アジトを目指せ!
おれは倒れた男に近づき、聖水の瓶を逆さにすると、底の部分をぐるぐると回した。
「い、行け!」
よく分からないが、口走っていた。
瓶の口から勢いよく音を立てながら、聖水が噴き出す。おれはうつ伏せになった男の頭から足までくまなくぶっかけた。
「よし、よい感じじゃ!」
リーダーは剣を構えてジリジリと牽制するような動きを見せた。男は聖水の冷たさに一瞬反応したが、そのまま動かなくなった。
「だ、大丈夫かな」
おれが空になった瓶で数回男の背中を突くと、体をよじり、そしてむくりと体を起こした。
「えーと、私は一体……」
男は膝立ちで、あたりを見渡した。
「おお、正気に戻った」
「お主は『呪い』にかかっておったのじゃ」
額のあたりを手で撫でながら、男は言った。
「顔がヒリヒリする、これが『呪い』……⁉︎」
すいません、それは違うんです。
「大変ご迷惑をおかけしました」
男は丁寧に言うと、深々と頭を下げた。
「聖水をお持ちということは、あなた方が」
「お主、何か知っておるのか?」
「私、自警団の者です。あなた方を案内するつもりだったのですが」
「途中でやられたのじゃな」
「面目ない」
自警団の男ーー団員とでも言うのだろうかーーは荷物を背負うと、おれ達に着いて来るよう促がした。
「我々のアジトへ」
いや、帰ろうぜ、おつかいは済んだんだ。日が暮れる前に……
「今から帰ると野宿じゃぞ、勇者よ」
「……街の外は危険、特に夜は……」
くっ、二人ともお見通しかよ。それともおれが単純すぎるのか。
街は静まり返っていた。人通りは無く、ところどころに破壊の残骸が見受けられた。
「この聖水があれば、きっと」
団員は歩きながら、この街の事、呪いのことなどについておれ達に説明した。
「詳しくは、団長とシスターから聞いてください」
シスターって、あれか、尼僧ってやつか。
「さあ、もうすぐです。この角を曲がって……うっ!」
「どうしたんですか?」
一応聞くが、分かってるぞ、この展開!
「奴らが!」
「やっぱり!」
曲がり角の建物の陰からそっと覗き込む。
「五人いるぞ」
おれは血の気が引くのを感じた。複数相手は初めてだ。
「お主、アジトとやらは、近いのじゃな」
リーダーが団員に言う。
「ええ、ひとっ走りです、奴らさえいなければ」
「なるほど。ならばお主は走るのじゃ」
えっ、リーダー、何を⁉︎
「わしらが奴らを引きつける。お主は仲間を連れて助けに来るのじゃ」
「でも、それではあなた達が」
「かまわぬ」
「それに、ちょっと足が痛くて」
「それは……悪かったのじゃ」
「でもリーダー、引きつけるって……」
「お主にも走ってもらうぞ、勇者よ」
嫌な予感しかしないぞ!