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電気と魔法 −電気工事士の異世界サバイバル−  作者: 林海
第四章 召喚後75日、再召喚後から30日後まで(農業振興)
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8 何が起きた!?


 なんでだ? なんで座っているだけの会議の方が、きちんと働いている時より疲れるんだろ?

 慣れないからかねぇ……。

 疲れ果てて、その日の晩は俺、ダウンした。


 ルーは滅気(めげ)ずに、親父さんと校長就任依頼の件で話をしていたらしい。

 ま、ルーの能力ならば、親父さんに言うことを聞かせるのも、簡単なんだろうね。


 翌日は俺、ギルドで留守中に作られたコンデンサの検品。

 1日、テスターを当てて、過ごす予定。2つの端子が絶縁されていなかったら、それは不良品だからね。

 検品ができたら、できるだけ強力な電気ショッカーを作らなきゃならない。

 マイカコンデンサだから、もともと高電圧に耐える。円形施設(キクラ)で充電できているのも、魔素流の直後は50ボルトを超えていたから、直列繋ぎを10個にして、あとはひたすら並列繋ぎで電流量を稼ごう。いっそ、2つに分けて、2回電撃できるのも悪くないかも。

 むしろ、狂獣の近くの海上で、放電用の電線を設置する方法を考える方が大変かもね。なんせ、元気いっぱいの、狂獣本人の目の前でやらないといけない作業なんだ。



 俺とルー、ギルドの広間のテーブルを前にして座っている。

 テスターを当ててコンデンサの検品するのは、頭を使わなくてもできる。

 実際に円形施設(キクラ)据え付けるときは、もう一度チェックするから、それでダブルチェックにもなる。

 で、つまりは落ち着いて話せる機会なので、雑談がてらルーにいろいろと疑問を確かめるつもり。


 「第一陣と第二陣、送る方は1日の差だったじゃん。

 こっちではどのくらいの差だったか聞いた?」

 「13日間だったって話ですよ」

 そか、それならば牧草も芽を出すし、苗も根付くね。

 本当に、このタイミングのズレを活かせるならば、利用価値は高そうだよ。


 次の疑問。

 「ルー、俺って侯爵様じゃん。

 他の貴族ってどこにいるの?」

 もしかして、社交界とかもあるのかな?

 ダンスとかも覚えたほうが良いのかな?


 「いませんよ」

 さらっと返されて、「はあっ!?」 ってなった。

 いないのかよ?

 「基本的に、男の子が生まれないと家名は断絶します。

 親戚から養子を貰ってまで家名を残せるのは、王家だけです。

 ダーカスの王家は、司祭でもありますからね。

 豊かだった時代には、貴族は後宮を持っていて家を維持できてたみたいですけど。

 今はそもそも、領地となるべき土地が失われていますから、よほどの現金収入でもなければ、そんなの維持するのはとても無理でしょうね。

 そうなると、結局、どこの家も、10代とか男の子が生まれ続けるのは難しかったみたいです」

 仕組みとして、没落貴族みたいのも、続かないから生まれないってことかぁ。


 「……俺も、後宮持って良いの?」

 「ナルタキ殿……、つくぅづく、懲りませんね」

 びくっ……。

 口調が変わった。怖い。

 「おどおどしながら後宮持っても、冴えませんよ?」

 ど、ど、どやかましいわい!!



 でも、ルーの目を盗んで、1回くらいはラーレさんと話してみたい。

 口説くとかとは別に、どんな人かは知りたいじゃん。

 見た目は思いっきり好みなんだけど、中身は肝っ玉かーちゃんみたいなギャップがある。しかも、思いっきり顔も広い。

 その人が、しおらしくなったりしたら、さらにギャップ萌えが……。

 ルーには悪いけど、淫行条例に引っかかっちゃいそうな歳の差は、それはそれでちょっと怖いんだよ。ルーのことを理解できないかもって思うじゃん。ラーレさんならその辺も安心かも。

 ルーの親父さんも天下り先が見つかったわけだし、もう、ルーが路頭に迷うこともないし。



 で、チャンスは案外早く来た。

 ルーの親父さんが、目論見通り、校長の仕事を引き受けてくれることになったって。で、ルー、親父さんが王宮に行くことになったから同行するって。


 すけべぇ心と言いたければ言え。

 男の探究心は止められない。

 特に、あんな風にルーにけっちょんけっちょんにやっつけられたあとは、なんとか自信を取り戻したいというか、気分転換というか、気晴らしというか……。

 なんか、こう……、あるだろ?


 「ラーレさん、私が留守の間、コンデンサ作りの人達のお世話してもらって、ありがとうございます」

 なんて、声を掛けてみた。


 「いえ、侯爵様。

 微力ながら、お役に立てて嬉しく存じます

 みなさん、好き放題にされているので、制するのが大変でした」

 伏し目がちに答える、清楚で綺麗な横顔がたまりません。

 漫画だったら、背景に花が出るパターンだ。純白のチューリップなんかが、すっごく似合いそうだ。

 いつもルーには、真っ正面から見据えられているからね。

 新鮮ですよ、この反応。


 「いえいえ、本当にたすゅかりました」

 あ、噛んだ。

 緊張するといかんなぁ。

 ラーレさんの頬が、ちょっと緩んだような気がした。


 「なにか、お礼をさせていただこうかな、なんて……」

 「侯爵様、それよりも、侯爵様の年収をお教えくださいませ」

 「……はっ?」

 「やはり、こういうことは、きちんといたしませんと」

 「……な、な?」

 「これからも、お助けさせていただくためには、必要なことでしょう?」

 なになになになに?

 何が起きた?

 何を言われた、俺は今?

 えっと、コレ、こっちの世界の風習?


 「す、すみません。

 まだ来たばかりですし、侯爵様もなったばっかりで判りません!」

 「そうですか。

 それでは、判りましたら、また、ぜひ……」

 「いえっ、判らなくゅて、すみませんっ!」

 怖い。

 怖いから、背中を向けないようにじりじり距離を取る。

 い、一体全体、なんだったんだよ!?


 

 テスターのプローブを何回か落っことしながらも、機械的にコンデンサの絶縁の確認を続ける。

 頭ん中、呆然。


次回、未定です。

さて、どうしようかな。

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