団長とシスター
倒れた団員を尻目に、狂人と謎の男が組み合っている。立派な体格同士の、激しいぶつかり合い!
「だ、団長!」
仰向けになった男が叫ぶ。「団長」と呼ばれた男は、振り向きもせずに言った。
「待たせたな、うおおお!」
気合とともに、相手の足を払った。
「ガアアア!」
奇声を上げて狂人が倒れる。
「聖水は無事か!」
うつ伏せになった相手の腕を捻じ上げながら団長が言う。
「はい、なんとか」
とっさにかばったのだろう、派手にこけたものの、瓶は無事だった。
「でかした!それをシスターに!」
男たちに近づく人影。華奢な体に黒っぽい服装の、女性が小走りで駆け寄るのが見えた。
おお、なんか雰囲気あるのが出てきたぞ。走りながら、おれはそんな事を思った。
「でも聖水一本じゃ足りないよね、リーダー」
「ぬう、じゃがまずは合流するのが先じゃ、行くぞ!」
あと数秒……ゴールは近い!
「シスター頼む!こいつを」
団長がそう言うと、シスターは聖水の瓶の封を開けた。
「楽にしてさしあげます」
落ち着いた、穏やかな口調。
「ハアハア、着いた!」
おれは肩で息をしながら言った。
「お主、大丈夫じゃったか?」
倒れた団員に手を貸しながら、リーダーが言う。
「ええ、何とか。シスター、この方達が……」
「あなた方が、聖水を……いえ、まずはこの状況、なんとかしましょう」
シスターはそう言うと、地べたに制圧された男に歩み寄った。
「ぶっかけるのかな、でもそうしたら聖水が足りない」
おれは不安を口にする。だって、相手は五人……
「いえ、十分です」
シスターは聖水の瓶を石畳の上に置くと、その前にひざまずいた。
「水の精霊よ、我に力を貸したまえ……」
瓶の口から霧が立ち込め、辺りを覆っていく。
「ミスト!」
おお、水の魔法か?
「かけるより、直接体内に入れる方がより効果的なようじゃな」
リーダーが言う。
「色んな戦い方があるものじゃ」
「シスター、こいつはもう大丈夫だ」
団長が抑えていた男は、すっかり静かになっていた。
「それでは、残りの方々も治してしまいましょう」
夕日を背に、四人の男たちが走り寄って来る。今までまとっていた暴力性よりも、むしろ哀れさを漂わせていた。理性を理不尽に奪われ、彷徨い続ける悲しい男たち。
「まとめて楽にしてさしあげます。皆さんは私の後ろに」
おれ達は彼女の言う通りにした。彼女と男たちを遮るものは何も無い。
「水の精霊よ、より強い力を……『フォグ』!」
さっきまでよりも濃い霧が立ち込める。眩しい西日と相まって、互いの顔も見えないほどだ。そろそろ奴らが到達する頃なのに、これじゃ危ない……不意に、ドサドサと、倒れ込むような音。
「やったか?」
「ちょっとずつ近づくのじゃ」
おれは手で探りながら、視界のない中を行く。ん、何だこれは、柔らかい感触……
「な、何をするのです、破廉恥な!」
シスターの声が響く。今までの落ち着いた感じとは程遠い……
っていうか、なんかやらかしたっぽいぞ⁉︎