表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/40

005 新世界でレンリと二人


「…………」


 レンリは無言だった。

 来たことがある。


 まさか。そんなはずはあるまい。

 今も自分の横を、六本足のカバが通り過ぎていった。

 コハルは雑念を払うように、頭を振る。


 街灯にはためくタペストリー、そこに書かれた文字が目に入った。


 普通に見ていたら、文字はただの棒の羅列。

 でも、これは……この配置は……。


「八……王子……?」


 くさび形文字の並びが、”八王子”にしか見えない。


「どうしたの?」


「い、いや。何でもない」


「気づいてしまったのね。この世界がとても……八王子っぽいことに……」


(ははっ、まさか。青梅でトラック喰らって八王子に転生なんて、そんな、はは。あるわけない、あるわけない)


 ちなみに青梅から八王子というのはあきる野市を跨いで、隣の隣くらいである。

 血湧き肉躍る壮大な大冒険を期待していたコハルが、このままだと市内規模の冒険で終わると落胆しかけているのは、ナイショだ。


「やめろ……やめてくれ……」


「ちなみに、コハル君を拾ったのが相原あいはらあたりよ」


「現実に戻ってしまう……もっと……ファンタジーっぽい名前でお願いします」


「アイ・ハラよ」


「カタカナにしただけじゃねーかよ」


 確かに横浜線乗ってると相原あたりは山だらけだった。

 確かに、確かに、さっき見た地形とソックリなんだけど……くそおおおおお。

 悔しがるコハル。


「こ、こんなだったら飛騨の山奥で巫女の女の子に生まれ変わって、彗星から村人守る転生したかったぁああああ!!」


「この世界はね、彗星よりも強そうな邪神が復活するのよ。来年」


「それはもう聞いた。逃げよう」


「残念ながら、八王子市の範囲から抜けようとするとモンスターが強くなるのよ。稲妻にも打たれるそうよ」


「ええ……」


「駅前の市営ホールに復活予定だから、それまでにレベルを上げて倒しましょう。倒さなきゃ死ぬんですから」


「いやっだあああああ!! 帰してぇえええええ!! 元の世界戻してぇえええええ!! 勝てましぇえん、勝てましぇんよ!! 邪神なんて絶対勝てませんって!!」


「もう一回トラック轢かれれば、コハル君も元のオジサンに戻れるんじゃない? もっとも、この世界にはトラックはおろか自動車すら存在しないけどね。あるのは馬車よ、馬車。さっさと轢かれなさい」


 一週間とはいえ、レンリが先発してくれたことに感謝するコハル。

 彼一人だったら今頃どうなっていただろう。

 でも……。


「なあ、レンリ」


「何よ?」


「心細かったよな、この一週間」


「…………」


 ぽんと、レンリの肩にコハルは手を置いた。


「何よ……コハル。寂しかった……なんて……私は……全然……」


 二人が新しい大地で良い感じの雰囲気になりかけた瞬間――。


「おいおい待ちやがれ!」


 聞き覚えのある声が、耳に届いた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