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第一話 終期

広大な大地は誰のものでも無い、川のせせらぎも、差し込む陽射しも、春も、夏も、秋も、冬も、誰のためでもない。


人の意思は、欲深く傲慢で、打算を許さず完璧で、それでいて自由な発想とユニークに満ちていると称賛せずにはいられない。


キュリオス。あなたは今、何処で何をしていますか?

見つけることは容易いけれど、私はあなたが私を見つけるまで、あなたと始めたこの遊びを辞めないつもりです。


本当はあって話をしたい、あなたの匂いを嗅いで溢れる思いを、溢れる感情をあなたに聞いて欲しい。


繰り返す輪廻の輪を、絶えず変わる理を見据え、あなたと相見える一瞬(とき)を心から望みます。


どうかそれまで健やかに。私が愛した人の子よ。






「.......また、いつもの夢」


独り言を呟いて、量販店で買った軋むベットの上、目を覚ました。


窓に掛けられた遮光カーテンが、昼の陽射しを完全にシャットアウトしているお陰か、8畳一間のフローリングは今日も冷たそうだ。


目に見えて、手を触れられる範囲にはスマホ、ティッシュ、大学の課題が入ったカジュアルな赤色のA4リュック、充電器がある。


何気ない一日の始まり、何の変化も起こらない人生の始まりが毎朝、毎昼、毎夕やってくる。


大学に行って、講義を受けて、頬杖ついて、眠たくなって、時間になって、チャイムがなって、お腹が空いて、ご飯を食べて、適当に遊んで、取り繕って、誰かと会話して、疲れて帰って、スマホ触って、ゲームして、眠たくなったらちょっと焦って、シャワーを浴びて、ホッとして、ようやく寝る。


何をやってても楽しくない、でも何かやってないと刺激がない。そんなつまらない、つまらない一日の始まり。




まぁでも.......平凡が1番の幸せか.......。


そう呟きつつ、ベットから降りる。洗面を済ませ、トイレを済ませ、思いのほか水分取ってたんだな~っとか考えて、着替えて、髪の毛整えて、ちょっとピンポイントメイクしてっと。


そんじゃぁ3限目の

「融合世界」

って言ういかにもぶっ飛んだ講義でも受けに行きますか。

これで単位が貰えるとか.......本当に世界で5本の指に入る有名大学か?でもまぁ、馬鹿と天才は紙一重♪


昨日帰ってから適当に置いたリュックのチャックをユックリ締めて、3限目の授業を受けるため、右肩に担いだ。


変わらない世界と変わらない友達と、何の変哲もない日常がドアの向こうにある。

だからこそ、この何の変哲もない

普通の世界

が消えるなんて思ってなかった。

上下に設置された鍵の上側を廻す

ウィー…ガチャ

電動の味気ない音が耳を掠めた。

おかえり

可愛い声が脳に響いて、愛しい息吹が耳元にかかったと同時に、ドアの外の世界が目に入る。

真っ赤な、真っ赤な、でっかい鱗がワサワサ揺れていた。



ひっ……

在り来りな反応をしてしまった。

それはそうだ、目の前にいつもの街並みがない。

あるのは、あるのは真紅の鱗だ。

何だこれは?夢か?夢なのか?すげぇワサワサしてる。

動いてる?生きてる?何か金木犀ちっくな不思議な匂いがしはる。


なんやコレ、どないなってん?

コレはアレか?新しい何かのイベントか?


触れるか?いや待て早まるな!コレは一旦ドアを閉めて、もう1回ドアを開けたら消えるかもしれない、触ってはいけない、触ったら帰れない。何だかそんな気がする。ここは1つ冷静に…


思考は堂々巡りだ。まだ何も決められない。しかし決めなければ、永遠に終わらない。よし…………。閉めよう。


これはしょうがない、街並みの代わりに真紅のワサワサした鱗とかファンタジーやん?

何や言うてもコレは突拍子がない!

コレはアレよ、あのーアレよ、ゆっくり音すら立てずにドアを閉めよう。



ゆっくり音を立てずに、波風も立てずに、ただただ無心で、まるで流れる水のように、頬を撫でる風のように、地を這う土竜のように。


スーーーーーーーーーーーーーーッ。


汗が…止まらん。何やのアレは。初めて見た。真紅の鱗。しかも多重鱗群。ワサワサではなくモッサリがしっくりくる質量。



怖いわ、怖すぎるわ。日常じゃないわ。なんなん?

あれか?親の言う事聞かずに地方の大学に進学したことが、原因か?それともコンパで、髪の毛派手めの女の子に声掛けたのが逆鱗に触れたのか?

分からん。分からなさすぎて、再チャレンジするのが怖い。


だが、だがしかし、今日の講義はサボれない。


乗るか反るかの壇上に勝手に前触れなく立たされた。


怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い


カタッ…………


感情の濁流が「恐怖」に染まりそうになった時、鼓膜への刺激が意識を引き戻した。


それは何かが倒れた音。それは何かが何かに触れた音。それは控えめに言って安心する何かの存在。

それは……何。


確かめるしかない。確かめたくない。自分の部屋に何かが居るなんて思いたくないし知りたくない。


でも、確かめずには居られない。ならば……ならば……!


どぅわれがぁへやにあがぁってぇいいとぉぅいったがやぁ!!!?


精一杯だった。精一杯の精一杯の虚勢だった。


カタカタ……カタン


うぇぁぁぁあいやぁぁぅえいがあたなかいなやまかのややらゆかほたなやなこなまねせほはららににたやのややれりたはなゆぬこらりまたかこはやななかこへりまたかははなぬあたやゆらはさひらよ!!!!?



言葉にならない言葉が溢れ出た、それは更なる恐怖との対峙、でも新たな希望と苛立ちの咆哮。

誰のためでもない、自分自身との向き合い方の判明の瞬間と前兆だったのかもしれない。

手に一滴の勇気、額に流れるちょっと臭い汗、それを振り切り目を向けた先に居たのは、小さな小さな2等身の、2枚の羽が生えた、可愛い様なへちぇむくれな。。。ドラゴンっぽい何かだった。


印象的だったのは、その体躯がデフォルメされたものに関わらず、先程玄関ドアをミッチリ塞いでいた「深紅の鱗」に覆われていたことだった。


彼なのか彼女なのか分かりはしないが、その個体は俺に一言こう言った、


「ウォタン」


平々凡々とした日常が音もなく崩れ、これから始まる物語が俺を迎えに来た音がした。

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