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科学のお勉強は、好きですか??

「みんな盛り上がってるかぁ~い?」

突如、声がした。

全員が驚いて声のした方向を見ると、ユダがニコニコ笑いながら立っている。にこやかな顔と裏腹に手には拳銃があり、まっすぐ利人の頭を狙っている。

「ユダでぇ~す♪お邪魔しまぁ~す♪」

ユダは明るく言うと、利人の拳銃が自分に向けられているのも構わず、傍に寄ってきた。

拘束された部下たちを見下ろすと、ため息をつく。

「エリート諜報員が、17歳に負けるのは良くないですねぇ」

利人がテラに言う。

「おいポンコツ。コイツが近づくの、わからなかったのか?」

テラが言い返す。

「アタシは防犯装置じゃないっていうの!だけどちゃんとサーチしてたのに……」

ユダは嬉しそうだ。

「私はヴァイキングの末裔ですから。誰にも見つからないように動くのは、ご先祖の代から得意なのですよ。最新鋭のAIと、忍者の末裔の裏をかけて、光栄です」

「忍者の末裔?俺と士呂のことは調べ済みか。仕事が速いな」

「利人さんの読み通り、私は諜報員ですから。情報を集めるのが仕事です」

ユダは、ひどい有様の台所を見渡してから、青空を見上げた。

「ありあわせの材料で、爆発を起こしたのですね。きっと利人さんは、お料理の才能がありますよ」

「嫌味にしか聞こえないな」利人が返す。

ユダはニッコリ笑った。

「私たちはユング博士と、テラさんを必要としています。テラさんにご同行頂ければ、利人さんと士呂さんの安全は保障します。テラさん、ご同行願えますか?」

利人が口を出す。

「ポンコツAIの判断に、俺の安全を委ねるつもりはない」

士呂がビビりながらも、きっぱり言う。

「テラちゃんは、マリオのところに帰るんだよ!おじさんは1人だけど、こっちは3人もいるんだからね!テラちゃんをムリに連れて行くのは、ムリなんだからね!」

ユダは顔をしかめる。

「おじさん……。あいかわらず、胸に突き刺さる響きですね……。そしてここに転がっている2人は、人数に入れてもらえないのですね。彼らはプロなのですけれど。交渉は決裂ですか?」

ユダはそう言うと素早い動きで、利人の銃に人差し指を突っ込んだ。

「こうすると銃を撃つ際に、暴発するというウワサです。私の指は吹っ飛びますが、利人さんの顔も吹っ飛ぶでしょう。ダメージは私よりも、利人さんのほうが大きくなりますね。さすがに私も指は大事ですから試したことはありませんが、良い機会なので試してみますか?」

