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電気と魔法 −電気工事士の異世界サバイバル−  作者: 林海
第二章 召喚後30日から60日(生産力増大)
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2 食材確保?


 俺、仕事しなきゃだ。

 次の魔素流までに、円形施設(キクラ)をより改良し、アンテナを立てて街を広げる。

 魔素流の制御の自動化は後回しでも、一番使用頻度の高い治癒魔法は、エモーリさんと蓄波動機を工夫して自動化しておきたい。

 同時に、持っていく金を確保し、この世界に持ち込むものを精査しておかないといけない。

 二日くらいかけて、表を作り、王様に提案した。

 同時に、召喚時に持ち込める最大重量についても、ヴューユさんにチェックしてもらうことが不可欠。

 ああ、忙しい。


 とはいえ、今日はルーと一緒にギルドだ。

 ギルドの冒険者(若いもん)(見るからに、この街出身者だ)が、コンデンサを組み立てている。これが数多くできていないと、円形施設(キクラ)の床下に潜れないからね。

 組み立ての腕も上がっているけど、個々の部材の質が前とは桁違いに良い。雲母も遥かに薄く削げるようになっているから、コンデンサの容量も増しているはずだ。

 コンデンサは、電極間の距離が小さいほど貯められる容量が増えるからね。

 金の細線も絶縁コーティングがされていて、工業生産品に遜色がない。思わず嬉しくなって、一巻き切り取らせてもらう。あとで工具箱の肥やしにしよう。

 この手の切れっ端は、あると助かることが多いんだ。


 みんな、殊の外(ことのほか)、熱心な表情で作っていてくれてありがたい。飽きて渋々なんて可能性もあったからね。

 「こんにちはー」

 などと声を掛ける。

 この調子ならば、日産50個くらいかな。20日で1000個だ。このくらいのペースが、仕事の丁寧さという意味では、間違いない気がする。こないだまでの、この3倍以上のペースが異常だったんだ。


 なお、この世界は、七曜制をとっていないので、日曜日はない。それに、ここはギルドだから、依頼と受託という形をとっている。すなわち、労務管理はまずは自己責任。

 初めての受託で、魔獣トオーラ退治の依頼を受けるとか、そんな身の程知らずであれば当然のようにラーレさんがブレーキを掛ける。でも、俺の依頼は内職みたいなもんだからね。危険もなにもないから、やりたい人がやれるだけやるという種類の依頼になる。ブラックにはなりようがない。

 おまけに、スポンサーは王様だから払いは悪くないし、そうだな、「ナルタキ景気」と呼んでくれて構わないぞ。



 「『始元の大魔導師』様」

 声を掛けられて、金箔と雲母を重ねたものをケース詰めしていた若い冒険者に目が行く。

 ん?

 違うな。冒険者であれば、ギルドに登録したレベル章を付けているはずだ。

 ああ、きっと、文字通りの内職をしに、臨時手伝いに来ている人なんだ。


 ハヤットさんが言っていたな。

 息子が冒険者になるのを親が反対する例も多くて、それは危険な依頼もあるから仕方ないけど、安全な内職的な依頼であれば小遣い稼ぎをさせてあげたいって。

 仕事が少ないならば、無条件にギルドの構成員に優先して割り振るけど、今は人手の方が足らないから、「依頼」ではなく「雑務のお手伝い」という位置付けで働かせてあげたいって。

 「他人の釜の飯を食う」ってことが、ギルドでは簡単に経験できるからね。親が偏屈な人だったりすると、ここでのバイト体験が、息子に偏屈が受け継がれないで済む転機になったりするらしい。


 さらに、ギルドには、表にはならない隠れた機能がある。ハヤットさんは、その側面も考慮している。

 俺に声を掛けたのは、きっと、どこかの職人か農家の長男だ。

 通常、長男は「家業を継げ」って親に言われるから、ギルドに来ることはない。ここは、ハローワークみたいな社会のセーフティーネットの役割もあるから、冒険者登録するのは大抵、次男三男だ。

 女性は、器量の良い娘は家業を持っている男から指名されて、さっさと結婚することが多い。したがって、ギルドに来るのは、長女でも次女でも、……まぁ、そういうことで、俺の口からは言えんぞ。


 ところがなんだけど、ギルド内で男女がくっつくのは、依頼のあった仕事を一緒にして、苦労を共にしてからになる。つまり、疲れていて不機嫌なところも、依頼を達成した喜びも、いざという時の人間性もみんな曝け出してからだ。くっついてから、「こんな人とは思わなかった」ってのが無いんだよ。

