6 用地選定
予告と違う題になりました。すみません。
二つ目の円形施設の建造も、そろそろ考えないといけない。
王直属の、新規建造委員会みたいなのが作られている。
当然のように、俺もルーも入っている。
大臣に、エモーリさんもスィナンさんも、だ。
ギルドは直接の関係はないけど、俺の提案で、素材の産地や質に詳しいハヤットさんも参加して貰っている。
まぁ、円形施設の修理に携わった人間がそのまま新造にも携わるという、ある意味あたり前のことだね。
これに関しては、ギルドに探索の依頼をもう一つ出してある。
円形施設中心に、かつて据えられていた機械の収集。どんな残骸でも構わないから、実物を見ておきたい。
見れば、どのようなものか解るじゃん。
ただ、これはダーカスの地区ギルドから、リゴスの中央ギルドまで依頼を通してもらっているけど、難しいようだ。一度ならず破壊の対象になっているし、さらに原理も解らないままに修復という名の破壊を重ねられてしまっている。
どんなものでもいいからとは伝えてもらったけど、果たしてどうなることやら。
「魔素を使って計算」なんて不穏な言葉も聞いているから、もしかしてコンピュータ制御だったりしたら、もう俺の手に負えないよ。
円形施設本体についても、問題は山積みだ。
そもそも、今の状況では、オリジナルより安上がりに作ることも考えないとだ。だって、この世界で木材は極めて貴重で値段が高いものだから、木造建築なんて国王ですら建てられない。
どうしたって、石造りの壁にスレートの屋根になる。床だって、石畳だ。
金属工具もない中で、この世界の石工さんの、石と石を打ち合わせて平面を作る技術はとんでもないレベルだ。
ブロックのように積み、積んだ石と石の間の隙間を観察し、隙間を作る出っ張った部分を推測してそこを叩いて削る。規格のブロックも作るし使うけど、雑多な石をその場で整形して使うこともある。
それらの4〜5回の調整で、どんな材料の石でも、カミソリすら入らないっていう表現ができるほどの接合をしてのける。
それを積む時もホゾまでは作れないにせよ、石自身の形を上手く組み合わせて、簡単には崩れないようにしている。
俺、この世界に来てから、まだ地震を経験していない。でも、相当の揺れを想定しても、ここの石工さんたちの組んだ石積みが崩れるところは想像できない。
敷石も、平面は出せているから、コスト次第のところはあるにせよ、床だってタイルを張ったように平らになる。
建材に使う石が、軽くて空気を含んでいるお陰というのはあるにせよ、王宮なんかはより重い御影石みたいなのも使っているから、石の性質に恵まれているだけとは言い切れない。
問題は、石だけでは、できることとできないことがある。
少なくとも、オリジナルの円形施設の壁は、文様という電気回路を1000年近くも支えてきた。その文様も、冗長性を考えてあって4重に同じ回路が描かれているし、その素材の適材適所ぶりまでもが、よく考え抜かれた究極の技術だ。
もっとも、この星の1年は、281日しかないらしいし、1日も24時間よりは短いような気がする。
月が二つあるためか、暦に月という概念はない。だから、1000年というのも俺の世界の時間の長さとは異なるだろう。とはいえ、単純に比で計算して780年としても十分に長い時間だ。
この国の最長老が138歳と聞いたので、これもおおよそ106歳くらいだから納得できる。
話が横道にそれてしまった。
ともかく、その適材適所という観点から見ると、新造の円形施設をすべて石造りにしてしまおうってことには賛成できない。
もしもだけど、建材の石が風化したら、多孔質なのが災いして、染み込んだ水分が抜けなくなる。そこへ描かれた回路に高圧電流に性質が近い魔素が流れたら、漏電というか、漏魔素が起きる。つまり、制御ができなくなるんだ。
ゴムなんて寿命の短い素材は使いたくないし、かといって吸湿性の低い硬い石を使うと、コストも工事期間も跳ね上がる。
建築ってのは、なんだかんだ言って合理性の賜物だし、次の一つで終わるような一品物でもない。どれほどオリジナリティーに溢れた建物を作ったとしても、それを構成するモジュールは既存のものなんだ。
だから、その枠を意識して作っておかないと、2つ目、3つ目の円形施設が作れなくなる。建築士でなくても、現場で多くの家を見ていれば、この程度の理解はできるものだ。
ともかくも魔素流は大きなエネルギーとはいえ、電気回路として箱の中に組むこと自体はできるけど、メンテとか考えると状態が一目瞭然の壁の文様にするってアイデアは極めて優れている。1回1回にメンテが必要なのを、壁を眺めるだけでできるんだからね。使う人間が原理への理解すらも失ってしまったのに、円形施設が稼働し続けたのは、これに拠るところが大きいと思う。
円形施設の直径は、その文様に必要な壁面積から逆算できるし、できるだけ小さく作るとなると壁は一面の文様になるから、明り取りは天井のガラス窓に求めざるを得ない。オリジナルの円形施設は、知れば知るほど必然がある設計がされている。
いつぞや話した、デザイン先行の機能性を失したものとは違う。機能を突き詰めた結果、デザインが生まれているんだ。
それにしても、木材がないのは痛い。
木材があっての床下だ。石材で床を貼ったら、床下じゃなくて地下室だよね。文様になった回路とコンデンサの距離が空いてしまう。
そのあたりも含めて課題は多い。
王直属の、新規建造委員会の面々で課題を見つけあっては、仲良く頭を抱えている。
さらに、もう一つ問題がある。
新造円形施設の設置場所だ。
人が暮らすにせよ、農地にするにせよ、水利が良くて、一定面積の平地が確保されることがまずは必要だろう。
海か川に面していればさらにいい。でも、洪水のリスクは避けたい。
あまりに窪地だと、その円形施設によって保証される安全な土地が狭くなる。それを防ぐためには、とても高い避雷針アンテナが必要になる。
また、今の円形施設から距離が離れすぎると、安全な経路が切れてしまう。つまり、安全地帯が地続きで、気軽に移動できた方がいい。
さらに、工事中は、魔素流に対して無防備だから、できうる限り短期間で作りたいし、そのためにも今の街からの往復時間が短い場所がいい。
建材だって、結局は石の比率は高くならざるを得ない。多孔質の軽いものであっても石は石だ。少しでも運ぶ距離が短いほうが良い。
こうやって、立地における条件を並べていくだけで、今の円形施設がいかに良い場所に作られているか納得させられてしまう。
先人の行動ってのは、それなりにみんな必然があるもんだ。
ただ、朝からうだうだ条件を並べ合う会議に、年齢が一番若いルーが焦れた。
俺がその尻馬に乗るのも、これまた必然。
「ここで頭を抱えていても仕方ありません。
実地調査に行きましょう!」
しびれを切らしたルーが提案し、それに全面的に賛成する俺。
「タットリさんも呼んで、農地に良い場所を見てもらいましょうよ。良い土がある場所がいいでしょうけど、地図からは判りませんから。
あまりに物陰が多い場所だと放牧も大変でしょうけど、そういうのも地図だけ睨んでいても判りません。
行ってみたら、案外良い場所もあるかも知れませんよ」
スィナンさんが渋い顔をしている中、最年長のエモーリさんが「そうだそうだ」と賛成してくれた。
スィナンさんは、座り仕事が性に合っているらしいけど、エモーリさんは結構活動的なのだ。
ハヤットさんが、ギルドで手の空いている若いのを2人護衛に付けるという話をしてくれて、タットリさんにも使いを出してくれた。
大臣とスィナンさんは、お留守番に決定。
次回、現地視察、の予定です。




