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宴もたけなわ??

(利人はなんでこんなことするの?)

士呂は拘束を解こうと力を入れるが、身体はわずかに揺れるだけだ。

テラが緊迫した声を出す。

「アイツらが来たわよ!」

その声は、幾重にもくるまれている士呂には聞こえない。

「お願い!士呂、動かないで!動いたら、アイツらに気づかれちゃう!」

テラの願いが通じたのか、士呂は動かなくなった。

廊下の床が軋む。


ギッ……ギッ……。


「アタシが見つかったら、士呂が殺されるわ」

テラは、圧力鍋の陰に隠れた。

ヒゲ男とワシ鼻が拳銃を構え、戸口に立った。マヨネーズとケチャップが撒かれた床にひるんで、立ち止まる。巨大な物体(中身は士呂)に銃を向け、互いに目配せを交わす。ワシ鼻は無言でヒゲ男に「行け」と合図した。ヒゲ男はマヨネーズとケチャップの床を見て、難色を示す。しばらくにらみ合いが続いた。ヒゲ男は視線を逸らすと、舌打ちをして一歩踏み出した。汚れていない床を選びながら、慎重に近づく。その後ろではワシ鼻が銃を構え、油断なく警戒している。

ヒゲ男がサイレンサーを、物体(じつは士呂)に突き付けた。

「う~!う~!」

士呂がうめいて、急に身体を動かす。

カシュッ! ヒゲ男が反射的に引き金を引くと、小さな発砲音がした。

「士呂!」

テラは思わず飛び出した。

「やめて!」

男たちは、テラを見た。

ワシ鼻がロシア語で、インカムに向かって報告する。

【対象物および、謎の物体を発見。中身はおそらく朝日 士呂と思われる】

士呂がわずかに動いた。

「まだ生きてる!士呂、動かないで!」テラが懇願する。

インカムから声が聞こえた。

【対象物を回収。朝日 士呂は処分しろ】

男たちは、銃を上げた。

テラが絶叫した。

「やめてえぇ―!」

カシュ!カシュ!カシュ!

頭部に銃弾を受けた士呂は、動かなくなった。


 テラはショックのあまり、泣いている。

「士呂を殺すなんて!アンタたちと利人だけは、絶対に許さない!」

男たちはテラの声を聞くと、利人を探して視線を動かした。

「利人なら、一人で逃げたわよ!アタシと士呂を見殺しにしてね!」

ワシ鼻はインカムに話しかける。

【一人は処分済み。待月 利人は逃走中。対象物を回収次第、待月 利人を処分するため追跡にあたる】

ワシ鼻は報告を終えるとテラを凝視して、近づいてきた。

「来ないで!」

男はそっと手を差しだす。

「触らないで!」

チェーンは蓋に固定されていて、動かない。男はイラついた様子で、ゲーム機を引っ張った。



バアアン!


爆発音が響き渡り、天井が吹き飛んだ。男たちは火に包まれ、悲鳴をあげる。バケツを持った利人が現れ中身をぶちまけると、火は消えた。男たちは目を押さえ、苦しがっている。利人は抵抗できない二人から拳銃を奪い、ラップで拘束した。

テラが泣き叫ぶ。

「アンタ、今さら戻っても遅いわよ!士呂は死んだわ!アンタのせいで!アンタが殺したのよ!」

利人はカーテンの中から動かなくなった士呂を出して、手早くシートやラップをはがした。ラップに突き刺さった拳銃の弾が、床に当たって音を立てる。

士呂の顔は真っ青で、動かない。利人は顔面に、猛烈なビンタを喰らわせた。

「やめなさいよ!アンタには、良心ってもんがないのっ⁉死んでまで裏切られる士呂がかわいそうじゃないのよ!」

「や、やめて~……」

「えっ⁉」テラが大声を出した。

「いたいよ~。ビンタはやめて~……」

死んだはずの士呂が、声をあげた。


「士呂、生きてる……なんでっ⁉」

「説明は後だ。人が集まって来るまえに、コイツらに訊きたいことがある。テラ、通訳はできるか?」

テラは、戦意喪失して目を押さえる男たちを見下ろし、胸を張る。

「あったりまえじゃない!アタシをナメてもらっちゃ、こまるわ!この男、さっきロシア語で報告してたわ!」

「テラを狙うとは、ロシア対外情報庁か」

まだ顔の青い士呂が訊く。

「なんでロシアの人が、ボクたちを追いかけるの?」

「それを今から聞くんだ」

男たちは焼け焦げになり、目を真っ赤にして、落ち着かないようすでモゾモゾしている。利人はヒゲ男の頭に、拳銃を突きつけた。男の動きがピタリと止まる。

その光景を見た士呂が、おずおずと口を出す。

「ねぇ?利人は最初『関わり合いになりたくない』って言ってたのに、今は積極的にカラんでるように見えるんだけど……?それにいくらなんでも、人の頭に拳銃を突きつけたらダメだと思うよ?せめてお尻とかにしない?」

「撃ったらアタマもケツも同じだ。関わりたくなかったが、個人的に攻撃されたから関わるまで。いかなる者であれ、借りは返す」

「個人的に攻撃?なにかされたの?」

「俺の大事なケメコ(自転車)に、発信機が付いてた。マリオが戻ってきて、また乗るかもしれないと、コイツらが発信機を付けたんだ。マリオがチャリに乗りさえすれば、すぐに誘拐できるからな。だが誘拐は許す」

士呂が思わず声をあげる。

「え?そこ、許すとこだっけ?誘拐って、犯罪だよね?」

「ああ。誘拐は許す。俺は関知しない。だが発信機を付けるときにコイツら、よりによってケメコ(自転車)に傷を付けやがった。俺のケメコ(自転車)に傷を付けるのは、絶対に許さない!」 

「誘拐はよくても、チャリのキズはダメなんだ……」

「俺のケメコを傷付けるのだけは、絶対に許さない。ケメコ(自転車)に発信機が付いているということは、まだマリオを捕まえていない証拠だ。だからコイツらも、近くにいるはずだと推測した」

「この人たち、どうやってケメコ(自転車)を見つけたんだろ?」

「おそらく警察無線を傍受しているんだろう。わざわざ車を変えてくるあたり、素人じゃない。組織的な犯行だ」

「利人、銀行の前でなにしてたの?」

「コイツらに、どうやって仕返ししようと考えてた。ケメコのキズだけでも許せないのに、コイツらは俺を銃で撃ってきた。これは、明らかな宣戦布告だ。だから俺にケンカを売ったことを、死ぬほど後悔させてやると決めた」

テラが、あ然とする。

「それでアンタ、さっき警察に通報しなかったの?チャリにキズを付けられたからって、ロシア国家にケンカ売るの?」

「そうだ」

「アンタ時々……たまに……っていうか、よくバカって言われない?」

「言われない」

「じゃあみんな、正直な感想を言わないのよ。良かったわね、優しい人ばっかで。アタシはアンタを、心の底からバカだと思うわ」

「ポンコツAIにバカ呼ばわりされても、痛くもかゆくもない。俺のバカ度はいいから、通訳してくれ」

士呂が食い下がる。

「でもでも、アタマに銃はよくないと思うよ?」

「いまだに頭を撃ち抜いてないのは、俺の仏心だ」

テラは、天を仰ぐ。

「アンタの仏心って、死ぬほどせまいんじゃないの?」

なんだか収集がつかなくなってきた。


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