出会ったもんは、仕方ない。
マリオは満足そうに、ため息をついた。
「hoo……。とても良い撮影会でした☆」
士呂が笑う。
「飛び出しぼうやは、まだまだたくさんありますよ~。この先には、忍者の飛び出しぼうやもあります」
「ニンジャ!マジっすか⁉ニンジャ大好きです!ぜひ会いたい!それに、ニンジャ・カーも大好き☆」
「ニンジャ・カー?忍者の車?そんなの、ありましたっけ?」
「ありますよ。日本の車、とても静かでニンジャみたい。ほら、ああいうクルマです」
マリオが指さした先には、よくある白いハイブリッドカーが停まっている。
「ああ、たしかに静かですね」
「あのクルマは素晴らしいです。まるでニンジャみたいに静か。バチカンでも、たくさん走っています☆」
その後もマリオは飛び出しぼうやの看板が出現するたびに、大喜びで撮影した。
「すごくイイです☆こっちに目線、お願いします☆」
ピクリとも動かない飛び出しぼうやを、連写モードや動画で撮影している。
「ボクは珍しいと思わないけど、マリオさんには珍しいんだね~♪」
「オォォォォ!ついにニンジャ発見です☆」
ニンジャの飛び出しぼうやに感動したマリオは、踊りだした。
「うはは!踊るほど喜んでもらえて、ボクも嬉しい!」
「ハッ!すみません。道でダンスは、ヘンな人と思われますね」
「大丈夫~!田舎だから、誰もいないよ」
「せっかくだから、ニンジャとアンテナくん、一緒にお願いします☆」
「いいよ~!」
「決めポーズください☆」
「了解!」
数分経過。
「マリオさん、ここだけで1000枚くらい撮ってるよ?もう、いいよ」
「士呂さん待って、あと少しだけ……」
マリオはアングルを変えて、撮影に夢中だ。
「ン~……。なんでしょうね?」
マリオがスマホの画面を見て、つぶやく。
「どしたの?」
「さっきから同じニンジャ・カーが、画面に入ります」
「どれ?」
「ほら」
画面を見ると遠くのほうに、白いハイブリッドカーが写り込んでいる。
「このタイプはどれも同じに見えるから、偶然じゃないの?」
「そう……なのですか?」
「そうだよ」
「ま、いいや。気にしない、気にしない☆ワタシ、フェイスブックとインスタグラムとツイッターしています。飛び出しぼうやをUPするから、見てくださいね☆」
「ボクも、ツイッターしてるよ~」
「それでは、オトモダチになりましょう☆」
二人は互いにフォロワーとなった。
「えへへ♪マリオと友達♪」
「くふふ♪士呂とオトモダチです♪」
二人はご機嫌さんだ。
百夜寺に到着。
「初めまして。ワタシのおなまえは、マリオ・マキシミリアン・ド・フルステンブルグ・ユングです」
「待月 利人です」
マリオと利人が向かい合う横で、士呂はニコニコしている。
利人が士呂に聞く。
「で、なんだ?まさか隣の櫟野寺と間違えて、うちに連れてきたのか?」
「いくらボクでも有名な櫟野寺と、地味な百夜寺を間違えたりしないよ!」
「うちのテラを地味とは……俺が地味に傷付くのだが?」
「そうなの?ボクたち、ちゃんと櫟野寺に行ったんだ。でも十一面観音さまは、見れなかった。春と秋の特別拝観の時しか、見れないんだって」
「お前、いつでも見られると思っていたのか?」
「うん」
「拝観時期しか見られないのは、甲賀町民なら誰でも知ってるぞ」
「ボクも町民だけど、知らなかったさ。いつでも見れると思ってた」
「お前、本当は町民じゃないんじゃないか?」
「町民だよ!ボクと利人、保育園からずっと一緒じゃん!」
「腐れ縁は否定しない。それで、どういう経緯でここに連れて来たんだ?」
「マリオに利人の寺が隣だって言ったら、来たいって言ったから連れてきた」
「地味な寺に、ようこそ」
「どういたしまして♪」
「俺は、嫌味を言ってるんだが?」
「そうなの?わかんなかった。あ!忘れてた!地味な利人にお願いがあるんだ!」
「嫌味に嫌味で返しているが、それも無意識か。いったい、なんだ?」
「マリオに、アンテナくんのアホアホ大冒険を貸してあげて」
