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月と太陽  作者: もちっぱち


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第16話



 窓から朝日が差し込むと、

 外からスズメの鳴き声が聞こえた。

 

 布団の横が空っぽで寒かった。

 こんなに寒かったかな。


 花鈴にあったイベントから1週間が経ち、

 なんとなくの流れで同じアパートに

 さとしと一緒に住むことになった紗栄。


 前の住んでいたシェアハウスは友達の恭子と彼氏が結婚するまで住むことになったと2日前に言われた。


 グットタイミングだった。


 荷物は今月中に取りに行くと言うことになった。


 今日は、さとしがキャリーバッグを持って3日間の本社出張になり、東京のホテルに行った。


 その間、お家を守らなくちゃいけない。


 事務の仕事もあるし、パジャマから白いスカートと襟首がふわふわレースのワイシャツに着替えた。


 鏡を見ながら、髪にはヘアアイロンを通し、

 ポニーテールに結んだ。


 耳にピアスをつけて、軽く化粧をした。


 バターを塗ったトーストとコーヒーを飲んだ。


 1人で食べる朝食は味気ない。


 ぼーとやり過ごすとチャイムが鳴った。


 持っていたスマホをテーブルに置いた。



「はーい。」



「加奈子ですが、さとしはいませんか?」



 インターフォンの映像を見ると、

 あのキャリアウーマンバリバリの平手打ち女性が

 いた。背筋がブルっと震えた。



(え、私も平手打ちされるのかな。)



 紗栄は恐れ多く、

 返事もせずに静かに玄関のドアを開けた。



「あ、すいません。今、出張中でいませんが…。」



 ビクビクしながら、答えた。鼻でふっと笑われる。



「あ、そう。いないなら、仕方ないわね。

 んじゃ、これ、さとしに書いておいてって

 いってもらえるかしら? ここの退去申請書。」



 アパートの退去申請書が加奈子のバックから

 出てきた。


 住所と名前、電話番号など個人情報が

 いろいろ記入する欄があった。



「え、なんで?」



「今のアパートなんだけど、社宅に近いのよ。

半分、会社が払ってて、

さとしは住んでるわけなんだけど、

4月から埼玉に転勤することになるからその申請書。よろしくね、彼女ー。」


 加奈子はヒールの音をかつかつさせながら、

紗栄の耳元で話し出す。


「さとしは耳が弱いのよ、知ってた?」


 勝ち誇った言い草で言う。

 元彼女マウントされてるのかと怒りが出たが、

 冷静に対応する。


「はあ、そうですか。」


「まあ、そう言うことだからよろしくね。んじゃ。」


 後ろ向きで右手をフリフリしながら

 立ち去っていく。

 バタンと扉が閉まる。

 紗栄は腕時計を見て、

 会社に行く時間だったことを思い出して、

 慌てて、渡された書類をリビングのテーブルに

 置いた。

 椅子に置いていたバックを持って、

 コーヒーを飲み切って、

 シンクにコップを置くと、家を後にする。



 「さとしさーん、聞きましたよ。

 もう彼女できたんですか?」


 会社のデスクでパソコンをカタカタを打って、

 書類作成をしていると、

 横から同僚の山口が声をかけてきた。


「あ、ああ。まあ、そうだけど。

 なに、会社で噂になっているの?」


「いや、あの、

 新人の大石ちゃんいるじゃないですか。

 最近、本社に菓子折り持って謝罪に来てましたよ。 あの子、お金持ちのご両親らしいですけど、

 礼儀はきちんとしてるんですね。

 ちゃっかり、さとしさんの彼女さんに手伝ってもらいましたよって言ってました。

 あのミスは東京の会社絡みで挽回できなければ、

 かなり致命的でしたもんね。

 仕事の案件減っちゃうかもしれない

 イベントですもんね。

 さすがはさとしさんのカバー力。

 お疲れさまです。」


 それを聞いて、

 さとしはデスクにあったチルドカップの

 コーヒーを飲んだ。


「めっちゃバレてるのね。

 大石ちゃんに口止めしとけばよかったわ。」


「…というか、先輩。大丈夫なんですか? 

 加奈子チーフと別れたんですよね。」


 小声で話す。


「ああ。俺がフラれたんだよ。

 だから、転勤したろ?」


「あの転勤は1年前から決まってたらしいですよ。

 そもそも、加奈子チーフは他社に本命彼氏いたって 噂ですよ。さとし先輩もかわいそうですね。」

 

 あごが外れそうだった。

 

 山口は部長の佐藤が後ろから

 ジロジロ見てきたため、

 自分のデスクに戻って、仕事をし始めた。

 さとしも慌てて、パソコンで書類を作り始めた。


 佐藤は、黙って通り過ぎてコーヒーを飲み始めた。


 飲んですぐにジロジロと2人を睨みつけた。


 話してばかりは仕事は進まないことを知っていた。


 さとしはようやく、やるべき書類を書き上げた。

 部長のデスクに行き、提出した。


「部長、

 提出書類できましたのでご確認を、

 お願いします。」


「ああ、そのケースに入れといて。大越、この間の企画良かったから、引き続きよろしく頼むよ。あの、山口にも本腰入れてやるよう指導しといてくれ。最近、慣れてきたと思って、サボるようになってきたからな。」


 デスクの端に置いてあるA4プラスチックケースに入れた。佐藤は山口を睨みつけた。殺気を感じたのか、山口はビクッと体が動いた。


「そうですね。しごいておきます。」


 笑いながら答えた。

 さとしは、自分のデスクに戻った。

 

 山口の肩をポンと叩いて、

 書類を黒いカバンにいれ、

 行動予定表の札を休憩に変えた。


「休憩行ってきます。」


 そう一声かけて、さとしは部署の外に出た。

 ここは東京某所のテナントビル。


 この5階建てビルは本社SHOPLOOTのテナントで、半分はフードコートレストランとコンビニが入っていた。会社が誘致したものだ。


 屋上に行って、タバコを吸いに行った。


 珍しい一服だった。


 屋上は職員の喫煙所になっていて、おしゃれな灰皿置きやベンチもあり、紙コップタイプの自動販売機置いてあった。


 愛煙者は助かるものだった。


 タバコを吸ってひと呼吸ため息をついた。


 空を見ると白い雲が綿雲に見えてくる。


 スマホを取り出して、屋上の空を写真におさめてみた。すぐにラインで紗栄に送ってみた。


 既読にはならない。


 仕事中かなとポケットにスマホを入れた。


『東京の空』とコメントしていた。


 仕事を忘れ、屋上でたばこを吸いながら空の青さと都会の行き交う車、横断歩道を颯爽と行き交う人々を歩く姿を見るのが好きだった。


 遠くの方で車のクラクションと救急車のサイレンが響いている。街はいつも騒々しくてあわただしい。


今いる自分はのんびりベンチに座っている。


何だか優越感。


紗栄に買う東京土産は東京ばな奈の伝説のカレーパンにしようと決めた。


それは、スマホの話題のニュースに出てきた。


ふと、ため息をついて、灰皿にタバコの灰を押し付けた。屋上の扉を開けて、仕事に戻った。


明日仙台の自宅に出張から帰宅できると思うと、めきめき仕事が捗った。

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