叫べ!
走る男、それを猛然と追いかける狂人。追いつかれるのは時間の問題だ。
おれ達も駆け足で向かうが、間に合わないだろう。どうすればいい?
「魔法使い!」
おれは息を切らしながら叫ぶ。
「……どうした少年……」
「ここから届く魔法はあるかな」
大体三十メートルくらいだろうか。けっこうな距離だ。
「……ちょっと遠いかな……」
「何か方法は」
「ストップじゃ、二人とも」
リーダーが言う。おれ達は走るのをやめた。
「あやつらの向かう先にアジトがあるじゃろう」
「まあ、そうだよな」
何を今更……
「アジトには仲間がおるわけじゃ」
ふんふん。
「だから、呼ぶのじゃ!」
「うおー、助けてくれー!」
おれは声を張り上げた。
「誰かー!」
カッコ悪い!
背後には四人の狂人が立ち上がり、こちら目掛けて突進して来ていた。
「……後ろは任せろ……」
魔法使いが身構える。リーダーは剣を鞘から抜いて言った。
「お主は、ひたすら叫ぶのじゃ!」
憧れの、背中を預けての戦い……なんだけど。
「だ、誰かー!」
恥ずかしいから早く出てきてくれ!
おれ達の様子に異変を察知したのか、団員は走るペースを上げた。しかし、もはや捕まる寸前だった。
「くそっ、逃げきれない!」
体格の良い追跡者が、力任せに体当たりをすると、団員は地面に転がった。仰向けになった男に、追跡者が追い討ちをかけようとする。
「追いつかれたぞ、ヤバい!」
おれは叫んでいた。
「対複数じゃ。火力を上げていくのじゃ!」
リーダーが言う。
「……仕方ないな……」
魔法使いが呟いた。
「団長、助けてください!団長!」
倒れた男が苦し紛れに叫んだ。仰向けだからか、よく声が出ている。よし、おれも!
「団長ぉ!団長ぉ!」
おれは見知らぬ団長を呼び続けた。叫びやすいぞ、団長!
「団長、うあああああ!」
叫びが悲鳴に変わったその時、何者かが狂人に飛びかかるのが見えた。あれは……⁉︎
「リーダー、助けが来たみたいだ!」
おれは背中越しに叫んだ。
「でかしたぞ、勇者!我らも合流するぞ!」
「……まとめて足止めする。私に任せて……」
そう言うと、魔法使いは地面に手をかざした。
「……インフェルノ!……」
地面から何かを引っ張り出すようなしぐさとともに、魔法使いが叫んだ。おれ達と狂人達との間に、巨大な火柱が湧き上がる。理性を失っている男達は、本能的に火を恐れ、立ちすくんだようだった。
「……今のうちに……」
「走るのじゃ!」
よし、逃げろ!……なんか逃げてばっかりのような。