士呂は活躍する!!
閉じられた空間で、利人が言う。
「ここから先は、外の世界だ。持ち歩くのは、リスクが高い」
「秘密の道は、ここで終わり?」
「そうだ」
「利人の自転車が見当たらないけど?」
「ケメコ号は究極の軽量化をしている。この程度の階段なら、持って上がるのは簡単だ」
「じゃあ、自転車から降りたんだ?」
「BMXならともかく、レース用のケメコで階段は無理だ。階段の下で、一旦止まった可能性が高い」
「ほんとだ!ココにタイヤの跡がある!」
階段の手前に、タイヤ痕がある。
「止まったついでに、物を隠した可能性が高い」
士呂はレインコートのポケットを探ったり、傘を開いてみる。
「なんにもナイよ。ほんとにココに隠したの?」
「俺の推理では、ここに隠した可能性が高い」
「もっと前に隠したんじゃない?燃料とか、塩が置いてあった場所とか」
「道の途中で手放すとは、考えにくい」
士呂はオタオタしながら、掘削機の運転席をのぞき込む。
「何を探せばいいの?わかんないよ」
「不自然な物を探せ。そこにあるのが、不自然な物だ」
士呂は、運転席に置いてある工具箱を開いた。
「そんなこと言ったって……。ペンチにレンチにドライバー、ネジにハサミ……。見つけた!不自然なモノがあったよ!」
「なんだ?」
「お箸とお茶碗」
「それは、俺のだ」
「なんで工具箱の中に、お箸とか茶碗が入ってるのさ!不自然にもほどがあるよ!」
「作業をしていると、腹が減る」
「あ!キャッシュカードが出てきた!マリオのかなっ⁉」
「そこにあったのか。探していたんだ」
「不自然が多すぎるよ!あれ?ゲームがある……」
士呂は工具箱の中から、白いペンダント型のゲーム機を取り出した。
「どとるっちだ!これ、マリオのだよ!さっき見たもん!レアな白だから、間違いないよ!」
「マリオが隠した物は、見つかった。ここからが難しい。部屋に帰るぞ」
二人は利人の部屋に戻った。
利人が持ってきた段ボールの中には、ゲーム機がぎっしり詰まっている。その中から白いどとるっちを取り出した。
「えっ⁉利人も同じ白色持ってるの⁉白って、レア色じゃなかったっけ?」
「レア色だ。俺も自分以外の白色を見たのは、初めてだ」
利人は2台の電源をオンにした。2台は同じスタート画面を映し出す。
「どっちも同じだねぇ」
「お前のその目は、なんのために付いている?明らかに違うだろ」
士呂がむっとする。
「なにがさ?同じじゃん。どこがちがうのさ?」
「よく見ろ。マリオのゲームは、端子の挿入口がある。市販されているどとるっちに、挿入口なんか無い」
ゲームをひっくり返すと、裏蓋があった。利人は精密ドライバーで、蓋を外す。中にはボタン電池が一つ入っている。
「ここは、同じように見える」
「電池を外したら、なにかあるかも」士呂がつぶやく。
利人は言われるまま、ボタン電池を外した。
「なんにもナイねえ」
「いや、無いことはない」
利人は、じっとゲーム画面を見る。
横から士呂がのぞきこむ。
「さっきと同じ画面だけど?」
「だからだ。電池を外したのに、どうして画面が出たままなんだ?マリオのゲームは、どこから電源を持ってきてるんだ?」
「そういわれてみれば、電池がないのに画面が出てるのは、不思議だねぇ」
「それだけじゃない。電池もおかしい。CHOMOTSUなんて会社、聞いたことがない」
「チョモツウ?富士通じゃなくて?バチカンの会社じゃないの?」
「チョモ通なんて、聞いたこともない。それに普通は『HG 0%』と書いてある部分に『Uue 100%』と刻印してある」
利人は電池を元通りにして、裏蓋をはめた。パソコンのケーブルをゲームに繋いだ。
「Uue 100%?なにそれ?」
「通常の『HG 0%』というのは、水銀を使ってないという意味だ」
「じゃあ『Uue 100%』っていうのは、どういう意味なの?」
利人が答えようとした時、パソコンの画面が点滅した。
画面に大きく「PASSWORD ONLY 3 TIMES」と点滅している。
「やはり、パスワードが必要か」
利人は天井を仰ぐと、ため息をついた。
士呂がパソコン画面を見ながら言う。
「PASSWORDっていう英語の意味が「パスワード」なのは知ってるけど、あとの『ONLY 3 TIMES』ってなにさ?」
「パスを入力できるのは、3回だけって意味だろ。おそらく3回間違えると、ロックされる
「そうなったら、困るよ」
「それなら……」
利人はパソコンのデスクトップの、アイコンをクリックした。新しい画面が開いて、膨大な量の英数字が流れてゆく。
「それ、なにさ?」
「パスワード解析ソフト」
「えっ⁉利人、そんなの持ってんの⁉買ったことがバレただけで、ヤバイでしょ⁉」
