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電気と魔法 −電気工事士の異世界サバイバル−  作者: 林海
第九章 召喚後240日から270日後まで(大陸旅行記)
207/279

2 サフラへの旅路


 休憩しては歩き、歩いては休憩し。

 日がだんだんに傾いてきた。

 明るいうちに、テントを張ってのキャンプになる。

 水場の位置は、旅をする行商人から聞いていた。

 とはいえ、煮炊きまではなかなかできない。

 せめて、体を拭き、手足を洗い、王宮の料理人さんが作ってくれたお弁当を食べる。


 でも、お弁当もここまで。

 明日からは、ヤヒウの乳から作った短期熟成のチーズとか干し肉に加えて、その場で戻した芋の粉のマッシュポテトを食べることになる。

 サフラまでは、100kmじゃきかないし、途中の円形施設(キクラ)の視察もあるから、4日は余裕で掛かる。

 歩きってのは大変だよなぁ。リゴスまでたどり着けば、あとは船とかになるから、一気に楽になるんだけれど。


 ともかく、毛布にくるまって、張られた天幕の下で眠る。

 あらためて空を見上げるけど、見知った星座が1つもない。

 遠くに来たもんだと思うよ。

 この世界に、俺と、たぶん本郷だけが同郷なんだ。

 そして、一緒に空を見上げているルーが横にいてくれて、本当に良かった。


 で、みなさんが気を使って、「野宿じゃなんですから、王様と一緒にテントでお休みを」なんて言ってくれたけど、冗談じゃない。王様と一晩中、顔つき合わせていたら、緊張して眠れないじゃん。いびきをかいたら不敬なんだろうかとか、いびきをかかれたらありがたく承らないといけないのかとか、いろいろ考えちゃうし。

 それに、もう1つ、この一行の中でルーは紅一点。

 横についていないと不安。

 ティカレットさんあたりが、絶対にちょっかい出すからね。

 ルーを殺人犯にはしたくないよー。


 で、全員疲れているけど、そのまま熟睡しちまうと、トオーラに襲われるのが怖い。ヴューユさんが結界魔法を唱えてくれて、その上で王宮書記さん達が交代で見張りをすることになった。

 なんか、本当に申し訳ないよ。



 で、さくっと朝。

 朝日がさす前の、僅かな時間で干し肉を齧って、出発。

 二日目ともなると、歩くのにも飽きが来る。

 すれ違う商人さんたちが、唯一の慰めになってきた。

 「荷車になにを積んでいるんだろうか」とか好奇心も刺激されるし、あいさつを交わすだけでも変化になるからだ。

 だって、なにが辛いって、ずっと風景が変わらないんだよ。

 西のゼニスの山がだんだん低くなっていく以外、風景の変化がないんだ。砂漠を進む隊商とかって、すげーロマンティックって思っていたけど、ただただ、だだっ広い砂漠を行くのは、実際は気持ち的にも大変なんだろうって思ったよ。


