるような動作。場慣れしすぎている。
「え?私もですか?」
「もちろん。メリル嬢、君は大切な聖女だ。私と同じ扱いをさせていただくからね。」
それを聞いて、私は遠い目になった。
何でこんなことになったんだろう。
私は目の前に並べられた食器を見ながら思った。
時は遡ること十五年と少し前。私はこの世界に転生した。
名もなき農村の特にこれといった特徴のない若夫婦の家に生まれたが、その瞬間、私は精霊の寵愛を受け、前世の記憶を思い出した。
赤ん坊の時は意識は眠り、乳離れした頃にまた記憶が再浮上した。
そこからは、自分の知識と知恵と能力をフル動員し・・・・・・たところで、特にこれといって何もできなかった。
ちょーっと衛生観念上のあれこれで上下水を完備し、共同の風呂を建築し、ギルドを介して薬草を売りさばいて小金を稼いだ程度である。・・・・・・それくらいなら誤差よね?
まぁ、それ以上はできなかったというのが正しいと思う。私は前世では大した能力のない女だったし、何より自分の存在を外の人間に知られたくなかった。
自分の能力が他人にとって特別であり、それを利用しようとする人間は腐るほどいると思ったのである。
だから、私は最低限の能力しか使わずに生きてきた。でも、結局はやってきた役人に見つかってしまい、王宮へと連れてこられたのだった。
マナーなんて転生前の私ですら知らない。
転生前、私はオタクな三十二歳の喪女だった。だから、こうやって青春をやり直す機会があるのはありがたいのかもしれない。
しかも、今世の私は愛くるしさが爆発している。正直かわいい。めちゃくちゃかわいい!!思わず何度も言うくらいはかわいいのだ。自画自賛。
だが、染みついた喪女精神は、爽やかなイケメン王子に耐えられるわけがない。
だって、顔なんて鏡見ないと確認できないじゃない?しかも、鏡なんてめったに見れないからね?だから、自分がかわいいとかすぐ忘れるのよ。
私の目の前に座っている王子から、めちゃくちゃキラキラしたエフェクトが飛んでるように見えるのは、幻なのだろうか?
初めて会った時などそのキラキラを虫だと思って、手で掴もうとしたほどだ。
しかも今は、王子の斜め後ろに赤い短髪に赤い瞳の筋肉質なイケメンが立っている。確か王子の反対隣りに座っている男の子だ。
イケメンの視線がさらに増えて息も絶え絶えである。
私がその子を遠慮がちに見ていると、王子が振り返って小さく笑った。
「あぁ、紹介していなかったね。彼は私の護衛騎士のイグナーツ・バイガロヴァーだよ。」
王子の紹介に合わせて、イグ・・・・・・なんとか君が会釈したので、私も会釈を返した。
「彼は一緒には?」
「気にしないでいいからね。」
いや、そういうわけにもいかないでしょうよ。そう思いつつも運ばれてくる料理に悪戦苦闘しつつ、イケメン二人に見つめられながら食べるコース料理は味を感じることもできなかった。
毎日こんな地獄が待っているのかと思うと、ボイコットの文字が横切る。初日にして心がくじけそうだ。
「あのぅ、自分で好きなのを頼みたいので、明日からはお金をもらえたりしないでしょうか?」
恥ずかしくもそう言う私に、王子は爽やかな笑みを浮かべながら首を振る。
「まさか。毒見なんかも兼ねてるからね。ダメだよ。」
無情な返答に、私はうなだれるしかなかった。
王子と護衛君と共に個室から出ると、おしゃべりをしていた生徒たちの視線が突き刺さった。
中にはあからさまにヒソヒソとしている人もいる。表情も雲行きが怪しいので、慣れないコース料理と状況といじめの始まりそうな雰囲気に、私はもう限界だった。
私が何をしたというのだろう。
そんなこんなで、聖女の学園デビュー初日は、どう考えても悪いスタートを切ったのだった。チクショー。
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