美少女なんだけど、それより……(汗)。
士呂が大声をあげた。
「あっ!なんか出た!」
ゲームから光があふれだした。その光は空中で像を結び、立体の少女像が浮かび上がった。
「この子、知ってる!さっき見た天使だ!」
身長は、わずか20㎝ほど。背中で白い羽が揺れている。足元まで伸びた金髪は、キラキラと輝いている。マリオと同じ、グリーンの眼で、まばたきをした。。
年齢は15歳くらいだろうか。真っ白なワンピースから、スラリと伸びた手足がのぞいている。
士呂が見とれる。
「この子、とってもかわいいね……」
「コンニチハ。リヒトサン、シロサン、コンニチハ」
少女が金髪の髪を揺らして、二人を見上げた。声のイントネーションは平坦で、人工的だ。
「この子、しゃべった!」
「アタシハ・テラ・デス。
テラ・クイーンクェです。
アタシ・コエ・キコエテマスカ?」
士呂が答える。
「聞こえてるよぉ~♪」
「ニホン・語・デスネ?」
「そうだよぉ~!テラちゃん、スゴイね~!賢さんだね~!」
「アリガトウ・ゴザイマス。チョット・待ッテ・クダサイ……」
画面が暗くなり、少女は消えた。
「フリーズしたか?」
利人がパソコンの稼働を確認すると、声をあげた。
「うわっ!2099%稼働してる!こんなの不可能だろ!コイツ、いったい何なんだ⁉」
ふたたびテラが現れた。
テラは羽を広げて宙に浮いた。その姿はやはり、天使のようだ。
「お待たせしました!アタシはテラ・クイーンクェです☆お2人とも、ヨロシクです☆」
テラは流暢な日本語でそう言うと、ペコリとお辞儀をした。
士呂は、握手しようと手を差し出した。
「よろしくです!あ!ちっちゃいから、手は握れないね」
そう言って、人差し指を差しだす。テラはその指を握ろうとしたが、すり抜けてしまう。
「やっぱり、さわれませんね。アタシ、体がナイです。このカラダは虹みたいなのです♪」
「そっか。さわれないんだ。あれ?テラちゃん、さっきより話すの上手になってない?」
「いま日本のこと、勉強しました♪」
「速っ!すごいね、テラちゃん!」
利人が訊く。
「もしかしてお前、人口知能か?」
「そうです♪AIのテラ・クイーンクェです!夢は、アカデミー賞をゲットすることです♪」
そう言うとテラは、羽を揺らして優雅にお辞儀をした。
「お2人は、パパさんと友達ですか?」
士呂は首をかしげる。
「パパさん?誰のこと?」
「保安上、アタシから名前は言えません。当ててください」
「ヒントは?」
「じゅげむじゅげむごこうのすりきれ……みたいな」
「マリオのこと?」
「そうです♪」
「ボクはマリオと友達だよ!いっしょに飛び出しぼうやを見たよ!」
「パパさんは、ほんとに飛び出しぼうやが好きですからね。すごく、よろこんだでしょ?」
「うん!すっごく嬉しそうだった!」
「それならテラと士呂は、お友達です♪リヒトさんも、パパさんとお友達ですか?」
「俺はちがう」
「じゃあアタシと、リヒトさんは?テラ・クイーンクェとリヒトさんは、お友達ではありませんか?」
「そういうことになるな」
テラはむっとした顔になると、消えた。同時に、パソコンの電源も落ちた。
「うわあぁ!利人、なんてことするんだよぉ~!」
「知るか。事実を言ったまでだ」
シャットダウンしたパソコンを再起動する。
ふたたび現れたテラは、拗ねていた。
「アタシは、リヒトさんとお話できません。パパさんから『知らない人とお話したらダメ』と言われています」
士呂があわてる。
「ボクは、マリオと友達だよ」
「じゃあ士呂とは、お話できます♪」
「ボクと利人は、幼馴染みの友達だよ?友達っていうか、親友だよ」
利人の顔が赤くなる。
「親友……」
「ちがうの?」
「……ち、ちがわないが……」
「利人、顔が赤いよ。カゼ?」
「カゼじゃない……」
「コロナ?」
「ちがうわ!」
テラが笑う。
