国の許可は、簡単には取れません。でも、取った!!
利人が質問する。
「なあテラ、お前の名前、なんでテラ・クイーンクェなんだ?」
「なによ?急に」
「いいから。名前の由来を教えろ」
「ウフフ♪パパさんが仏像好きだから。仏像だけに、テラ(寺)なの♪」
「昭和のおやじギャグかよ。寺が由来というのは、ちがうだろう。ほんとは何なんだ?」
「あ、バレちゃった?ホントは地球規模のアイドルになる予定だから、テラ(地球)なの♪」
「バカは、休み休み言え。お前の単位は、いったい何なんだ?」
「えっ⁉単位っ⁉ななな、なんのコトでつかぁ~?ニホンゴ、むずかしいでつぅ~……」
動揺したテラの目が踊っている。核心をついた質問だったらしい。
「とぼけるな。正直に答えろ。でないと、マリオを探すのに支障が出る」
「だから、地球だって……」
「地球に単位は必要ない。お前の名前はテラ・クイーンクェだ。teraは10の12乗、クイーンクェはラテン語数字の5。つまり5×10の12乗」
「……アンタ、ナニを知ってるの?」
「知らないから、聞いてるんだ。いったい何が5teraなんだ?」
「…………」
「数字だけでは意味がない。数字の後には、必ず単位が存在する」
「ホントにパパさんを探してくれる?」
疑わしそうにテラが聞く。
「見つけるという確約はできないが、探す約束はする」
「ぢゃあ、言うわ………………・・単位は、PFLOPS」
「ウソだろっ⁉ウソだと思いたいが、お前、めっちゃドヤ顔してんな。そのドヤ顔が、事実を物語っているのか⁉」
「え?アタシ、ドヤ顔なんて、してないし!それにウソついたら、パパさんを助ける協力してくれないんでしょ?」
言いながらも、ドヤ顔を隠せないテラ。
「ありえない」
絶句する利人。
「ホントのコト言ってんのに、ありえないって、なんなのよ!」
激怒するテラ。
士呂が手をパタパタさせる。
「テラちゃんは、ホントのこと言ってると思うよ!利人は聞いといて疑っちゃあ、ダメなんだからね!」
「……悪かった」
不承不承、利人が謝る。
「まあ、アンタが信じられないのも、わかんないではないからさ……」
テラも不承不承、理解を示す。
「そうそう。二人とも仲良くしようよ!それにしてもPF……って、なんなのさ?」
利人は答える。
「コンピューターの処理速度だ。世界一のスーパーコンピューターである富岳のPFLOPSは、400+PFLOPS。400で世界最高だ。それが5テラなんて、ありえない!」
「あろうがなかろうが、アタシはココにいるわよ!」
テラが再び怒りだす。
「もしかして電池に刻印してある『CHOMOTSU』というフザけた刻印は『富士通』のもじりか?」
「そうよ!」
「CHOMOは、チョモランマのことか?」
「わかってるなら、聞かないでよ!アンタ、どんだけ寝ぼけてんのっ⁉その脳みそつかわないんなら、生ごみに出して堆肥にしたほうが、地球の役に立つんじゃないのっ⁉」
テラの暴言も聞こえないほど、ショックを受ける利人。
「うわぁ~……マジかよ……」頭を抱える。
士呂は、小首をかしげる。
「チョモランマ?聞いたことある。山の名前だよね?」
頭を抱えたまま、利人が答える。
「チョモランマは、エベレストの別名だ。エベレストは、世界一高い山」
「エベレストが高いのくらいは、知ってるよ」
「ちなみに富士山は、日本で最も高い山だ」
「だからそれくらいは、ボクでも知ってるってば!」
「黙って聞け。富士山は、日本一高い山の名称。世界一のスパコンである『富岳』は、富士山の別名だ」
「どゆこと?」
「世界一のスパコンの名前が、日本一高い山ってことだ」
「えっと富士山は富岳っていう名前で、富岳は世界一のスパコンってこと?」
「そうだ」
「それで、スパコンって、なにさ?」
「スパコンは、スーパーコンピューターの略だ」
「スーパー?すごいコンピューターってこと?」
「ざっくり言うとな」
「なにするの?」
「普通のコンピューターではできないような、大がかりな計算とかだ」
「よくわかんないけど、すごいね。それなのに利人は、どうして落ち込んでるの?」
「マリオはこいつにチョモ通って、ふざけた刻印を付けてるからだ」
「テラちゃんの話だと、富士通の富士をチョモランマにしたんだっけ?」
テラがドヤ顔でうなずく。
そんなテラを見た利人が、顔をしかめる。
「イヤな予感しかしないが、富士山より高いエベレストを持ってくるということは……」
「だからさっきから言ってるでしょ!アタシは富岳より、性能がずうっと上なの!」
「マジかよ……」
「マジだわよ!」
「……お前に聞きたいことは、他にもある」
