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電気と魔法 −電気工事士の異世界サバイバル−  作者: 林海
第八章 召喚後210日から240日後まで(安全な土地の確保)
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33 俺がやる


 そして、この場で、トドメの一言を言おう。

 「さて、サフラの若き王の肝も十分に冷えたことでしょうから、話を戻しませんか。

 我々は、民のために働く者です。

 私も、ダーカスの王とともにいますが、その目的は王個人のためではなく、ダーカスの民のためです。

 そして同じく、他の国においても民は民、そのために働かせていただきたいと思います。

 ネズミを獲る猫が良い猫です。

 おっと、ここでは、ネマラを獲る猫でしたね。

 私には実績があるということで、その真贋は、ひとまず措いてもいいではないですか」

 そう言って、ひとりひとりの王様の顔を見る。


 言いたいことはありそうだけど、とりあえずは、聞く姿勢になってくれている。

 こんな駆け引き、練習しては来なかった。

 でも、なぜか、できているよ、今。

 本郷が生きているかもってことで、あいつと会うまでは俺、頑張るからね。

 ともかく、サフラの件はこれで笑い話になれば良いのだけど。


 そして、俺、続ける。

 「各国の円形施設(キクラ)の補修、きちんとさせていただきます。

 また、コンデンサという魔素の保存のためのものも、設置させていただきます。

 ここにいるルイーザ殿も、円形施設(キクラ)の文様の補修とその工事指揮では、経験者です。

 コンデンサの作り方などの情報も公開しますが、まずは、どこの円形施設(キクラ)も安定して動く状態に戻すのが先です。

 手遅れになって炎上してしまったら、必要な工程は倍になるどころではありません。

 おそらくは、どこの円形施設(キクラ)も、そのメンテナンスは焦眉の急のはずです」

 そこで一旦口を閉じる。

 どの王様も、瞬きもせず、俺を見ている。


 「今回、各国から、数人以上の技術者候補を連れてきていただきました。

 まずは基礎をここの補修済み円形施設(キクラ)で学んでもらい、そのあとダーカス王と一緒に各国を巡る際に、その技術者をお返ししていきます。そして、その際に、私と一緒に各国の円形施設(キクラ)の補修を行います。

 私が『始元の大魔導師』の偽者だとしても、持っている技術は本物です。ご覧いただいたように、ダーカスの円形施設(キクラ)の修理も、新造も成功させています。

 その上で、私に手を触れさせたくないというお国がありましたら、そこは当然、その意志を尊重させていただきます」

 そう言って、返答を待つ。


 返答は、まず、ブルスの王様から来た。

 「『始元の大魔導師』殿。

 リゴスの王がどう言おうが、我が国の円形施設(キクラ)の状況はすでに極めてよろしくない。

 円形施設(キクラ)の中心に据えられていた法具を、ダーカスに出すことを許したのは、『始元の大魔導師』殿の与力を得たいからだ。

 我が国は、諸手を挙げて歓迎する。

 また、サフラについてもだ。ダーカスが領土的野心を持つとして、サフラを併合したら、次はブルスになる。

 エディはゼニスの山があって、直接攻め込めないからな。

 『始元の大魔導師』殿の、サフラを温存するというお話には、全面的に賛意を示そう」


 次に、エディの摂政さん。

 「エディも、ブルスと同じ立場に立とう。

 やはり、我が国の円形施設(キクラ)の状況も決して良いとは言えぬ。

 上る朝日のようなダーカスの勢いに呑まれず、民の安心した生活を守るためには円形施設(キクラ)の補修は避けて通れぬ。

 ゼニスの山に穿つトンネルの件も、円形施設(キクラ)補修後という条件の下、賛意を示そう。

 また、領土的にも、我が国はブルスと同じ立場にある。

 サフラをダーカスが併合したら、ダーカスとエディは、ゼニスの山という障壁なしに国境を接することになる。

 その国境の安全保障には、膨大なコストがかかるだろう。トンネルの出口1つ潰せばよいというのとは大きく異るからな。

 『始元の大魔導師』殿の、サフラを温存するお話には、全面的に賛意を示す」


 そして、リゴスの王様。

 「ブルスとエディが各条件の下、そのような判断を示すのであれば、リゴスとしてもそれに同意することはやぶさかではない。

 ただ、サフラの保護国がダーカスであるということは良しとして、サフラの独立性は如何にして保たれるのか?

 それが保たれず、完全な属国化がされるのであれば、エディとブルスの上げた条件も、根本から揺らいでしまうぞ」


 俺、それに答える。

 「あくまで今から言うことは、『始元の大魔導師』の独断であり、ダーカスの王はさらに良い案をお持ちかもしれない。また、呑めぬ条件と言うかもしれません。

 しかし、まずは、私案ではあるが述べさせていただきます。

 一定期間、サフラへの魔素の供給国を、ダーカスとリゴスに分割するのはいかがでしょうか。

 エディに余力があるのであれば、参加いただければありがたいです」


 リゴスの王様が言う。

 「『始元の大魔導師』殿。

 仰ることの意味が解らぬが」

 きっと嘘だ。この人が解らないなんてことは絶対ない。

 俺に説明させるつもりだし、その説明の中で、俺に嘘があれば、それを見抜くつもりなのだろう。


 「魔素を円形施設(キクラ)から供給しなければ、どちらにせよ、サフラは滅びます。他国の発展に取り残され、民の流出は止まらなくなるでしょう。

 しかし、現実として、ダーカスはサフラに魔素を供給する用意があります。

 ダーカスの王の意思は、共存共栄だからです。

 そのために、前王の息子に跡を継いでいただきました。

 リゴスも、エディも自国の円形施設(キクラ)を増やし、安全な土地を増やし、得られた魔素の余剰をサフラに供給して欲しいと思います」

 「魔素供給を通して、リゴスとエディはサフラに影響を及ぼせということなのだな?」

 リゴスの王様が言う。


 「ええ。

 それだけではありません。

 サフラは、独自の資源を持つ国です。それを使うためには、人もいなければならない。

 私は、寒冷地に対応した穀物をサフラに渡しています。麦とライ麦です。

 リゴスとエディも、同じように魔素に加えて、食料を通じても影響を及ぼせばよいでしょう。

 魔素に加えて食料をサフラに移動し、サフラからは北の天然資源を得ましょう。

 それをリゴス、エディ、ダーカスの3国が独自に行えば、それはその3国の安全保障になりますし、サフラの発展にもつながるでしょう」

 そう、俺、答えた。


 「サフラ鼎立の計か……」

 リゴスの王様が呟く。

 で、「ていりつ」ってなに?

 「よろしい。

 『始元の大魔導師』殿の言いたいことは解った。

 リゴスも、『始元の大魔導師』殿の言に従おう。

 我が国の円形施設(キクラ)の補修、よろしく頼みたい。

 南北軸の交通路も、エディとサフラで結ぶがいい」

 俺、ダーカスの王様に視線を走らせる。

 王様、無言で頷くけど、うん、満足しているらしい。

 「わかりました」

 俺、リゴスの王様に返事をする。


 サフラの温存、成功だ。

 後できちんと感謝しろよ、サフラの王様。


次回、34話 晩餐会、の予定です。

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