「お前は初対面の旅人に、俺の本を貸すのか?」
「すぐ読んで返すって言ってるよ♪ね?マリオ」
「早く読んで、早くお返しします☆利人さん、お寺のおしゃしん、いいですか?」
「どうぞ」
「ムービィーもいいですか?」
「どうぞ」
「Yher hoo☆ ヤッター☆」
マリオは大喜びで、境内の撮影を始めた。
張り切って撮影するマリオを横目で見ながら、利人が口を開いた。
「バイトの面接どうだった?」
「またダメだったさ」士呂はしょんぼりする。
「なんでダメだったんだ?」
「社長さん、ボクの父さんや母さんと同級生だったんだって。だからダメなんだって」
「両親が不採用の理由?何の仕事だ?」
「忍者だよ。手裏剣投げたり、壁の中から飛び出すの」
「壁から現れるのは『どんでん返し』だ。いったいどこのバイトだ?」
「忍者ランドだよ。オーナーさん、ボクの父さんと同じ中学で、母さんと同じ高校だったんだって」
「誰でも知り合いなのは、田舎あるあるだな。不採用の理由が両親というのは?」
「社長さんが教えてくれた。ボクの父さんがさわるとね、なんでも壊れちゃってたんだって。中学校の体育館とか、銅像とか」
「体育館や銅像が、いったいどうやったら壊れるんだ?」
「わかんない。とにかく何でも壊れるから『破滅の神』って呼ばれてたんだって」
「おふくろさんは?あだ名はキャノン(大砲)だろ。おふくろさんも体育館や銅像の破壊活動に勤しんでたのか?」
「ううん、ちがう。母さんは、モノを壊したりはしなかったんだって」
「それなのに大砲とは?」
「父さんみたいにモノは壊さなかったんだけど……」
「なんだ?」
「母さんは高校の全校集会で『校長先生のお話はムダに長いのに、中身がまったく無いのはなぜですか?』って質問したり、バイト先でイジワルなお客さんから『お客様は神様だろ!』言われたら『役に立たない疫病神ですか?』って、真顔で聞いたりしてたんだって。その場の雰囲気をこっぱみじんにするから、キャノンって呼ばれてたんだって」
「おやじさんとは、一味違った破壊行動だな」
「そだね。社長さんから『ご両親のことは人としてすごく尊敬してるけど、あの二人の子を雇う勇気はないんだ!ゴメン!』って、すごく謝られた」
「たしかにその遺伝子を受け継いでると考えるだけで、戦慄が走るな」
「ボク、フツーなのにね」
「フツーかは知らんが、破壊活動はしない」
「バイトは気長に探すよ」
「面接で断られるのを趣味にすればいい」
「それは、イヤ!」
マリオはニコニコして、境内の撮影をしている。
利人が訊いた。
「マリオさん、ここへは一人で来たのですか?」
「え?一人じゃないです。ワタシは士呂と二人で来ました。なぜですか?」
「いえ、べつに。うちのご本尊はこちらです。案内します」
本堂の畳に立つと、3人はご本尊を見上げた。
マリオが感嘆の声を出す。
「OH~!メガネをかけた仏サマです!初めて見ました!」
「珍しいでしょ~!マリオに見せたかったんだ!」士呂が得意そうに言う。
「なんでお前がドヤ顔なんだ?」
「だって利人は無表情なんだもん」
「俺は普通だ。お前の喜怒哀楽が激しいだけだ」
「ボクのほうがフツーだよ!利人の無表情は、フツーじゃない!」
「無表情の定義を、具体的に説明してくれ」
「利人より冷蔵庫のほうが、ずっと陽キャだよ!」
「比べる対象が冷えびえとした電化製品か?もう少しマシな物で比べてほしいが?」
「だってベッドと比べたら、利人は負けちゃうよ?」
「俺は冷蔵庫やベッドと、いったい何を競っているんだ?」
「人間性ってヤツ」
「冷蔵庫もベッドも、人間じゃない」
「えっ⁉じゃあ、利人は人間じゃないってこと⁉」
「……。一発、殴ってもいいか?」
「ボクは人間だもん。イタイからダメ!」
「俺も人間だから殴れば拳は傷むだろうが、今は拳より胸が痛むぞ」
「胸がイタイの?ダイジョウブ?」
「やっぱりお前、両親の遺伝子を引き継いでいるぞ」
「どうして?」
「……いや、いい。気にするな……」