アジトへようこそ
「離して下さい……」
か細い声でシスターが言った。
「ご、ごめんなさい!」
おれは慌てて手を引いた。まだ感触が残っている。
「ええい、なにをじっくり確かめているのじゃ、痴れ者が!」
リーダーが顔を赤らめる。
「……いよっ、主人公!……」
魔法使いめ……くそっ、何も言えねえ!
やがてゆっくりと霧が晴れ、四人の男たちが倒れているのが確認できた。
「じきに目を覚ますでしょう。ここは私が見ますから、どうぞ中へ」
シスターが言う。
「えっと、シスター、さっきは……」
おれが言いかけると、彼女は人差し指を立てて遮った。
「ふふふ、先ほどは驚いてしまっただけ」
そう言って微笑む。ヤバい、そんな風にされると……
「勇者よ、顔が赤いぞ、どうしたのじゃ?」
リーダーがニヤニヤする。ええい、童貞が照れるのがそんなに楽しいか?
「ち、ちょっと聖水の箱、回収してくる」
困ったら、逃げる!
団長に連れられて、「アジト」へと入る。使われなくなった店舗ーー恐らくは飲食店ーーを利用しているらしかった。
「まあ、楽にしてくれ。箱はその辺に」
おれは荷物を置くと、一番近くにあった席に座った。丸いテーブルを挟んで、団長とおれ達三人が向かい合う。
「実はお前さん達に頼みたいことがあるんだが……」
幅の広い肩をすぼめて、言い出しにくそうに切り出す。この流れはマズいぞ……
「何でも任せるのじゃ!」
内容も聞かずに言っちゃったよ、この人!
「ここのところ、『呪い』にかかる者が異常に増えていてな」
団長が野太い、男らしい声で言った。
「聖水も不足して、対応が後手に回った結果、自警団もほぼ壊滅って有様さ」
「団員は、他にどのくらいいるんですか?」
戦いは数だって、誰かが言ってたしな。団というからには……
「俺、シスター、あと若い奴が一人……ほらお前さん達の迎えに出した……」
うわあ、もはや「団」じゃねえ!
「そこで我々の出番というわけじゃな?」
リーダーが不敵に笑う。この人、最初からそのつもりだったしな。
「ああ、『ゾンビハンター』のお前さん達がいてくれれば、心強い」
おお、なんかそれっぽい二つ名がついてる!テンション上がる……けど、騒動からまだ一日も経ってないような。ん、何か知っているのか、リーダー?
「馬に乗って言いふらしている輩がおるようじゃな」
余計なことを、駄ニキ!