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039 同士討ち


 足下に大量の兵士の死体が転がっている。

 この世界に現れた邪神の少女を、討伐しようとした強者のなれの果てだ。

 街の中央の十字路には邪神と聖騎士が、そして十字路に続く大通りでは槍と弓隊がモンスターの挟撃に遭い全滅しかかっている。


 加速の魔法で先行していたレンリが、弓を構えて進んでいた。

 濃い瘴気が、街の中央から流れ込んでくる。

 徹底的に破壊された街並みと、兵士の死体が続いていた。

 身体中に矢や槍を受けて、倒れている。


 ……矢や槍を受けて……?


「これは一体、どういうこと?」


 コハルと同じく、レンリも異変に気づいたようだ。

 足を止めて、足下の死体を注意深く観察する。


「コハル君、この死体を見て」


「思いっきり、眉間に矢が刺さってるな」


「こっちはお互い、お腹を槍で突き合って死んでるわ」


 コハルはごしごしと目をこすり、前方でモンスターと戦う兵士を見た。

 地面に降り立ったガーゴイルに向かって、槍隊が突進を駆けている。

 ぐぎゃあ! とすさまじい絶叫と共に、ガーゴイルは死んだ。

 兵士達の間に、歓声が沸き起こる。

 ガーゴイルの流す血は、真っ赤だった。


「違うわ、これ」


「……まさか、アイツラが戦っている相手って……」


 レンリが倒されたガーゴイルに駆け寄る。

 プテラノドンのような頭部に、大きな羽、そして灰色の身体。

 軽く足でつついても、反応を示さない。

 特に変わったところは見当たらない、モンスターの死体だ。

 レンリが頭上に向かってオリハルコンの矢を放つ。

 するとと、空間が砕けた。

 瘴気の晴れた世界。

 ガーゴイルがしゅるしゅると煙に変わり、解けていく。

 幻が晴れると、兵士の死体が転がっていた。

 お腹に槍が突き立てられて、真っ赤な血を流している。


「幻覚よ、この世界。自分の仲間をモンスターと誤認して、お互い攻撃しあってるのよ」


「嘘だろ……。えげつねぇことしやがる。邪神なんだろ、配下のモンスター使って、正々堂々戦えよ」


「配下……。配下ね。いくら邪神とはいえ、転生したてのリーダーに素直に従うモンスターがいるかしら?」


 レンリの射貫くような目が、コハルを見つめる。


「貴方だってこちらの世界に転生してから、王の信認を得るのは時間がかかったでしょ? 邪神が現れてから、まだ一時間しか経ってないわ」


「つまり、まだ邪神の戦力は整ってない?」


 コハルとレンリの会話を中断させるように、レッドドラゴンが攻撃を仕掛けてくる。

 強力な火炎が吹きかけられた。

 だがきっと、これは火炎ではないのだ。

 炎の渦が治まると、地面には矢が突き刺さっていた。


「コハル様、離れてください……!」


 空気を切り裂き、魔術ダガーが飛んできた。

 レッドドラゴンの胸部に次々と突き刺さると、氷の魔法が発動する。

 氷付けにされたレッドドラゴンが倒れた。

 煙が沸くと、弓を握ったまま息絶える兵士が現れる。


「幻覚にかかっている兵士に、話し合いは通じません。アササギが援護しますから、先に進んでください……」


 アササギが前衛に立ち、次々と立ちはだかるモンスターを屠っていく。

 モンスターといっても幻覚でそう見えるだけの兵士だ。

 相手の兵士もこっちがモンスターに見えているわけだから、攻撃しなければ殺される。


「エンリ様に頼んで、スリープの魔法で眠らせるとか……。いや、無理か。人間には魔法使えないって言ってたもんな」


「そもそもエンリ様は魔術方陣完成させるために、どっか消えてしまったわ」


「5メートル以上離れるとバフ消えるとか言ってたのに、マジかよ……」


 邪神の少女までは、まだ100メートル距離がある。

 エンリ様が魔術方陣を完成させるまで時間を稼げばいいわけだから、迂闊に手を出すよりかは離れた位置で待機した方がいい。

 だが……。


「兵士達を助けたいのに、邪神に近づくには兵士を倒すしかない。ジレンマだな」


「コハル君が許可をくれるなら、今すぐ私の弓でモンスターだけ片付けるわ。そうすれば、兵士の半数は救える。このまま指をくわえてみてるなら、5分も経たずに全滅よ」


「いや、こっちを攻撃してくるヤツだけだ。半分救えたとしても、また生き残りの半分がモンスターに変化する。いたちごっこだ」


 すべてが幻に包まれていた。

 どこまでが本当で、どこまでがニセモノかわからない。

 邪神の少女すら、本当に邪神なのかがわからなくなってくる。