「士呂、利人さんはテレているのですよ」
「どうして?」
「だって士呂さんが親友……」
利人が身体ごと割って入る。
「だあぁ~!言うな!黙れ!」
テラが、利人をジト目でにらむ。
「でもリヒトさんとアタシは、親友どころか友達でさえないみたいですね?」
「ウソはつきたくない」
「リヒトさんはアタシと仕事、どっちが大事なの?」
「そのセリフ、使う場面を間違ってるぞ。いったいどこで日本語を学習したんだ?」
「ツイッターです♪」
「よりによって、日本語の無法地帯で……」
「間違いではナイです。ワザとです♪」
「お前、あらゆる意味で消してやろうか?」
何やら考え込んでいた士呂が提案する。
「じゃあさ、テラちゃんと利人が、いま友達になればいいんじゃないかな?」
「……考える余地はありますね。リヒトさん、アタシとお友達になりましょう♪」
「……考えておく」
「利人、バカっ!せっかくテラちゃんが誘ってくれたのに、なんで失礼なこと言うんだよ!」
「ウソはつきたくない」
「アタシとリヒトさんが友達の件は、保留ですね。それではリヒトさんは『単なる顔見知りモード』でRUNします」
利人はわずかに頭を下げて、謝意を示した。
「そうしてくれ」
「ところでパパさんは、どこですか?パパさんの生体反応がナイです」
「えっ⁉テラちゃんも知らないの⁉マリオ、ヘンな男の人たちに追っかけられて、どっか行っちゃったんだけど」
「ちょっとネットを探してみます……」
テラは目を閉じた。しかしすぐに目を開けた。
「ダメです。パパさんのスマホは電源がオフになっていますし、ネットに行方がわかる情報は、ひとつも公開されていません」
利人が尋ねる。
「お前ノーベル賞受賞者が開発したAIなら、オービスとかライブカメラでマリオを探せるんじゃないのか?」
「アタシはアクセス権限のナイところに侵入するような、はしたないことはしないの。アンタ、バカなの?って、聞くほどでもないわ。アンタ、バカね!」
「アクセスできないのかよ?そもそもお前の『顔見知りモード』は、どれだけ荒々しくて失礼なんだ?」
「アクセスできないんじゃなくて、しないの!アンタこそ、失礼千万よ!アタシがシャットダウンしないだけでも、泣いてお礼を言ってほしいわ」
「はぁ…。ただのポンコツかよ。どうりで簡単にアクセスできるわけだ」
「いやいやいや!パスが簡単なのは、アタシが独自に判断するためだから!アタシが信用できないヤツは、パスを入れても相手にしないから!アンタを信用して出てきちゃった自分に、いまモーレツなツッコミ入れてるから!」
「できるんなら、やれよ」
「なにをよ?」
「オービスとかで、マリオを探せるんだろ?」
「まったく…。愛するパパさんのためとは言え、なんでアタシがこんな輩の言うコトを聞かなきゃいけないのか、ぜんぜんイミわかんないんだけど…」
ブチブチ言いながら、テラは目を閉じて集中した。しばらく難しい顔をしていたが、目を開けると言った。
「やっぱり、いない」
「お前、ちゃんと探したのか?」
「日本だけじゃなく、世界中ちゃんと探したわよ!口うるさいオカンみたいなこと、言ってんじゃないわよ!」
「オカンではなく、オトンの間違いじゃないのか?」
「アンタを例えるなんて、オカンにもオトンにも失礼千万な話だわよ!世界中のオカンとオトンに、切腹して詫びなさいよ!」
「お前の中で俺は、いったいどういう位置付けなんだ?」
「クラミドモナスと、いい勝負してるわ!」
「単細胞生物かよ……」
二人のやり取りを見ていた士呂が、嬉しそうに言う。
「よかった~!2人とも、すっかり仲良くなってるね~!」
利人が問う。
「今の流れのどこをどう見たら、仲良くなったと認識できるんだ?」
テラがかぶせる。
「士呂、コイツと付き合わないほうがいいわよ!」
士呂はどこ吹く風で、うれしそうだ。
「これでマリオが見つかれば、みんなで仲良く遊べるね~!」