作戦開始じゃ!
いかつい体格の男が五人、夕暮れの街を彷徨っていた。焦点の合わない目に、口元は締まりなくよだれを垂らしながら、無目的に徘徊し続ける。
「あ、あんな感じだったんですね、自分も。恥ずかしい」
団員はそう言うと、荷物を下ろした。
「すぐに迎えに来ます。聖水を一本拝借しますね」
男は聖水の瓶を一本取り出した。
「ああ、お主に任せるのじゃ」
「ところでリーダー、おれ達はどうすれば」
「ふふふ、わしに考えがあるのじゃ」
リーダーは不敵な笑みを浮かべた。
「わしらが今いる十字路が、これじゃ」
リーダーがチョークで石畳に図を描く。
「左に曲がって少し行くとアジトに着く、そうじゃな?」
「ええ」
「そこで、勇者には右方向に走って奴らを引きつけてもらうのじゃ」
うわあ、もはや作戦じゃねえ。命がけの鬼ごっこだ!
「その隙に彼にはアジトに向かってもらう。なに、心配するな。わしらが側面から奴らを叩く」
た、頼むぜ、二人!
「じゃあ、行くよ」
おれは距離を稼ぐために、道路を渡って奴らから遠ざかった。リーダーがしきりに「行け」という合図をする。
「くそっ、人ごとだと思って!」
ええい、ままよ!南無三!
「うおおお!」
奴らの注意を引くために、奇声を上げながら、おれは走った!なりふりなんか構ってられるか!おれはキチガイのような勢いで走る!
「その調子じゃ、勇者よ!振り返るな!」
おお、言われなくてもそんな余裕は無いぞ!
凶暴化した男たちの唸り声が聞こえる。一人、また一人、そしてそれはどんどん近づいて来る。
「魔法使いよ、今じゃ!」
「……フレイム!……」
背中が熱い。やったか?
振りむくと、地面にひっくり返った男が一人、二人、三人、四人……あれ、一人足りない。
「あっ、あれ!」
おれは思わず声を上げた。遠くに見えたのは、走る団員を追いかける、一人の狂人!
「くっ、あの男、追いつかれそうじゃ。わしらも行くぞ!」
今度は追いかける側か!倒れている四人を避けて、おれも急いだ。
逃げ切ってくれよ、団員!