きょうのお料理
石畳の街を、柔らかな陽光が照らしている。春の終わりぐらい?こんなにいい天気なのに、街には人っ子ひとり見られない。
シスターを先頭に、リーダー、魔法使い、おれの順に並んで歩く。それぞれ手や背中に食べ物や生活必需品を携えて、街の家々に配っているのだ。男連中はどうしてるって?それは今日の朝まで遡る……
「外出が出来なくなって、しばらく経つ」
自警団(元)の団長が、真面目な表情で言う。
「幸い、俺たちには、シスターのおかげで物資があるが」
「教団からの援助です」
シスターが付け加える。
「それを配ると言うのじゃな」
リーダーがそう言うと、団長はおれ達に向き直って言った。
「その手伝いを頼みたい」
直接配る者と、その準備と留守番(文字通りの「番」)をする者の二手に分かれることになった。
「料理が得意な者はいるか?」
団長が尋ねる。
「ふふふ、わしに任せるのじゃ」
おおリーダー、すごい自信だ!
「……加熱は任せろ……」
実際便利そう。この人たちなら……
そして、おれ達は外回りを任されることになった。
「ふん、悔しいが団長のウデにはかなわぬのじゃ」
リーダーが唇を尖らせる。そういう次元の争いではなかったような気がするが。
「彼は以前はあそこでお店をやっていたんですよ」
シスターがなだめるように言う。
「プロだったんですね。どうりで……」
おれが喋りかけると、シスターは少し距離を置くようなしぐさをした。
「なんか、朝からよそよそしくないですか」
「い、いえ、そんなことは」
そう言って顔を赤らめる。この人、おれをなんだと……
「お主がジロジロ見るからじゃ、ばかもの!」
「……えい……」
なぜか尻を掴まれた。
数件、順調に回り終えた時だった。
「感謝されるのは、悪くないですね」
おれがそう言うと、シスターはニコッと笑って言った。
「ふふっ、あなたは優しいのですね……ハッ!」
そう言って態度を硬くする。な、なんだよ、それ。さすがに傷つく……
「静かに、彼らに気付かれてしまいます」
おれは慄然とした。曲がり角を曲がったところに、奴らがいた。一人、二人……いや、街中から集まったような、凄い人数だ!リーダーが……おいおい、嬉しそうだな、この人!
「一網打尽にするチャンスじゃ!」
絶対言うと思った!でもどうやって……⁉︎
「上手に料理してやるのじゃ!」
言い直さなくていいから。