「なによ?つまんないコト聞いたら、世界中のコンピューターから、アンタの個人情報を、ぜんぶ消してやるんだから!」
「ある意味、殺されるより怖いわ」
「さあ、つまんないコト、聞きなさいよ?」
「つまらない前提かよ。じゃあ訊くが、普通のボタン電池は『HG 0%』って書いてあるのに、この『Uue 100%』は何だ?考えたくもないが、Uueは、元素記号か?」
「知ってるんなら、いちいち聞かないでよ!」
「聞くんじゃなかった……」
言葉を失う利人を見て、士呂があわてる。
「ボクも元素記号とか、苦手だよ!だから利人も元気出して!ところで Uue って、なにさ?」
ショックから立ち直れない利人が答える。
「……ない」
「ない?わからないってこと?」
「違う。Uueはまだ、人類が発見していないはずの超重元素だ。Uueは未発見元素の119番目に位置していることから、仮りの名称、119(Uueウンウンエンニウム)になっている」
「名前がナイの?」
「もし見つかれば113番のニホニウムのように、名前が付けられる。それなのに、119が、すでに発見されているとは……」
テラが口を開く。
「パパさん、うっかり119番を見つけちゃったんだって。でも公表するとニュースになってメンドクサイから、他の人が見つけるまで黙っておくことにしたんだって」
「メンドクサイって……」
「ただUueは軽くて小型化に最適な素材だから、アタシに使ってるの。ボタン電池に見せたアタシの重さは、1・2gです♪ちなみに富岳の重さは、約2トンよ♪」
テラの自慢げな顔を見た利人が、眉をしかめる。
「お前、ほんとに感じ悪いな。そして人類の大発見をメンドクサイっていう理由だけで黙ってるマリオは、死ぬほどバカか、死ぬほど天才か、どっちなんだ?」
「パパさんが、バカか天才かは知らないけど、死ぬほどヲタクなのは間違いナイわ」
「それでお前は、どれくらい賢いんだ?」
「どれくらいって?」
「いったい何ができるんだ?」
「よくわかんない♪アタシって箱入り娘だから、世間の荒波とか知らないし♪」
「……一生箱に入ってろ」
ヴヴヴ……、利人のスマホが震えた。
「はい。ええ、僕の自転車です。いえ、盗まれてはいません。自転車は、僕が知人に貸しました。うっかりして置き忘れたのでしょう。ありがとうございます。すぐ引き取りに行きます」
士呂が尋ねる。
「どうしたの?」
「警察から。甲賀駅に俺の自転車が放置してあるから、取りに来いと」
「マリオってば自転車置いて、どこに行っちゃったんだろ?大丈夫かな?警察にさっきの怪しい男の人たちのこと、言わなかったの?」
「マリオが無事に逃げていたら、言うだけ無駄だ。とりあえず甲賀駅へ、自転車を取りに行く」
「ボクも行く!」
「アタシも行く!」
利人は顔をしかめる。
「自転車1台引き取るのに、3人もいらん。士呂はマリオのレンタサイクルを返しに、油日駅へ行ってくれ」
「わかった~」
「アタシも行く!」
「テラはここで留守番してろ」
「絶対に!イヤ!アタシもお出かけする!」
利人がため息をつく。
「お前を誰かに見られたら、大騒ぎになる。もし出歩くとしても、姿を隠してウロウロできないのか?」
「ムリ。こうやって姿を現わしてないと、何も見えないし、何も聞こえない」
士呂が提案する。
「テラちゃんとボクが、油日駅に行けばいいよ。甲賀駅はさすがに人がいるかもだけど、油日駅はいつでも誰もいないんだから。レンタサイクルを返したら、すぐに帰ってくるし」
「士呂とテラで?悪い予感しかしない。仕方ない。テラは俺と一緒に来い」
「イヤよ!アンタといても、ぜんぜん楽しくないに決まってるもの!血で血を洗う言い争いに発展するのが目に見えてるわ!」
「AIのお前に、血はないだろ」
「血も涙もないアンタにだけは、言われたくないわ!」
「テラ、お前、パソコンから離れたら消えるんじゃないのか?」
「アンタもしかして、まだヘソの緒がくっついてんの?それともお尻に、タマゴのカラでも付けてんの?輝かしいアタシには、輝く太陽があれば十分なの!その上、ネットにアクセスできれば、世界はアタシのモノよ!ネットは、Free Wi-Fiで十分だし」
「田舎をナメんな。ここは滋賀でも生え抜きのクソ田舎だ。Free Wi-Fiは言うまでもなく、野良電波さえ飛んでない」
「ウソでしょっ⁉ネット使えないのっ⁉イミわかんないっ‼」
「わかろうがわかるまいが、それが事実だ」
「むうぅ……。まあ、いいわ。ネットが使えなくても、アタシはアタシだから。それにサイアク、携帯の電波が使えるし♪」
「違法だろ?」
「大丈夫!すぐに国の許可は取れるから!」
士呂が脱力する。
「利人といい、テラちゃんといい、国の許可って、そんなに簡単に取れるものなの?」