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マメゴロウの謎

作者: 守山みかん

小学生の頃、私にはマメゴロウというあだ名が付いていた。

あだ名の由来だが、実は私自身に一向に思い当たる節がない。

そこで、なぜ私にこのあだ名が命名されたのかを考察してみたい。


まず、マメと言えば、小さいという印象がある。

豆電球などは、小さい電球を豆と表現したものだと想像できる。

体が小さかったから、私にマメなどと付けたのなら理解できるが、あいにく私の背丈は後ろから四番目の高さで、マメと呼ばれるに相応しい男子は、私の前に二十人はいたのだから、小さいという意味ではないことは明らかである。


あだ名には、名前をもじって作られたというケースも多々ある。

ノンちゃんやユッコのように、元の名前を呼びやすくするために省略形にしたというような感じのモノである。

私の本名は『前田』というのだが、マエが訛ってマメになったなどと、まあ考えられなくもない。

当時、コメディNo.1という漫才コンビのツッコミ役として前田五郎という芸人がいた。

その芸名にあやかって、マメダゴロウからマメゴロウと変化したという説も考えられるが、だいたい私と前田五郎との共通点は無い。

顔は似てないし、前田姓なら他にもいたし、キャラも似ていなかったし、前田五郎が由来であるのなら、命名の対象が私である必要はないと感じる。

つまり、前田五郎説は、私的に却下なのである。


マメを辞典で引いてみると、①豆類、②忠実な様、③出来物などとされているが、まず私は植物ではなく、また出来物のようにヒトから邪魔者扱いされた経験が無いことから、該当するのは②だけであると主張する。

よって、ここはひとまず『忠実』である意を採用するとして、次はゴロウについて考察してみる。

いかにも人名らしい響きだが、松本清張の『砂の器』で、目撃者が耳にした『カメダ』が人名か、地名かで悩むという展開があった。


仮に人名ならば、まず曾我兄弟の弟、五郎こと曾我時致を思い浮かべる。

三大仇討ちと称される『曾我物語』は歌舞伎や数々の映画化によって知られているが、史実に基づいた物語は、全て処刑されてお終いなわけで、名誉であろうと、不名誉であろうと、処刑されるのはイヤだから却下である。


ゴロウと名の付くタレントが何人かいるが、これも名誉、不名誉の(はかり)に掛けるまでもなく、私とは無関係なので却下せざるを得ない。

つまり、人名由来ではないと断言できよう。


では、地名か?

私の出身地、かつての住居地、そして現在の住居地のどれをとってもゴロウは出てこない。

最果ての地にゴロウという地名を見つけたとして、それが私に何の関係があるというのか?

結論として、私にとってゴロウは何の関連性を持たない言葉であり、それを修飾するマメを適用させるにも、ゴロウと繋がらないのなら、これもまた意味を持たない。

以上の考察により、マメゴロウは日本語ではないと結論付けられた。


では、外国語であるとして、どこの言葉なのか、それを探らなくてはならない。

まずは英語で考えてみるが、MAMEGOROを単語で調べても、該当するモノは無い。

そこでMAMEGOROを切り分けてみるのだが、どこに線を入れるかが鍵になってくる。

MAMで切り取ると、『母親ママ』の意味を引き出せる。

続いて、『自我』を意味するEGO 。

残ったROは、LOWと置き換えれば『低い』となる。

繋げてみたら『母親は自我が低い』となるが、これだと意味がわからないので、別の切り分けを考える。

MAMEで切ってみると、返品を食らったようにマメが戻ってきた上に、メイムと発音が変化してしまう。

結論、これは英語ではない。


それでは、マメゴロウと発音し、意味のある言葉として存在する言語の存在を英語以外の他国に広げて探ってみることにした。

と、意気がってみたものの、主だった国の言葉を探った結果、マメゴロウという発音が意味を持つ例は発見できなかった。

機関やプロジェクトの略称だとしたら、どうだろうか?

