呪いと聖水
「兄上、いい加減に本題に入るのじゃ」
リーダーがそう言うと、兄貴は床に置かれた木箱を指して言った。
「あれを、隣の町まで届けて欲しい」
木箱はビールケースくらいの大きさで、中には液体が詰まった瓶が、隙間なく詰まっていた。
「私が行ければ良いのだが、あいにくこれから仕事があってな」
「分かったのじゃ。して、瓶の中身は?」
リーダーが覗き込む。
「……これは、聖水……」
魔法使いが呟く。
「そうだ。呪いを解くのに……」
兄貴がそこまで言いかけたところで、飲み屋のホールの方でどよめきが上がるのが聞こえた。
「な、なんか騒がしいぞ」
おれはソワソワと腰を上げながら言った。
「早速こいつが役に立ちそうだな……小僧、一本持って着いて来るんだ」
「は、はい」
薄暗い廊下を通り、広いホールへ出ると、床一面に割れた瓶が散らばっていた。
「ウオアアアアアア……」
奇妙な呻き声を上げる男、食器や酒瓶を撒き散らして、大暴れだ。
「あいつ、まともじゃない」
おれは膝がガクガクした。
「あれが『呪い』がかかった人間だ」
焦点の定まらない目。よだれを垂らし、どこか動物じみた勢いで動き回る。できれば関わりたくない感じだ。
「やるぞ、小僧」
や、やるんですか⁉︎