「買ってない。手作りだ。いわゆるホームメイド。家庭料理みたいなもんだ」
「家庭料理とか言って、あったかい感じにしようとしてもムリだよ!明らかにヤバイやつじゃん!」
「国から許可は取っている」
「さっきの道といい、ソフトといい、国から許可もらってるって、利人、いったい何してるの⁉」
「俺の日常生活は、いいから……」
利人はしばらくキーを叩いていたが、大きなため息をついた。
「ダメだ。いつもなら簡単に開けられるのに、コイツはぜんぜん受け付けない」
「いつもって……。いったいどこをどう開けてるの?寒気しかしないんだけど……」
「世の中、知らないほうがいいこともある」
「じゃ、聞かない。それよりコレ、なんとかならない?」
「悔しいが、俺よりマリオのほうが一枚上手だ。どうりでスマホやiPadのセキュリティに、自信満々だったわけだ」
「マリオ、ノーベル賞の人だもん」
「たとえノーベル賞でも、負けたくない。俺はやるぞ!」
「利人に、いったい何のスイッチが入ったの?」
「やる気スイッチだ。お前、マリオからヒントになるような話を聞いてないか?」
士呂は、目をぐるぐるしながら考える。
「マリオと話したのは……怒涛学園と、ゲームと、飛び出しぼうやと、櫟野寺さんと、三浦じゅんの話とか……。コンピューターの話は、ぜんぜん聞いてないよ」
「怒涛学園か……。反応を見るために、試してみるか」
利人は「DOTOH GAKUEN」と入力した。
キイイイイーンンンッッッ!!!!!
「うわあぁ~!」
耳をつんざく大音響に、士呂がひっくり返った。画面は真っ赤に点滅している。
「おおお、おと、音、止めてぇ~!」
「ダメだ。止められない。ったく、どういうイヤがらせだ!」
ひとしきり爆音が鳴り響くと、急に静かになった。
画面に再び「PASSWORD ONLY 3 TIMES」が点滅する。
「…………今、決めた。絶対に開けてやる!」
「利人ぉ~、また間違えたら、あの音がするよぅ~!怖いよぅ~!」
「ちょっと、待て。おかしい」
「ボク、おかしくないよぉ~!あの音、怖いんだよぅ~!」
「おまえがおかしいのは、生まれた瞬間から知ってる。おかしいのは、この画面だ。なんで間違えたのに、数が減ってない?1回間違えたんだから、残りは『2 TIMES』になるはずだ」
「マリオは、そう思わなかったんじゃないの?」
「マリオは、そうは思わない……」
「マリオと利人は、ちがう人だもん」
「ちがう人……ちがう……これは、警告じゃないのか?」
「知らないよ!とにかくあの音はイヤなの!」
「このメッセージは、警告じゃないとしたら……?もしかして……」
利人は入力した。
「PASSWORD ONLY 3 TIMES」
♪シャララ~ン♪
音楽が鳴って、新しい画面が開いた。
「マリオのやつ、ふざけてやがる。警告に見せたパスワードだった」
画面に、文字が浮かぶ。
「WHAT YOU ?」
利人はうんざりする。
「またパスワードが必要なのか」
士呂が口を出す。
「『WHAT』って、なんだっけ?」
「『なに』だ」
「『YOU』は『あなた』だよね?」
「そうだ」
「『(「)なに(WHAT)?あなた(YOU)?』って聞いてるんだから、利人の名前を入れればいいんじゃないの?」
「そんなに簡単なものか?」
半信半疑で「RIHITO」と入れる。
士呂は爆音に備えて、両手で耳をふさいだ。
画面に文字が現れた。「HELLO! RIHITO!」
士呂は思わず拍手する。
「ボクね、ボクはね、士呂!」
「アホか。画面にしゃべったって無駄……」利人が言いかけると、画面から人口音声が響いた。
「HELLO SHIRO!」
「げ。コイツ、しゃべる」
人口音声は続いた。
「WHAT HERE ?」
声と同時に、文字が点滅する。
「コイツ、なんて言ってるんだ?」
「『WHAT』は『なに』で、『HERE』はなんだっけ?」
「お前、英語、ぜんぜん駄目だな。なんで高校に進学できたんだ?」
「わかんない」
「『HERE』は『ここ』って意味だ」
「じゃあ『なに、ここ?』って聞いてる」
「まんまかよ。ここ、なにって、何なんだ?」
「日本だよ。利人、知らなかった?英語ではね『JAPAN』って言うんだよ!」
「ここが日本で、スペルが『JAPAN』なのは、お前より俺のほうが知ってる」
「そうなの?」
「コイツの英語が支離滅裂なんだ」
疑わしそうに利人は「JAPAN」と入力した。
画面に文字が出た。「NOW ROADING ……」
利人は情けない顔になる。
「WHATの意味さえ知らない士呂に、負けた……!」
敗北感にうちひしがれて、利人は目を閉じた。