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電気と魔法 −電気工事士の異世界サバイバル−  作者: 林海
第九章 召喚後240日から270日後まで(大陸旅行記)
221/279

16 話し合い 1


 いよいよ本題の話し合いだ。

 その前にそれぞれの出席者で紹介しあった。俺達一行は、ヴューユさんが紹介してくれた。

 さっきあいさつした人、この世界の魔術師の中で、一番偉い人なんだそうな。


 ただ、見ていて辛い。

 若いんだよ。

 魔術師は歳を取れないって本当なんだねぇ。一番偉い魔術師なんて言えば、長ーく白いあごひげなんて連想するけど、そんな歳にはなりようがないみたいだ。

 それから、ルーが「ダーカスの前の筆頭魔術師の娘」という紹介で、ちょっと場がどよめいた。ルーの親父さん、ひょっとして、有名人かも?

 あの歳まで生き延びた規格外の人だからね。ここで留学していたときに、伝説の1つぐらいは残していたかもしれないね。

  それとも、割りと最近までこの街にいた、ルーのお母さんの方かな?



 で、話し合いの前に、ご機嫌取りってわけじゃないけど贈り物をした。コンデンサ、本郷の治療で予想外に魔素を使ってしまったけど、まだ満タンなのが3つあったので、1つを残して、2つをリゴスの魔法学院に寄付することにした。

 最年少の魔術師さんとデリンさんの待遇も、より良くなって欲しいしね。

 ま、誠意ってヤツだ。


 ここにコンデンサを渡すのは、これを分解して再構成する自由を与えたことになる。これからどんどん作られるだろう円形施設(キクラ)に設置されるコンデンサ、俺の工房だけで賄えるはずもないからね。独占しようとは思わないよ。



 一番偉い魔術師さんの、隣の席の人が口を開いた。

 「『始元の大魔導師』殿に感謝申し上げるとともに、それでは話を始めたい。

 まず、魔素というものを我々と異なる方法論で捉え、我々の律に反しないままに状況を変えたことについて、我々は歓迎する。

 さらに、『始元の大魔導師』殿自らが、我々と異なる方法論、つまり科学技術と申されたか、その力の制限を申出されたことについても驚きを持っている。

 一番最初にお聞きしたい。

 『始元の大魔導師』殿の本質とはなにか?

 『始元の大魔導師』殿の内のなにが世界を救おうとし、その挙げ句にその権勢をまでを投げ出させるのかをお聞きしたい」

 ……なんて答えよう?

 辛いのとか、悲しいのとか見ているのが嫌だ。それだけだからね、俺の動機。

 なんか、素直に話して、納得して貰える気があまりしない。こういうときにはもっと現実的というか、欲張りな動機が必要なんだろうなぁ。


 「んーーと、なんて言いますかね……」

 「お答えが難しいと?」

 「いや、難しくはないんですけど……」

 嘘を吐くのは苦手だ。

 だいぶコミュ障は克服できたと思っていたけど、即時に嘘が思いつけるような、そんな角度はまだ全然ダメだな。


 「それをお尋ねになって、どうなされるおつもりでしょうか?」

 ルーが助け舟を出してくれた。

 ありがたい。考える時間が稼げるよ。


 「我々も、『始元の大魔導師』殿の善意を信じたいが、動機が判らないでは信じるに信じられぬのだ。

 『始元の大魔導師』殿の本意を知ることで……」

 そこまで聞いたところで、ルーがぴしゃりと遮った。

 「お話になりませんね。

 『始元の大魔導師』様の行動は、善意によるもの。

 その善意を信じるために善意の理由を聞く。

 しかし、善意に理由などありましょうか?

 純粋な善意だからこそ、理由などない。

 お聞きしましょう。

 あなた達も、溺れている人を見たら助けると思います。

 では、その理由をお話しいただけませんか?」

 

 一番偉い魔術師さんが口を開いた。

 「ルイーザ殿。

 言いたいことは解る。

 だが、ことはこの世界全体の未来に関わること。

 あやふやなままではよくない。

 『始元の大魔導師』殿の行動が善意であるならば、その善意の理由はともかくとしても、根源を知りたい。

 なぜ、そのような思いを抱かれておるのかと」


 うん、それなら答えられる。

 「私の元いた世界、元いた国では、いろいろな矛盾もありましたし、不幸な人もたくさんいました。

 でも、それでも、魔素流が地を焼くようなことはなかった。

 10歳に満たない子供が、夜まで働くなんてこともなかった。

 冬や初春に、食に窮することなど、まったくなかった。

 誰もが質はともかく毎日食事をし、入浴し、子供の頃には教育を受けています。

 この世界だって、かつてはそうだった。

 これからだって、そうできる。

 そう思っているだけです」


 「元いた世界がそうだったから、この世界もそうしたいと?」

 「それは違いますね。

 この世界はこの世界で、良いところがたくさんある。

 それをなくしたくはない。

 それに、元いた私の世界では、魔法はなかったんですよ。

 単純に、『良いから導入しよう』で話が上手くいくはずがない。

 ただ、それでも、流れる涙の総量は少なくできるはずなんです。

 私は、それでいいんですよ」

 と、そこまで話して、もう1つ、言い訳を思いついた。


 「あ、あともう1つあります。

 私の世界では、金が価値があるんです。誰もが金を欲しがる。

 で、この世界では、一番価値がないものが金ですからね。

 もう私の価値観、ぐずぐずですよ。

 この世界で、価値があるものは私にはそう見えない。

 この世界で価値がないものは、私には宝物に見える。

 そうなると、なにを欲しがって良いのやらすら判らない。

 さっきの涙の総量とか、美味しい農産物とか、そんなので判断するしかないのです」

 どよめきと、そこから漏れる笑い。

 そんなもんだと感じて貰えれば、それはそれで成功。

 まぁ、裏がないことでも、あるように見せなきゃいけない場面だってのは理解したからね。



 「なるほど。

 『始元の大魔導師』殿の真意、解りました。

 我々が一番恐れているのは、『始元の大魔導師』殿がこの世界の王の中の王となる野望を抱き、そのために無辜の民が泣くことなのです。

 そのおそれはどれほど低くても、無視はできない。

 その点において、我々は『始元の大魔導師』殿に敵対する可能性があるのです」

 「そうですか。

 じゃあ、なんなら呪いでも掛けときます?

 私が、皇帝とかになろうとしたら発動するヤツを。

 名前、知ってるでしょう?

 一応名乗りますけど、鳴滝っていいます」

 この世界の王の中の王になんか、俺、なりたくないもんね。

 呪いでも掛けてもらっとけば、なれない理由ができていいとすら思ったよ。


 したら、魔術師さんたち、深刻な顔になった。

 「あのですな、『始元の大魔導師』殿。

 我々も絶対的な神ではないのですよ。

 危ないから、あらかじめ呪っておくなんて、そんな非道なこと、できるはずがありません。

 だから、苦労しているのです」


 そか。

 ま、未来が判ったらそれは神様の力だ。

 そこまでは魔術師さんたちでも判らないと。

 持っている能力は俺からしたらとんでもない質のものだけど、同じ人間に過ぎないってことかぁ。

 しかも、あらかじめ呪いを掛けておくようなこともできないというのは、人権意識もあるってことなんだろうな。


はい、サブタイトルに数字が入りましたからね。

次回は、話し合い 2、になるわけでございます。

よろしくお願いいたします。


なお、半球の屋根を組み合わせた建物、こんな形を考えています。

https://twitter.com/RINKAISITATAR/status/1324478497943769088

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