22 せかいのはんぶん
荷物は下ろせた。
人もギルドに送り届けた。
ようやく身軽になって、ルーと食堂。
携帯食ばかりだったので、久しぶりの食堂はやはり嬉しい。
スープが食べたいよ。
携帯食ってのは、どうしても乾き物ばっかりだからね。
飯を食ったら、王様に帰ってきた報告をして、屋敷に戻って身体を洗おう。全身が塩だか砂だかで、じゃりじゃりしてる。
そうだ、冬までにお風呂も考えよう。湯船にお湯をはる仕組みを考えられればいいんだ。
で、ルーとスープを待っているテーブルに、「いいですか」とも言わずに勝手に同席してきた男が、いきなりぺらぺらと喋りだした。
「『始元の大魔導師』殿。
話は聞きましたぞ。なんと、5人の若者を救うために、単身、狂獣リバータの前に立ちふさがり、ギルドの英雄、ハヤットの背から空に舞い上がってこれを成敗されたとか。
とても人間業とも思えぬ。
もしもギルドに登録されていらっしゃったら、即、オリハルコン級に位置付けされておられましょう」
あー、アレ、そういう話になってるの? シャレにならねぇな、オイ。
「そんなことないです。
足ぃ震えて、ハヤットさんに担いでもらって逃げたんです。
リバータも成敗なんかしてません。気絶させられたのは運ですよ」
「なんと奥ゆかしい!
空を飛ぶほどの力を持ちながら。
真の英雄というのは、このような方をいうのか!」
「……で、アンタ、誰よ?
俺、これから飯、食うんだけど」
いきなり愛想よく話しかけられると、不必要までに警戒しちまう。
この世界に来てからだいぶマシになったけど、根はコミュ障だからね。
それに、警戒すべき時に警戒しないのは、コミュ障以下だよね。
「私、北のサフラから来た行商の者です。
ぜひ一度、『始元の大魔導師』殿にもサフラにお出でいただきたく……」
「なんで、行商の人が、俺に来いっていうの?」
うさんくさい。
行商人のくせに、なぜ名乗らない?
たぶん、疑問を感じているの、俺だけじゃない。
ルーも、相当に胡散臭そうな視線を向けている。
サフラって、北の街というか国だよね。
弓使いのアヤタさんの出身地で、高緯度で円形施設の必要がない場所。ゴーチの樹液の産地。
きっと、そこそこ寒い場所だ。
「『始元の大魔導師』殿。
あなたは、栄達をお望みではございませんか?」
「……欲はあるけど、アンタの言う栄達ってなによ?」
「サフラの王より、『始元の大魔導師』殿に良きお話を持ってきました。
ダーカスから、未だ嘗てない大量のゴーチの木の樹液の注文が続いております。
そして、それが材料となったと思わしき、優秀な製品が次々とダーカスから販売されております。
それらのことの後ろに、『始元の大魔導師』殿がいらっしゃったことは、少し調べればすぐに判る話でございます。
サフラの王はこう申しております。
『世界を半分ずつ分け合おうではないか』、と」
あまりの申し出に、思わず横向いて、ルーに聞いてしまう。
「……サフラの王様って、1番古いタイプの『竜王』、いや『りゅうおう』なの?」
「『竜王』ってなんですか? 『始元の大魔導師』様。
しかも、『竜王』を2回繰り返した意味が判りません。
また、訳の判らないことを言い出さないでください」
「いや、あのさ、『りゅうおう』がこの人と同じこと言うんだよ。
それで世界の半分を『もらう』って選択をすると、光の世界と闇の世界で、『世界の半分、闇の方をあたえよう』ってやられちゃうんだよね」
ルーが、「へへん」って鼻で笑う表情になった。
「ありがちですねー。
そもそも『半分』って提案が、ケチ臭くて怪しいです。
『自分の家来になれー』って方が、まだ信じられますよね」
そのあたりで、目の前の男がわたわたと焦りだす。
「そ、そのようなことはございません。
あくまでサフラの王は、『始元の大魔導師』殿に報いるご意思で……」
「だって、名前も教えてくれない行商人なんて、聞いたこともない。その人が良い話だって言ってもねぇ……。
普通は、自分の名前を売ろうとするじゃん。
ケナン商会とか、ケナン商店とか、ケナン運商とか、ケナン商行とか、ケナン興商とか、ケナ……」
「判りました。もう結構です。
いえ、『始元の大魔導師』殿に対し、恐れ多いから控えただけです。
私は、ボーラと申します」
「ホントにぃ?」
「本当ですっ!」
「治癒魔法とか掛けてみていい?
本当か嘘かの確認に」
「本当ですっ!
お好きになさいませっ!」
あー、はいはい。
「そうだ、いいこと思いついた。
おごるからさ、飯、一緒に食べよう。
俺たちスープ頼んじゃったけど、アンタは壺焼き食べなよ」
「いえ、そんなとんでもない!」
「付き合ってくれないの?」
「……そんなことはありません。ご相伴させていただきます」
「よかった、よかった」
そう話して、一緒に食ったよ。
ルーは微妙な顔していたけど。
で、ごちそうさまして……。
「じゃ、行こうか」
「どちらにお供すれば……」
「付いて来れば判るよ」
にこにこ。
にこにこにこにこ。
にこにこにこにこにこにこにこにこ。
「来いや!!」
不安そうなのを捕まえて、歩き出す。
で、王宮に着いた途端、逃げ出そうとするのをルーが「ストップ」の魔法を掛ける。ボーラ、本名だったんだ。ま、魔法が効いて、よかったよ。
あ、そうそう、俺のイメージで「ストップ」とか言ってたけど、ルーが言うには、「ハールト」の呪文ってやつらしい。
ま、俺が魔法を使えるわけじゃなし、「ストップ」でいいやって思ったんだけど、ルーにまた怒られた。
『始元の大魔導師』のくせに、大雑把が過ぎるって。
「魔素の残量とかはMPとか言ってやたら細かいのに、なんでこう……(ぶつぶつ)」、って。
はいはい、スミマセンでした。
そんなに俺の魔法の受け取り方って、理不尽かねぇ。あ、異世界から来て、理不尽じゃない奴はいねーか。
あ、コレ、名言っぽい。
次回、他国への布石、の予定です。




