剣の重さ
「あそこから入れるのじゃ」
城壁に囲まれた街。リーダーの指し示す先には、入り口らしきものがあった。
「はて、ちと様子がヘンじゃ」
うう、イヤな予感しかしない。
「普通、番人とかいるよね」
この世界の都市のことはよく分からないが、これでは壁で囲った意味が半減するだろう。
「以前来たときにはおったのじゃが」
不意に魔法使いがおれの肩を揺すった。
「な、なに?」
「……あれ……」
猛烈な勢いでこちらに向かって来る人影。近づくにつれて、その大柄な肉体や、理性が失われた表情がうかがい知れ、おれは身震いした。
「来たぞ、狂ったやつが!」
「勇者よ、お主は荷物を守るのじゃ。魔法使いよ、お願いできるか?」
「……任せて……」
リーダーの作戦はシンプルだった。走って来る狂人の顔にカウンターで火を浴びせ、怯んだ隙に逃げる、というリーダー曰く「動物の本能を逆手に取った」作戦だ。
「火力は控え目に頼むぞ、まあいざとなれば、その限りではないのじゃが」
「……うん、分かってる……」
おれも腹をくくらないとな。こいつを使うかも……おれは腰に下げた短剣の重さを確かめた。
「来るのじゃ、もう少し引き付けて……今じゃ!」
合図とともにおれ達は動き出した。先頭でタイミングを見計らうリーダー、その肩越しに魔法使いが攻撃を放つ。
「……フレイム……」
魔法使いの指先からボッと、大道芸のような炎が上がる。勢いづいた狂人は、まともに頭から突っ込み、もんどりうって路上に倒れ込んだ。
「走れ!……じゃが瓶は割るなよ⁉︎」
無茶言うなよ、この!おれはガチャガチャと音を鳴らしながら、八分くらいの力で走った。
「もってくれ、異世界の瓶!」
まるっきり運任せだ。南無三!
狂人は立ち上がると、懲りずにおれ達に向かって来た。
「まずい、追いつかれる」
おれはもともと足の速いほうではないが、それに加えて背中の荷物。もう、時間の問題だ!
「……手加減は今のが精一杯……」
ハアハアと息を切らしながら魔法使いが言う。
「ならば、次の一撃で決めるまで!勇者よ、荷物を下ろすのじゃ」
おれ達は走るのをやめた。おれは言われるがままに荷物を下ろす。
「やるぞ、『ぶっかけ』じゃ!」
「ぶっかけ⁉︎……えーっと、リーダーに?」
「なんでじゃ!ええい、抜くのじゃ、貴様の短剣を!」
「……案外ノリノリ……」
「くっ、そんなつもりは無いのじゃ!」
た、短剣ですか⁉︎