第72話 一攫千金?
コーチャがいなくなった洞窟で勇者様が言った。
「この戦いで一つ分かったことがある」
何か真剣な顔つきだ。
「今の我々では絶対にコーチャには勝てない!」
確かにそうだよね。今回も運だけの勝利だったし、勝利かどうかも怪しいし。
「そこで四天王との戦いは後にしてレベル上げを優先しよう」
これってもしかしたら当分危険な目には合わなくて済むってこと? やったー!
「それはとても懸命だね」
ポチもたまにはいいこと言うのね?
「そうと決まったら、早速魔王を倒しに行こう」
「話の流れを無理やり変えるんじゃないわよ!」
私は反射的にポチをつまみ上げた。
それにしても早くこの洞窟から出たいな。もしコーチャが帰ってきたら大変だよ。
「あ! ちょっと待って」
アイラさん、何を待つの? 早くこの洞窟から脱出しようよ。
「この部屋ってよく見ると宝箱がいっぱいあるじゃん」
本当だ。
「見て! 宝石やお金がたくさん入ってるよ! ラッキー」
これは確実に泥棒だよね? まあ、そんなこと言いだしたらロールプレイングゲームはできない気もするけど。一般の民家に入って箪笥を探るよりはいいか? 結局私たちは持ちきれない宝を持って洞窟を出た。
「よし、さっそく大きな町に行こう」
「大きな町ですか?」
私は素朴な疑問を口にする。
「この宝石を換金して強い武器を買うんだ!」
勇者様まで性格が変わっちゃったよ。金の力、恐るべしだよね? 私たちは洞窟内にあった荷車に宝を積んで移動した。ほとんど桃太郎状態だよ。鬼退治したんじゃなくて逃げられたんだけど。
そして大きな町に着いた。
「こんなに貰えるのか!」
「はい、かなり貴重な品ばかりですので」
勇者様と店の主人が会話をしている。さすが四天王の宝だよね。
「これだけのお金があったら一生遊んで暮らせるな」
「勇者様!」
思わずツッコんでしまった。でも考えてみたら一生遊んで暮らした方が危険がなくていいよね?
「麗華ちゃんの言う通りだ。思わずお金に目がくらんで大切な目的を見失うところだった」
「あ、いや。そんなつもりでは‥‥」
私は小さな声で呟いた。余計な一言を言っちゃったよ。
「ここから南へ向かおう。南方にはレベル上げに適したモンスターがたくさんいるらしい」
さすが勇者様。何でも知ってるよね。
「それはいい考えだ。ここから南へ行くと魔王が住む城があるんだ」
「北へ行こう」
何でも知ってるんじゃなかったみたい。
「ところで麗華ちゃん」
「はい」
「この防具を着けるといい」
勇者様が店に置いてある重そうな鎧を指さした。
「私には重すぎる気がしますけど」
「これは軽くて丈夫な金属でできているから大丈夫だと思う。試しに着てみるといい」
あれ? この鎧軽いよ。
「これなら大丈夫です」
「そうだろう? とても高いからね」
やっぱり世の中お金次第ってことだよね。世渡りの勉強になったわ。
「麗華。これも着けなよ」
サラが棘のたくさん付いた腕輪を持ってきました。できたら着けたくないような。
「これを付けると腕力が10%強くなるんだ」
それいいかも。私は腕輪を右手に着けてみた。
「ほら右腕だけ太くなっただろ?」
私は慌てて腕輪を外した。腕が太くなるのは絶対に嫌!
「麗華ちゃん、このイヤリングもいいよ」
今度はアイラだ。
「このイヤリングを着けている間は女性らしい体型になれるんだって」
「え? 本当?」
私は慌ててイヤリングを着けた。だって私もみんなのように抜群のプロポーションになってみたいもん。
「どうですか?」
満面の笑みで尋ねてみた。
「おかしいわね」
え? どういうこと?
「全く変わらないような?」
何で?
「説明書を見てみるね」
私もアイラと一緒に説明書を覗き込んだ。
『幼児体系の女性や筋肉質の男性には効果が出ない可能性があります』
どうせ私は幼児体系だよ。
「麗華さん」
「クレアさんもお勧めのものがあるんですか?」
「これを持っていると幸運が」
「壺はもういいです!」
「麗華。これを着ると君でもセクシーになれるよ」
ポチが何か言いだした。
「私ポチの進める服は着ないことにしてるの」
今まで散々な目に合わされたからね。
「騙されたと思って着てみるといい。防御力は抜群だ」
「これってビキニの水着じゃない! どこが防御力抜群なのよ!!」
信用できるのは勇者様だけだと、改めて思い知らされる私なのでした。