 歩きだして、2回目の休憩に入る手前で、サヤン達が穴を掘っているのが見えだした。架線ケーブルのための電柱、結構いい所まで来ているんだなぁ。

 「おおーぃ、サヤン、がんばってるなぁ!」

 ちょっと考えてから、そう声を掛けた。

 だって、「やっとるな、結構、結構!」とかだと、扇子片手のどっかの小さな会社の社長みたいだし、「偉いぞー」だと、子供を相手にしているみたいになっゃうし。


 「そちがサヤンか?」

 俺に続いて、王様が声を掛ける。

 「どちらさんで?」

 あー、やっぱりバカだ。空気が読めてない。

 こんなに周りが(かしず)いているのに。

 空気が読めない俺が言うんだから、レベルが違う読めなさだってことだ。


 「ダーカスの王様です。

 陛下とお呼びしなさい」

 ルーが、焦り気味に言うのが可笑しい。

 サヤン、驚いたのは分かるけど、口を閉じろ。奥歯まで見えてる。


 サヤン、十分に驚いてから、慌てて膝をつく。

 「よくやってくれているようだな。

 顔は覚えておく。

 身体を労って、引き続きよろしく頼む。

 祝儀だ。

 みなで旨いものを食え」

 そう言って、王様、銀貨を2枚、サヤンに手渡す。


 そして、俺に向き直って言う。

 「『始元の大魔導師』殿、引き続き、この者に対し、よろしく頼む」

 「御意に」

 俺がそう返事をする頃には、サヤン、当社比3分の1くらいに小さくなっていた。


 サヤン、小さくなりながらも、状況の説明をしてくれた。

 電柱の輸送は自分たちではなく、サフラの商人に頼んだらしい。なるほど、ダーカスから運ぶのでは二度手間だし、サフラから直接とはいい手を思いついたね。

 それで、予想よりずっと先まで電柱が立っていたんだ。

 「『始元の大魔導師』様が資金を豊富にくれたので、いい手がないか考えたんです」

 よしよし。よく考えた。


 「引き続き、お願いします。

 俺は、30日くらいダーカスを離れるけど、そのあとは、ダーカスに戻って、それからこの先の円形施設(キクラ)を稼働状態にするから。

 なにか困ったことがあったら言ってください。

 できることはするから」

 そう、サヤンに告げる。

 「余からも頼む」

 王様の声がかかって、サヤンはさらに頭を下げた。


 そこへ……。

 「おーい、サヤン、なにやってんだ?

 はやく仕事に戻れよ。

 で、この偉そうなおっさん、だれ?」

 電柱担いで呼びに来た若いのを、サヤンは殴り飛ばした。

 はーぁ、やれやれ。

 なんだ、この連鎖。

 御前であるぞ。



 − − − − − − − −


 午後も遅くに、ようやく円形施設(キクラ)の工事現場にたどり着いた。

 この辺境に、ダーカスの魔術師さんが3人も揃うことになる。

 最年少の魔術師さんは、工事監督と同時に他の魔術師さんに引き継ぎもしていたからね。

 魔術師さん達の会話の邪魔をしないように遠慮して、俺はルーとエキンくんとで工事現場を見て歩く。


 トーゴで経験があるためか、石工さん達の工事の進捗は早い。

 しかも、当然のように、石が切り出せる場所が設置場所になるから、輸送も少なくて済む。

 建物の中には、もう文様が彫り込まれているし、30日後には完成しているだろう。

 サヤンの引いてきたケーブルを繋ぎ、避雷針アンテナを立てたら、こんどはもう、いきなり土地が余りすぎて仕方ないことになるよな。

 牧草と、木の苗を植えるだけでも大変な面積だよ。

 こここそ、果樹を植えて、フルーツの一大生産地にしても良いのかもしれないなぁ。


 

 とりあえず、ここでもう一泊。

 俺はこのまま出発するけど、エキンくんは、ここでコンデンサの取り付けに掛かる。30日後、戻ってきてチェックをして瑕疵がなかったら、最後の仕上げを一緒にして、エキンくんはとりあえず卒業。

 でも、卒業してからの方が、勉強することは多いんだよね。

 ま、仕事ってのは、そういうもんだ。



 翌朝、再び歩き出す。

 もう、ふくらはぎがぱんぱん。辛いよ。

 そう運動不足ではないと思っていたけど、この世界の人達はやっぱり強いわ。

 もっとも、王様はだいぶ辛そう。


 「我が王よ、そろそろ荷車にお乗りになられては」

 「いや、みな疲れておるのに、その者たちに余を乗せた荷車を引かせるわけには行かぬ」

 「そのうち、動力を乗せ、人が座っているだけで良い車にしていきましょう。

 ですが、我が王よ、我々は、サフラに着けば休むこともできます。しかし、王の勤めはサフラに着いてからこそ。

 着いたときに疲労困憊していたら、彼の地で戦えませぬ。

 是非にも乗っていただかなくては」

 「……うむ」


 これで、みんな少しは歩くスピードを取り戻すこともできる。

 一番疲れている人にペースを合わせるから、妙にゆっくりになっていたんだ。


 「もうすぐ着くぞ。

 これより、疲労を軽減する魔法を使う。

 サフラでは隙を見せるな」

 ヴューユさんが全員に言い渡す。

 リバータ狩りの時の魔法だな。カフェインみたいな魔法だ。疲労がポンってとれる。あ、表現が不穏当だったのはお許しください。

 で、そのあと解ったんだけど、後からその分の疲れが来るから、ツケは払わないといけない。

 一時しのぎにはなるけど、掛け続けると先に行って死ぬ魔法だ。

 でも、今みたいなときにはいいよね。

 当座のあいさつだけしのげば、あとは寝ればいいんだから。


同時にアップしている、


同級生を彼女にしたら、世界最古の諜報機関に勤務することになりました


第二章12話の抜粋を、degirock様(@jonn_rock)に朗読していただきました。

すばらしいですよ。泣けました。

https://twitter.com/RINKAISITATAR/status/1319275119198433291

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