13 東方見聞報告会2
となれば、この巣は、生殖のための巣ということになるのではないか。
大胆に考えれば、ここにいるのはメスであり、ここで卵か子を生むのだ。入り江や洞窟は、自らを守ると同時に、より大切な卵か子を守っているのだ。
いにしえの文献に、子を生む魚がいるという話があったはずだ(鳴滝からの注:生態系ピラミッドの上位にいる生き物ほど子供が少ないと、中学の理科で習った。子を生む魚というのは、卵胎生というのだったかな?)。
この想像が正しければ、オスのリバータが来たときのみ、メスは交尾のために自分から入り江を出ることになる。
交尾の後、ふたたび戻るまでの間は入り江は空のはずだ。
我々は、その考えが正しいかを知るために、観察を続けた。そして、観察を始めて4日目、セフィロトもスノートも出ていない夜に、ついに入り江から泳ぎだすリバータを確認した。
天気が快晴で、星のあかりのみではあったが、恐ろしいというより実に雄大な眺めだった。
そして、この言い方で差し支えなければだが、彼女は、明け方とともに戻ってきた。陽の光が差し始める中、巣の中で身体を折りたたみ、頭を再び入り江の外に向ける姿を確認することができた。
この観察結果は、同時にまた一つの推論を生んだ。
巣の取り合いをしているということは、最大のリバータは、最大の入り江で死ぬまでそこを守り続けることができるだろう。
しかし、その最大のリバータ以外は、事故でもない限り、巣である入り江では死なないのだ。入り江より自分が大きくなれば自ら出ていくし、自分に匹敵する大きさの他のリバータに巣を奪われることもあるだろうが、そこで死ぬことはない。
ということは、当てずっぽでどれかリバータの動きを苦労して止めても、そこに骨はないことになる。現に、見える範囲ではあるが、この入り江の底に骨らしきものは沈んでいない。
そこで、この入り江での観察は終えることとし、最大の入り江の最大のリバータを探すことにした。
ただ、ここで1つ、注意を喚起しておきたい。
ここは岩と砂ばかりで真水がない。
レンジャーのジャンがさまざまに工夫をこらしたものの、4人分の水は確保できなかった。その後の雨と、それに合わせてセリンが集水魔法を唱えたため、我々はなんとか飲料水を確保できたが、この地で作業することを考えるのであれば、水の確保は絶対に必要だろう。
それから4日間、我々は歩き続けた。
地形が起伏に富み、まだ入り江が多く海岸線は長いため、時間は極めてかかったが、直線距離としてはそう動いていないと思う。
そして、ついに見つけた。
岩場と砂浜の入り江という点では、他と異ならない。
しかし、そこには大量の骨が散乱し、そして、その骨のサイズが桁違いだったのだ。
おそらくは、だが、先住者の骨が邪魔で、砂浜に尾で押し出したのだろう。
可能であれば、1本持ち帰ればと思ったが、4人ではどうにもならない。
そして、なによりも、その入り江に横たわるリバータの大きさが恐怖だった。とても近寄る気がしない。
とはいえ、あそこまで大きいと、却って我々は捕食対象にはならないだろう。
もう1つ、報告すべきことがある。
その骨の形状なのだが、魚の骨のような弧を描いた針状ではない。
弧は描いているが、先が二股に分かれた、このような形なのだ(鳴滝からの注:ケナンさんは、弧を描いたY字形を指で空間に描いた)。
これが、今回の目的にどう影響するかは私には判らない。
最後に、これが、その最大の入り江に至るまでの地図だ。
また、位置としては、かなりの南下と同時に西にも動いている。とはいえ、南のトールケの火の山に辿り着けるほどでもない。
なので、この図を描いた後、我々は来た道を戻らず、ダーカスまでの最短距離を歩くことにした。
そもそも帰着期日まで3日しかなく、来た道を戻っては間に合わない。
砂漠を突っ切ることになるのは危険ではあったが、方向さえ誤らず、ネヒール川に行き当たりさえすれば良いのは解りきっていることなので、強行した。
1つの低い山越えはあったものの、足場は悪くなく距離は稼げた。
なお、この経路で再訪できるよう、道標は残してきた。
昼夜を通した強行軍のため、魔法で疲れを癒やし、コンデンサは全て空になったが、2日とかからずに再び我々はここ戻れた。
以上がこの旅の報告だ」
聞いていた全員から、期せずして拍手が生じた。
王様からは「見事だ」という声。
ハヤットさんからは、「依頼に対する質の高い完遂。そして、推測と解決。これこそが重要な資質だ。モンスターと戦って勝つことが、冒険者の本質ではないことをよく理解している。ミスリル級への推薦状を、リゴスのギルド本部あてに書こう」という言葉。
ヴューユさんからは、「リゴスの魔術師の機関に、報告書の写しを送ろう。然るべき謝礼と、二つ名が届くだろう」という言葉。
……ごめんね、『始元の大魔導師』様はあげられるものがないや。
せめて、1回、飯をおごるよ。
次回、未定です。
どうしよう、いい題がまだ思いついていません。




