どこかで見たような
狂人が迫る。おれは短剣を鞘から引き抜いた。
「こ、これは……⁉︎」
短い刀身、ところどころ刃こぼれしていて、色合いもくすんでいる。全然使えなさそうだ。
「これでどうしろと」
困惑するおれに、リーダーが手を伸ばした。
「その剣をよこすのじゃ、ほれ」
おれは包丁を渡す要領で、リーダーにそれを手渡した。
「手を離すのじゃ、危ないぞ」
「ふん、そんなナマクラの何が」
言いかけて、おれはギョッとした。短剣が、激しい光を放っていた。
「これが兄上の剣の秘密じゃ」
短剣、いやもはやそうは呼べない、光の剣。小柄な少女には少し長すぎるそれは、蛍光灯のように眩しく発光していた。
「……魔法剣……」
魔法使いが呟く。何か知っているのか?
「……魔力によって形を変える、レアな剣……」
「攻撃魔法の使えない、わしのような者にはうってつけなのじゃ」
確かにおれも攻撃魔法は使えないな。っていうか、魔法自体も。MPゼロだし。
「おれにコレを渡すって、あてこすりかよ」
「兄上は色々アレじゃが、そんな嫌味なことはせぬのじゃ」
ということは、おれにもいつか使いこなせるのかな?
リーダーの姿、どこかで見たことがあるような、映画とかで……そうだ、光の剣にゆるくローブを羽織った姿、これはまるで……
「リーダー、ジェ○イの騎士っぽい」
「???じぇ?…….まあ、騎士というのは悪くない」
ドヤ顔でヒュンヒュンと小枝のように振り回す。案外似た者兄妹なのか。
「さしずめ、女騎士といったところかのう」
いや、その呼び方はちょっと。
「……クッ、殺せ……」
黙れ魔法使い。どこで覚えたんだ?
「わしらがやつを転げさせる!勇者は聖水をぶっかけるのじゃ!」
なんか、おれだけ攻撃方法がダサいな。
「来るぞ、皆構えるのじゃ!」
走って近づいて来る狂人。前髪と眉毛が少しチリチリしていた。
「……ゴメン……フレイム!……」
顔面に直撃……しない!走る勢いを少し落として、大きく迂回した。おそらくはおれ達の側面を狙っている!
「避けた!」
「ぬう、学習したか!ならばこうじゃ!」
リーダーはスッと向きを変えると、両手でゴルフのスイングのように振り抜いた。
「てい!」
両足の向こうずねのあたりに直撃する。
「ウオアアアアアア」
呻き声を上げて狂人が倒れ込んだ。石畳にヘッドスライディング!
「うっわ、痛そう」
「今じゃ、勇者よ!」
「よ、よし!」
行くぜ、聖水ぶっかけ攻撃!