「邪神の復活には時間がかかると聞いています……」


「前話したとき、空からレバーの雨が降って、数日の内に滅ぶって言ってたじゃないか」


「モンスターは人間以上に疑り深いのよ。自分よりも強くない者には、従わないわ」


「前哨戦で人間血祭りにしないと、モンスターの方が言うこと聞いてくれないってことか」


「できあがっている組織で、よそ者が頂点を目指すのは苦労するのよ」


 アササギが魔術ダガーで、次々と立ち塞がるモンスターを倒していく。

 倒したそばから瘴気が晴れて、人間の死体が転がった。

 後ろ髪を引かれる思いで、コハルとレンリは駆け抜ける。

 中央通りを抜けて、目指す十字路まではあと10メートル。

 そのとき――。


『我が復活を邪魔する人間共め――』


 黒い羽を広げた邪神の少女が、コハル達に向かって叫んだ。


 ――ヒュン! ヒュンヒュン!


 四枚羽根が鞭のようにしなると、聖騎士達の身体を掴んで盾にする。


『近寄るな、愚劣な人間共。それ以上進むなら、聖騎士達の首を刎ねる!』


 前進していたアササギの足が止まった。

 ちょっと気が引けるような表情で、コハルを見つめる。


「アササギは別に構わないのですが、コハル様的にはお許し……いただけないですよね……?」


「ダメだ、アササギ。こっちに刃を向けていない人間は、殺したらダメだ」


 コハルはちらりと、レンリを伺う。


(邪神はエンリ様の意図に気づいてないわ。適当に話を合わせて、時間稼ぎしましょう)


 レンリの瞳は、そう訴えていた。

 こくりとコハルはうなずく。


「わかった、進まない」


『良い心がけだ。そういば人間、自分に刃を向けない人間は殺さないと言ったな』


「言ったが、それがどうした?」


 にやり。

 邪神の少女の口元が、気味悪く持ち上がる。

 四枚羽根で掴んでいた聖騎士達の身体を、地面に置いて解放させた。


『聖騎士達よ、生き延びる選択を与えてあげるわ。そいつらの首を刎ねなさい』


 邪神の言葉により聖騎士達の間に慟哭が走った。


「ふ……ふざけるな!」


「我らは近衛師団の中でも、先鋭の聖騎士隊だぞ!」


「邪神の言うことなど聞けるものか!」


 ヒュン!


 少女は聖騎士の首を一つ、刎ねた。


『うるさいな。言うこと聞かないなら、殺すよ?』


「…………」


 恐怖に震えた聖騎士の一人が、きびすを返してコハル達に向き合う。


「そういえばコハル君。さっきから、アンズちゃんの姿が見えないんだけど……」


 レンリが気にした様子もなく、コハルに耳打ちする。

 きょろきょろと周囲を見渡すレンリ。

 目の前ではコハル達に突進を始める聖騎士。

 横にはがれきの山が広がっていて、モンスターと兵士が戦っていた。

 後ろを振り向いても、アンズの姿はない。

 どこかで戦闘に巻き込まれてしまったのだろうか。


「アンズちゃんそういえば、影渡りでワープできるわよね」


「そういや、そんな便利能力あったな」


 ――ズドン!


 強烈な響きが、大地を振動させた。


「ぐぎゃ――ぐぎゃあああ――――!!」


 突進していた聖騎士の身体に、暗黒の尾が突き刺さっている。


『――お兄さんを傷つけようとするヤツは、許さない――』


 邪神から伸びた影に気泡が沸き立ち、のっそりともう一つの影が現れる。


『お兄さんが殺せないなら、私が全部殺してあげる』


 暗黒の尾を垂らしたアンズが、邪神の前に立ち塞がった。


「右手さん、右手さん。更新が遅いですよ……」

「コミケ期間中なのですよ、左手さん。原稿終わったらまた毎日更新に戻るので、それまで我慢してください……」

「同じ作者の他作品キャラは次々添い寝シーツになったりグッズになってりしてるのに、どうしてアササギのグッズは作られないのですか? 右手さん……」

「そういえばファンタジーの勉強するために、ちょこっとMMORPGを始めたそうなのですが……」

「話し誤魔化さないでください、右手さん……」

「鷹白千夜&一夜、鹿倉憂姫とか全部名前取られてて、ちょっとビックリしたそうですよ。左手さん……」

「アササギもいつか、そうなりたいものです……」

「仕方ないから鹿倉時雨ではじめて、今レベル125だそうですよ。左手さん……」

「作者ぶっ殺していいですか? 右手さん……」

「許可しますよ、左手さん……」

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[一言] 作者がネトゲ廃人になってるのw
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