5 昼食を食べながら
いつもの食堂で、スープ。
昼間だし、軽く済まそうと思って。「一緒に目玉はお付け」しません。お断りだ。
なんか、ここに来るのも随分と久しぶりってな気がする。
そう考えると不思議。
自分の世界に帰って、俺の主観で60日以上間が空いて行ったマクドナ○ドには、久しぶりって感じ、なかったんだよね。
エモーリさんが作った金の傘の凹面が、太陽の光を反射して、集められた光と熱が鍋の底を眩しく照らしている。
そか、燃料節約ができていてなにより。
午後も引き続いて会議だから、食べすぎない程度には食べておかないと頭が回らない。
議題は、学校と円形施設の設計について。
メンバーは、午前と変わる。現役の魔術師さん達は全員出席。ハヤットさんだけでなく、ラーレさんも来る。
石工の職組長さんも来てくれるって。逆に、農業のタットリさんは来ない。
「ルー、元気ないじゃん」
そう話しかける。
スープの鉢が運ばれてくる前に聞いておこう、そう思って、ね。
「そうでしょうか?」
「やめなよ。
どうせ、嘘、下手なんだからさ……。
ごまかさずに、正直に言えよ」
「今度、練習します」
「そっちの角度じゃねー!」
「私……、死んだんですよね?」
「召喚された時?」
「はい。
ナルタキ殿の世界にいた私は死んで、ここで新たに作られたんですよね?」
「そういうことになるって、魔術師さん達から聞いているけれど……」
「私って、変わらずに私なんでしょうか?」
「違うかもしれないけど、そんなの誰も判らねー。
俺なんか、ルーより1回余計に死んでるぞ。
それに、その疑問を持つならば、俺の世界に派遣されたときに悩めよ。
行って帰ってきて、1回目じゃなくて、2回死んでから悩む意味が判らん」
「いろいろと、あるんです」
さよか。
「なんで、2回目からなん?」
「……」
「白状しないと、ルーの部屋に一番近いトイレのドアを封鎖するぞ」
「地味に嫌な嫌がらせを考えますね。
そういう才能、前からあったんじゃないですか?」
「やかましいわ。
いいから。話せよ」
ちなみに、俺の屋敷にはトイレ、5つある。
嬉しくて、日に3か所は制覇している。
そんなトコに住むことになるとは、夢にも思っていなかったし。
「分かりましたよ、ナルタキ殿。
実は、気がついていたのは1回目からです。
ましてや、全身に火傷をしてようやくたどり着きましたから、召喚と派遣は、ここまで怖いのだと思いました。
元いた自分も死んでいますし、行った先でも死ぬかも知れないって、そう思ったんです。
なので、召喚されてここに戻る前、怖くて仕方なくて、遺言みたいに言わなくても良いことをたくさん言ってしまって……」
なんか動揺がすげーな。
よくもまぁ、ここまで緊張感マシマシになれるもんだ。ま、あの時は、本音がじゃばじゃば漏れていたからねぇ。
遺言したくなる気持ちは解るよ。
俺、1回目は自覚しないまま召喚されちゃったし、ルーに水指で殴られたほうが痛かった。でも、2回目の派遣は本当に酷い目にはあったからね。
とはいえ、俺の方が回数をこなして、なんとかなるなんて楽観していたかもしれない。
でも、3回目の召喚は痛くもなんともなかった。魔素酔いすらなかった。
技術の進歩が、ここでもあるのかも知れない。
まぁいい。全てを聞かなかったことにしよう。
これで丸く収まるさ。
「俺、ここに召喚される時に、ルーが何を話していたか忘れちゃったよ」
「今さらそれは、さすがに無理があります」
「そか。
でも、俺は聞いていない。聞いたかもしれないけど、忘れちゃったから、聞いていないのと同じ。
ルー、もっと気楽にさ、250日後くらいに、考え始めれば良いんじゃない?」
「じゃ、本当に聞いていないんですね?
実は聞いていたなんて後出ししたら、全焼の攻撃魔法アーテを使いますよ」
「おい、『始元の大魔導師』様相手に、攻撃するんじゃねぇ。
本当に、聞いてないから。
『始元の大魔導師』様を信じろ」
「本当に安心しました。
午後、ラーレが来ますけど、聞いてないですよね?」
げっ……。
「ラ、ラーレさんがなにをどう思っているかなんて、俺が、知っているはず、ないだろう?」
「ほぅら、やっぱり、思いっ切り挙動不審だ……」
ジト目。
なにもそこまでってくらい、温度が低い。
「……全焼の攻撃魔法って、どんなヤツなのかな?」
「とりあえず、『始元の大魔導師』様、相手の目を見て話してくださいね。
アーテはけっこう、キッツいキッツい燃え上がる魔法です。
今日、ラーレを口説こうとしたら、火ぃ、着けちゃおっか」
「なんなんだよ?
ルーに、そこまで束縛される筋合いは……」
「私の話したのを聞いてなかったら、ラーレをクドく勇気なんかなかったくせに」
ぺっちゃん。
俺が潰れた音。
ぐうの音どころか、もうなにも出ねーよ。確かに、その前提があると束縛じゃねーな。
「いや、そんな。
やだなぁ、脅迫ですか?
はは、スープはまだかな?」
「ナルタキ殿の言うとおり、250日後まで待ちましょう。
それ以前にラーレを口説いたら、攻撃魔法でお仕置きですからね」
「……ラーレさんの方から、俺をクドくかも知れないじゃんか?」
「したら、『ラーレ、もっと気楽にさ、250日後くらいに、考え始めれば良いんじゃない?』って言えばいいんですよ。
それがフェアってもんです」
完璧だな。
脅しと論理がきちんと組まれていて、半分くらいは俺の自業自得で、反抗できる余地なんかない。
女って怖い。
俺、「JKくらいに見えるルーは、確かに半分は大人だけど、半分はまだ幼い。その幼いところに、俺は付け入っているかも」なんて、上から目線で考えていた自分を、せめて1つ2つはどやかしたい。
完全に俺、ルーの手のひらの上で踊っていたじゃねーか。
スープが来た。
真ん中に垂直に立てられた、金のスプーンを握る。
いつから俺、ここまで力関係をやっつけられていたんだろうねぇ……。
次回、御前会議3、の予定です。




