切り札!
「タイミングが早いぞ、剣が動かせぬ!」
「今度は遅い!……大丈夫だったか、お主」
「ええい、匂いを嗅ぐな、バカ者!」
ぎこちない共同作業が続いていた。重たい打撃の一撃一撃を、二人がかりで受け止める。
「難しいな、リーダー」
つい弱音が口をつく。
「相性ピッタリじゃからな!」
口調とは裏腹に、肩が震えている。おそらく、恐怖じゃない……
「もう少しだ、リーダー」
おれ達はもう、くたくただった。
「ふんっ」
だがリーダーはなおも踏ん張った。何が彼女を動かしているんだ?
「勇者よ、後ろをチラッと見てみるのじゃ」
「でもリーダー」
「前は任せるのじゃ」
後ろ?後ろに何が……
「頑張れ!お姉ちゃん!」
「負けるな!」
おれ達が避難させた子供たちが、声援を送っていた。
「全然気付かなかった」
恐怖と疲労で濁った視界が、澄み渡っていく。
「子供だけじゃないのじゃ、ほれ」
おれ達の周りに倒れていた男たちーー街の中でも体格の良い部類のーーが、ゆっくりと立ち上がるのが見えた。
多勢に無勢、おれ達二人が散々手を焼かされた大男も、ゴツい男たちに制圧されていた。あとは聖水さえあれば……
「まだじゃ、勇者よ。気を抜くでない」
まだ何か……
人々のどよめきが聞こえる。
ーーあれを見ろーー
ーーすごい人数だーー
指差す先には……
よく晴れた空の下、まだほんの小さく見える、人の群れ。
「ははは、まいったのう」
リーダーが力無く言う。
「……切り札、いっちゃおうか?……」
魔法使いもちょっとヤケ気味だ。でも、地獄の業火みたいなのはちょっと……切り札……そうだ!
「リーダーの、アレだ!」
二人はキョトンとした顔をする。
「……アレ⁉︎……」
「アレじゃと⁉︎」
ハモ……らない二人。
「えろいむえっさいむえろいむえっさいむ……」
チョークで書いた急ごしらえの魔法陣。よく晴れた空の下でもそれと分かる、鈍い光を放っている。
「……われはもとめうったえたり!」
これがおれ達の切り札だ!