 あとは、安定して依頼さえこなせれば、それなりに良い家庭を築けるらしいんだよね。

 むしろ、先に片付いたはずの美人の姉妹の方が出戻ったりして、そうなると、数は少ないけど逆転現象が起きる。

 長男であっても、ギルドで幾つか安全目な仕事をして、働き者で気立てのいい娘を見つけてこいってね。

 ギルド(ここ)に来る理由ってのは、本当に多彩だなぁ。


 まぁ、ギルドで依頼を受けようなんて娘は、基本的に居場所がないって感じているので、結婚の障害も少ない。

 そして、もひとつ見逃せないのは、嫁を単なる労力として欲しいなんていう家は、ラーレさんがシャットアウトするからね。ギルドの組合員は、組織として守る建前があるし、ラーレさんの肝っ玉かーちゃんぶりは、組合員の男女を問わない。

 ここは、街であり国である程度の規模の小さい場所だから、そんな不純な動機の家は、すぐ噂になってバレてしまう。で、ラーレさんには、その噂をご注進に来る仲間がたくさんいるんだ。また、そうでないと、ギルドが不幸を生産することになっちゃうからね。

 それになにより、女性にも男性を選ぶ権利がある。ギルドで自立できている女性が、「ママの方が大事だ」なんて男を選ぶはずもない。



 「『始元の大魔導師』様。お願いがあります」

 「はい?

 なにか?」

 「私は、ここで芋を作っているパターテの息子、タットリと申します。

 『始元の大魔導師』様のおかげで、畑を倍に増やせるそうですね。本当にありがとうございます。これで、私も嫁を貰うことができます」

 「それは良かった」

 「つきましては、なんですが、『始元の大魔導師』様のお国の野菜を私に作らせていただけないでしょうか?

 芋だけでなく、菜、豆、なんでも作りますから」

 うっわ、それ、本当かよ。


 「ラーレさん!!」

 「はい、なんでしょう?」

 受付の席から、ラーレさんが顔を上げる。

 「彼、新しい作物をなんでも作ってくれるって。

 苗や種が入手できたら是非お願いしたいので、連絡先とか、控えておいてくれますか?」

 俺の舞い上がった言葉に、かえってラーレさんは心配になったらしい。


 「タットリ、本当に大丈夫?」

 「ええ、ラーレさん。

 土地も増えそうですし、『始元の大魔導師』様の国のお野菜ならば、高く売れるでしょう。『始元の大魔導師』様の食べる分くらいは提供させていただいても、なんの問題もありません」

 そか、じゃ、米だ。まずは、米だ!

 「湿地帯でとれる草の種、イコモなんて、作れる?」

 「増やす土地を、川の近くにしてもらえればなんとかなると思いますけど……」

 思わず、握りこぶしを突き上げる俺。

 「あのさ、イコモはイコモなんだけど、コシヒカリっていう種類のを持ってくるからさ、それ作ってくんないかな?」

 「構いませんけど……」

 なんか、タットリさん、たじたじになっているけど、俺、それどころじゃない。これこそ、俺にとっては光明だからね。なんとしても、押し付けてでも、コイツにコシヒカリを作らせちゃる。


 「あとは、大豆だな。これで豆腐が食える。味噌ができれば、豆腐の味噌汁とおにぎりが……。醤油もって、これができるまでには、俺が帰っちゃうか……。でもだな、川で魚が採れれば、塩焼きにして、あ、これで焼干しにしておけば味噌汁の出汁にも使えないかな。出汁があるならば、蕎麦もいけたりして。

 それから、酒さえできれば……」


 気がついたら、ルーが俺の目の前で、手のひらをひらひらと振っていた。

 「『始元の大魔導師』様ぁ、戻ってきてくださいよー。

 ここんところ、どんどん酷くなってますよ。

 ラーレが話があるって言っているんですから、ほら、ほら」

 「話ってなによ?」

 いかん、頭の中が、みぞれ酒と鴨蕎麦でいっぱいになってた。


 もうあと何日って、毎日指折り数えているからね。で、帰ったら食べる予定のいろんな美食の数々が、俺の脳裏でかわりばんこにぐるぐる回るんだ。

 ただ、フランス料理とかが出てこないあたりが、我ながらつくづくB級。

 いや、そんなこともないか。

 コロッケはフランス料理だったよね?


次回、初めての体験(喧嘩)、の予定です。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] >雲母は遥かに薄くなっているから、コンデンサの容量も増しているはずだ。 コンデンサというのは絶縁が保たれてる限り電極間の距離が小さいほど蓄電容量が増える、というのも添えておく方が良い…
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