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大混乱!!

 ユダが問いかけた。

「さあ、どうしますか?もう反撃の手立てはありませんか?しょせん、子どものお遊びということですか?」

利人が答える。

「………………お前たち軍人上がりと、手錠を掛けられた手で戦っても負けるのは、わかっている。俺たちは平和な日本の、平凡な17歳だ」

「それで?平和な日本で奥の手と言われる、土下座でもしてみますか?残念ながら外国人の私には、なんの効果もありませんが」

「土下座?無駄なことはしない主義だ。それに後ろ手に手錠をかけられていたら、土下座はできない」

「無駄を省くのは、素晴らしいことです。もし生まれ変わっても、同じ主義を貫いてください。私たちは、そろそろ行かねばなりません。また来世でお会いしましょう」

「無駄な殺生は、しないほうがいいんじゃないのか?」

「無駄な殺生?どういう意味です?この期に及んで、まだ命乞いですか?」

「事実を言っているまでだ。俺たちを殺すと面倒なことになるなら、殺さないほうがお互いのためだ」

「言っている意味が、よくわかりません。なんだか利人さんとの会話自体、無駄な気がしてきました」

「俺にとっては、無駄な会話じゃなかった。俺は無駄なことは、しない主義だ」

「さっきから何を言っているのです?先ほどの爆発の説明にしても、今の会話にしても、ずいぶんと無駄口が多いような気がします」

「俺は、無駄口は叩かない。俺がしゃべるのは、目的がある時だけだ」

「よくわかりませんが、謎もまた良いものです。あなたたちがこの世からいなくなった後で、利人さんの目的の意味について、じっくり考えてみます。ただ、利人さんとはお別れですから、正解は永遠の謎ですが」

男たちが銃を構えた。

「また来世で会いましょう」


バラバラバラバラ……・・。


遠くからヘリコプターのルーター音が聞こえた。

ヘリは、一直線にこちらへ向かっている。

ヘリの飛行音と合わせて、消防車やパトカーのサイレンが聞こえる。

ユダが耳を澄ませる。

「……ヘリもパトカーも……ずいぶんと大掛かりですね」

利人が言う。

「滋賀をナメんな」

「利人さんは、てっきりノープランだと思っていましたが?」

「あの爆発は、狼煙のろしだ。いたいけな少年が手に負えない事態になった時に、助けを呼ぶためのな。駐在所の破壊で警察がピリピリしている矢先に、この爆発だ。テロ行為と見なして、警察は現場に急行する」

「駐在所の爆発が伏線だったとは!それにしても、現場の特定が早すぎるのでは?」

「田舎のネットワークをなめんな。このクソ田舎に住んでいるのは、何より平和を愛するクソ田舎のじいさん、ばあさんたちだ。平和な村に煙が上がっていれば、ソッコーで通報する。その速さは、光より早い。滋賀県のジジババ、ナメんな」

「おじいさんやおばあさんの善意の結果が、あのヘリコプターですか?」

「そう。滋賀県警察機動警察隊。正義の味方だ」

「思い出しました。たしかここから20㎞ほどの場所に、機動隊のヘリポートがありました。正義の味方がご近所とは、羨ましいかぎりです」

「嫌味にしか聞こえんが」

「最後に一つ、聞かせてください。利人さんはさっき『こんなはずじゃなかった』と言いましたね。あれはどういう意味だったのですか?本来なら、どうなるはずだったのですか?」

利人が答える。

「さっきの爆発は助けを呼ぶ狼煙でもあるが、本当はもう一つ役目があった」

「その役目とは?」

「もともとは寺が火事になった時の消防設備だ。狼煙を上げると同時に爆発の圧力によって、書院の玄関から大量の水が噴き出すはずだった。その水がお前たちをなぎ倒すはずだったのに、作動しなかった。」

「なるほど。巨大な水鉄砲が、作動しなかったと?」

「なぜ作動しなかったのか、わからない。こんなはずじゃなかった」

利人が悔しそうにつぶやく。


「謎が解けてなによりです。そろそろ私たちは、退場することにします」

「この包囲網をどうやって抜け出すつもりだ?」

「無駄口を叩いて時間稼ぎをしていたのは、利人さんだけではないのですよ」

ユダはにっこり笑うと、空を見上げた。

遥か遠くに点が見えたと思った次の瞬間、丸い形の飛行物体が近づいてきて、後から爆音が響いた。物体のスピードは、音速を超えている。物体は驚異的なスピードで、あっという間に機動隊のヘリを追い抜いて、こちらに近づいてきた。

「UFOっ⁉」

士呂があ然とする。

「そういうことに、しておきましょう。謎は多いほうが楽しいですから。博士とテラさんは、お連れします。そして利人さんと士呂さんとは、今度こそ永遠にさよならです」

ユダは、銃を構えた。

利人が叫ぶ。

「俺はどうなってもかまわない!士呂だけは殺すな!」

ユダたちは、拳銃の引き金に手をかけた。

「ああ!神様!」

テラは絶望して、目を閉じた。

6発の銃声が響くのと、地面が揺れたのは同時だった。


ゴゴゴゴ!!!ガガガ!


轟音が響いた。書院の玄関に、黄金に輝く観音像が威風堂々と立っている。その後ろには、大量の流木が堰き止められていた。観音像は穏やかな表情を浮かべているが、背後の光景は混沌としている。

ドオーン!

再び爆発音が鳴り響いた。圧力で書院全体が膨らみ耐えられなくなった瞬間、観音像を先頭にした大波が襲ってきた。像が横っ飛びでダイブして、ユダに頭突きを喰らわすのを一同が呆然として見ていた。それも束の間、一気に流れてきた大量の水に全員が飲み込まれる。上も下もわからない状態で洗濯物のように水流に踊らされ、もみくちゃにされた。

水が引いた後の境内は、状況が一変していた。大量の流木が転がり、何もかもが泥だらけだ。

ユダは観音像の下敷きになり、気絶している。なんとかユダを救い出そうと、部下たちが持ち上げようとするが、5人がかりでも黄金の観音像はわずかしか動かない。

マリオが叫んだ。

「テラちゃんっ⁉どこにいるっ⁉」

「パパさん!アタシはここよっ!」

テラは大波の衝撃で、沙羅の枝に引っかかっていた。マリオは駆け寄り、テラを口でくわえた。

ゴゴゴゴゴ! 

再び轟音が響く。

利人が叫ぶ。

「次の波が来るぞ!逃げろ!」

突然の大水で腰が抜けている士呂を、利人が蹴とばして立たせると走りだした。マリオとテラも、後に続く。再び襲ってきた大水に流されて、4人は寺の階段を流れ落ちた。階段を滑り落ちる最中、眼の端にUFOが飛び去るのが見えた。


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