「…………」

一触即発の沈黙が、重くのしかかる。

突如、ユダのインカムからロシア語が聞こえた。ユダは報告を聞き終わると、指を抜いてニコリと笑った。

「利人さん、銃を返していただけますか?」

「……この緊迫した状況で、それを言うか?」

「良いニュースがあるので、きっと自発的に返したくなりますよ。ニュースは2つあります。1つ目は、博士が無事に見つかりました。私の同志たちが保護しています」

「保護じゃなくて、拉致だろう?」利人が訂正する。

「保護か、拉致か。何事も、物の見方によりますね。2つ目のグッドニュースです。博士は利人さんと士呂さんの安全と引き換えに、私たちの交渉に応じると言っています」

「遠回しな言い方は止めろ。端的に言うとマリオの安全は、俺がお前に銃を渡すかどうかということだろう?」

「はい」

「そういうのは『脅し』と呼ぶはずだが?」

「まさか!どうぞ『グッドニュース』と呼んでください」

「それのどこが良いニュースなんだ?」

利人はため息をつきながら、ユダに銃を渡した。

「利人さんにとってバッドニュースかもしれませんが、私にはグッドニュースです。何事も、物の見方によりますね」

ユダは耳を澄ますと、言った。

「さあ、出発しましょう。さきほどの爆発で、人が集まってきました。見つかる前に、移動しましょう」

遠くからかすかに、消防車やパトカーのサイレンが聞こえてきた。


車内に気まずい沈黙が流れている。

後部座席にはカーテンが掛かっていて、外のようすはまったく見えない。

座席にはユダを真ん中にして両脇に、不機嫌な顔をした利人と士呂が座っている。

士呂の肩では、テラが小声で「ユダ、アンタ、ぜったいにぶっ飛ばしてやるんだから!」と、ブチブチ文句を言い続けている。

ユダだけはご機嫌さんで、利人と士呂にはさまれて、鼻唄を歌っている。

鼻唄が止まった。

「士呂さん、テラさんを私にください」

テラが怒鳴る。

「プロポーズかよっ⁉士呂、絶対に渡さないで!じゃないと、舌噛み切って死ぬわよ!」

「AIのテラさんに、舌はあるのですか?」

「うるっさいわね!実体はなくても、精神的な舌はあるのよ!」

「精神的な舌ですか……。なかなか哲学的な言葉ですね」

「いつかアンタをぶっ飛ばしてやるんだから!」

「精神的な腕で、ですか?ぶっ飛ばされても、ぜんぜん痛くなさそうですね」

ユダはニコニコしている。

「哲学はあまり得意ではないので、現実的なお話をしましょう。利人さんはどうやって、私の部下を倒したのですか?今後の参考のためにも、ぜひとも聞かせてください」

利人は目を閉じている。

「めんどくさい」

テラが言う。

「ユダは気に入らないけど、アタシも知りたい。利人はアタシと士呂を、置き去りにしたんじゃなかったの?士呂は撃たれたのに、どうして死ななかったの?」

士呂は目を見開く。

「ボク、銃で撃たれたのっ⁉ホントは死ぬはずだったの⁉」

ユダが提案した。

「テラさんが推理をして、利人さんが答え合わせをするというのは、どうでしょうか?」

利人の返事は聞かず、テラが口を開く。

「わかんないことは、いっぱいあるのよ。チワワを仏壇に入れたり、お線香までおそなえして見殺しにするつもりだったのに、戻ってきたり。ケチャップとかマヨネーズを撒いたり、士呂をグルグル巻きにしたり、爆発が起きたり、死んだはずの士呂が生きてたり……」

ユダが驚いて聞き返す。

「チワワを仏壇に入れたのですか⁉また、どうして?」

「アンタ、チワワよりも爆発とかに食いつきなさいよ!優先順位がおかしいわよ!」

テラがツッコむ。

「え、でも、チワワを仏壇って……」

「たしかに、すごくヘンだったのよ。あの時はヒドイことをすると思ったんだけど、もし爆発が起きたときにチワワがいたら、ケガしてたかもしれない。そう考えると、ケガをさせないために、仏壇の頑丈な引き出しに閉じ込めたのかな?って」

「犬はウロチョロしてジャマになるから、収納した」利人が言う。

「ホント、素直じゃないんだから。ケチャップとマヨネーズは、トラップでしょ?足を汚さないようにするには、ドアとテーブルの間に立つしかないもの。そこに誘導すれば、アンタが攻撃するのに都合がいいわ」

「そう思いたいなら、思えばいい」

テラは続ける。

「それから……利人は、お線香を持ち出したのよ。てっきりアタシたちの生前葬でもするつもりで持ってきたと思ったんだけど、後から戻ってきたのが、腑に落ちないのよね。なんで戻ってきたの?」

「もともと逃げるつもりはなかった」

「でも、逃げたじゃない」

「お前に、逃げたと思わせたかった」

「アタシに?」

ユダは感心する。

「なるほど!テラさんは、利人さんが一人で逃げたと思った。だから私の部下に、利人さんは逃げたと言った。もし演技だとしたら、部下たちも騙されなかったはずです。テラさんが騙されたから、部下たちも騙された。結果、すぐそばにいる利人さんに、誰も気づかなかった」