MAMEGOROは何かの頭文字の組み合わせというのである。

これを世界の隅々まで調査するには、気が遠くなるような時間を費やさなければならない。

さらには、ISOのように、International Organization for Standardizationであるにも関わらす頭文字の並びを変えてしまう例もある。

並べ替えてMAMEGOROと響きを意識したのであれば、それこそ日本国内に特定され、たった今、日本語由来ではないと結論付けたばかりなのに、考察の逆戻りになってしまう。

つまりMAMEGOROは、その通りの並びで、英単語の頭文字で形成された機関名または組織名とされるものなのである。

では、何の略称なのだろうか?


実は『母親』を検索した際に、目に付いたモノがあった。

いわば辞書検索時の副産物である。

それによると、『MAM』はMobile Application Management の頭文字で、『モバイルアプリ管理』を意味するそうだ。

仕事で社員に貸し出したモバイル機に職務とは無関係のゲーム等を入れたり、不正なサイトにアクセスしたためにコンピューターウィルスに感染されたり、機密情報等が漏洩することのないように、アプリケーションの使用制限を設定し、個々の機器が適切に使用されることを維持管理するのが私の役割と言うことになるのか。

では、残りのEGOROは何の頭文字なのか?

残念ながら、それらを示す検索結果は得られなかった。

よくよく考えてみたら、私が小学生だった頃は昭和時代。

『モバイル=携帯端末』などというモノは存在していなかったのだ。

つまり、この根拠は有り得ないということになる。


ああ……ここで行き詰まってしまった……

あの時、『マメゴロウ』の命名者は、私の何を見抜いたのだろうか。

たかが子供が想像したこと……だとしても、某か根拠があるはずである。

私の顔が『マメゴロウ』と呼びかけていたというのなら、私の顔のどの部位が『マメゴロウ』を語っていたのだろうか。

命名した子供に、不意に『マメゴロウ』を発想させるようなインスピレーションを与えるきっかけとなったモノは何なのだろうか。

それは、やはり私の顔にあるのだろうか。

手足や腹、背中が由来のあだ名などは聞いたことがなく、やはり顔が由来であると考えるのが普通と思われる。

そうなると、謎なのは私の顔ということになる。

面長。

額は広め。

三角眉。

下が直線の半円形の目。

丸っこい鼻。

受け口気味の唇。

特に特長の無い顔だと思っていたが、『マメゴロウ』と命名される才能が隠されていたらしい。

なるほど。『マメゴロウ』は、私の雰囲気だったのだ。

私が醸し出した何かそそるような特有の雰囲気が、命名者に『マメゴロウ』という言葉を導かせたのだろう。

そして、『マメゴロウ』と命名された後の私のこれまでの生き方は、はたしてその指針から外れたりしなかっただろうか。

今の私は、『マメゴロウ』と呼ばれるに相応しくない存在であったりしてないだろうか。


図々しいと思われるかもしれないが、今の私は幸せである。

家族に恵まれ、仕事に恵まれ、多くのヒトに支えられ、そして愛されていると実感できる。

決して自惚れではなく、虚勢を張っているのでもなく、この状況は事実であると、自信を持って伝えたい。

もし、私自身が謙遜して、可もなく不可もなくなどという評価を下してしまったなら、私を支え、愛してくれているヒトたちを侮辱することになる。

だから、私が幸せだと伝えなければ申し訳ないのである。

私にも経験した苦労や積み重ねてきた努力はあるが、それを得意口調で語るつもりはないし、不幸な境遇を自分なりに乗り越えてきたことをひけらかすつもりもない。


さて、ここまで考察してきて、何となく結論に至ったのではなかろうか。

私が、なぜマメゴロウなのか?

と言うよりは、

私が、なぜ幸せになれたのか?

その理由は、『マメゴロウ』に忠実であろうとしていた成果なのかもしれない。

『マメゴロウ』の命名者には感謝せねばなるまい。


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