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電気と魔法 −電気工事士の異世界サバイバル−  作者: 林海
第八章 召喚後210日から240日後まで(安全な土地の確保)
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13 ダーカスの現況 2

すみません、予告と異なるサブタイトルになってしまいました。


 その次は、タットリさんも場に参加して、話してくれた。

 野菜類も、朝晩寒くなってきたとはいえ、まだ相当に収穫されて食べられている。王様会議の晩餐会用の野菜も、大切に管理されている。

 けど、同時に種子採りも始まっていると。

 カボチャみたいに、種子と食べる部分が別の野菜はいいけど、トウモロコシなんかは相当に葛藤があるそうだ。1粒でも多く種子を取りたいって思いと、少しでも食べたいって思いと。


 で、俺の持ち込んだ中で、特にコシヒカリとニンニクがその葛藤の代表みたいになっていて、俺の身にも降り掛かってきた。

 タットリさんの参加は、この説明のためだったんだ。


 コシヒカリ、単に炊いて食べるのであれば、やっぱりこの世界のイコモとは一線を画す美味しさなんだよ。ピラフとかだと、イコモの方が美味しかったりするんだけど。

 で、今年の収穫の献上だって、タットリさんから袋に入った一食分を渡された。ま、一合くらいかな。

 なんだかんだ言って、そこそこ収穫は確保できたって。


 で、感謝と米への懐かしさと、「なんでこれっぽっちなの?」ってのに一筋涙がこぼれたところで、王宮書記官さんにすごーく申し訳なさそうに言われた。

 「トーゴの水田だけでなく、ブルス、エディ、リゴスからの引き合いもあって、残りは来年の種子に回したいのです。

 ご存知のとおり、芋以外の主食になる作物はあまりに貴重なので、世界に広げておきたいのです。

 なにとぞ、お許しいただけないでしょうか?」

 だって。

 それも、ほとんど平伏しながら。

 そう言われたら、ダメとも言えないじゃん。

 ……ホント、ダメとも言えないじゃん。しくしく。


 米は、蒔いた量の400倍ぐらいは収穫できたらしいけど、この世界のサフラを除く大陸中から引き合いが来ていて、みんな持っていかれちゃうみたい。

 味見もできないのに、なんでそんなに熱心なんだか。

 というより、それほど切実に欲しい物なのかな、炭水化物源。


 でも、サフラだけは寒くて作れないって、欲しがらなかったらしい。

 ただ逆に、これから種播する麦には色気を見せていて、俺が持ち込んだ種子の4分の1くらいは持っていくって。


 で、俺が認識せずに買ったのか、買ったのを忘れているか、ルーがいつの間にか買った犯人なのか、そのどれかは判らないんだけど、ライ麦の種子もあったみたい。これは、このままそっくりサフラに行く、と。

 ライ麦は寒いところで穫れるし、黒パンになるそうだ。


 「柔らかくって甘くっていいやね」って言ったら、「ええっ?」ってことになった。

 固くでボソボソで、上手く作らないと必ずしも美味しくないって。でも小麦と混ぜて上手くパンにすると、健康によくて、とても美味しいって。

 どうも話が噛み合わないので、食品関係のレシピ本見ていたら、俺が言っていたのは黒糖パンってことが判明した。


 ああ、近所のベーカリーに売っていた、あのクリームが挟んであった黒いパンは、黒パンじゃなかったんだ。1つ賢くなったよ。

 で、偉そうに「柔らかくって甘くっていいやね」と言っちまった俺を救ってください、神様。

 そして、「『アルプスの少女ハイジ』、読んでないんですか?」って、責めるのやめろ、ルー。

 知らん。そんな話は、知らん。



 で、麦類の種子、今やサフラはダーカスの属国だから、渡さないわけにも行かないと。

 まぁ、サフラが豊かになるのはいいことだよ。


 で、タットリさん、もうダーカスでは米は作らないって。あまりに水がもったいないからって。

 でも、トーゴの開拓組の長のパターテさんが、コシヒカリの栽培は受け継いでくれるそうだ。「ここは土地も適しているし、来年には、きっと、もっと好きほど食べさせてあげられますからね」って言っていたって。


 俺、一合の米を胸に抱いて泣いたよ。

 一合の米を種子にして、400倍になったら来年には40升になる。60kgだよ。

 おずおずと、差し出しましたよ、一合の米。

 ミス○のじいさんみたいに、「今日より、明日なんじゃ」って言いながら。

 このセリフ、こんなに実感が籠もるものだったんだ……。


 で、ニンニクは、もっと悲惨。

 俺、10玉くらい持ち込んだんだけどね。

 今、芽が出ていて、来春から来初夏には収穫できるそうだけど、その見込み量は60玉、どれほど良くても80玉だって。

 で、1つも食べさせて貰えないみたい。

 再来年で360玉、さらにその次の年で2160玉。そんなところだ、と。6倍から6倍が精々で、8倍から8倍になっていくのは期待しないでくれ、だって。

 しかも、たくさん肥料が必要らしい。


 なんで1年で6倍にしかならないんだよ。そんなのありかよ。

 他国まで分けるってなったら、いつ食えるんだよ。

 俺の世界だと、あんなに売っていたのに、なんでだよ。

 そして、なんで1000玉ぐらい持ち込まなかったんだ、俺のバカ、バカ、バカ。

 もう、種子採って、蒔いてみるってのに期待するしかないよ。



 ああ、この世界、去年よりははるかに豊かになったけど、まだまだ社会を覆う薄皮一枚分でしかない。

 来年、再来年と増やせて行けて、ようやく本当に豊かさが来るんだ。

 さらに、フードセキュリティとか備蓄とか、そんなのまで考えだしたら、早くても5年先とかになっちゃうんだろうなぁ。


次こそ、お風呂と架線と、の予定です。

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