「アイツらが爆発で燃えた時に、絶妙なタイミングで利人が現れたのは、偶然じゃなかったのね」

「さあ」とぼける利人。

「そういえばアイツら、ぜんぜん抵抗しなかったのは、どうしてなのよ?元軍人にしては、おとなしすぎでしょ?」

「魔法の水をかけたから」

「バカ言ってんじゃないわよ。水になにを入れたのよ?」

「漂白剤」

思わず士呂が大声を出す。

「え!ヤバいって、それ!」

「一応、水で薄めた」

「一応って……」

絶句する一同。

テラが続ける。

「士呂を濡らしたペットシーツでグルグル巻きにして、さらにカーテンで包んだじゃない?あれは、爆発した時に、士呂がケガしないようにするため?」

「最近のカーテンは難燃性だからな」

「でも士呂は拳銃で撃たれたのに、なんで死ななかったの?ペットシーツやカーテンじゃ、弾を防げないでしょ?」

利人が答える。

「ダイラタンシー」

士呂が聞き返す。

「だいらたんしーって、なに?」

テラが説明する。

「指でさわるとフニフニ柔らかいのに、強い力がかかるとガチガチに固くなる性質のこと。ペットシーツはポリマーだからフニフニだけど、拳銃で撃つと、一瞬でガチガチになるのね。ペットシーツって、防弾チョッキになるんだ!」

「お前がAIなら、俺より先に考えついてもいいんじゃないのか?」

「ペットシーツで防弾チョッキとか、どこのネット情報にも書いてないわよ!」

「なんだ。ネットの情報だけが頼りか」

「学習中なの!」

ユダが尋ねる。

「それにしてもなぜ、士呂さんをわざわざ危険な目に遭わせたのですか?最初からいなければ、撃たれることもないのに」

「士呂がバタバタ逃げて撃たれたら、どこに当たるかわからない。それなら撃たれても死なない状況を作って、拳銃の弾を消耗させたほうが得だ」

テラは、あきれる。

「得って、アンタ……。もし士呂が死んだら、どうするつもりだったのよ?」

「いま生きてるから、死んだ場合を考えるのは意味がない」

「アンタ、悪魔よりタチが悪いわね?」

「俺は自分の利益になるなら、なんでもする」

「ほんっと!サイテーっ!それで?あの爆発は、どうやったの?」

「粉塵爆発」

ユダが嬉しそうに声をあげた。

「わかりましたよ!利人さんがお線香を供えたのは生前葬をするためではなく、引火を誘発するためです!」

テラが疑わしそうに訊く。

「そうなの?」

利人はうなずく。

テラは、思い出しながら話す。

「あれって……圧力鍋だったのよね。利人が粉を鍋に入れて、火にかけた。鍋の蓋にアタシを固定して、動けなくした。アイツらがやってきて、アタシを持ち上げた瞬間、ドカーン!」

「粉塵爆発と言うからには、利人さんが入れたのは粉体でしょう?何を入れたのですか?」

「小麦粉」

士呂が目を丸くする。

「小麦粉って、爆発するの?」

ユダが笑う。

「アハハ!小麦粉は爆発しないです。基本的にはね。けれども一定の条件を満たすと、爆発します。良い子の士呂さんは、マネしちゃダメですよ!あの短時間で考えつくなんて、利人さんは素晴らしいですね!」

テラが言う。

「整理すると、敵が追っかけてくるのを見越して、爆発を仕掛けた。士呂がうっかりケガしないように、グルグル巻きにした。そして利人はいないと油断させておいて、後ろからヤバイ液体をかけて、敵を捕まえた。捕まえた後に、いろいろと訊くつもりだった」

ユダが気の毒そうに謝る。

「ごめんなさいね!せっかくそこまで上手くいったのに、私が邪魔をしたのですね」

「皮肉か」

利人が不機嫌につぶやく。


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