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025 ダンジョンへの路


 街の外に出た瞬間、エンリ様がサンドドラゴン召喚した。

 あまりにも自然に召喚するものだから、てっきり護衛用の魔獣かと思った。、


 ギャオオオオオン!


 その瞬間にすべてを察するコハル。

 サンドドラゴンはけたたたましい咆哮を上げ、牙を剥く。


 あーこれは、どう考えても味方じゃないなー。


 巨大な龍は身を震わせると、襲いかかってきた。


「きゃ~♪ 勇者様~、た・す・け・て~♪ エンリ、こわーい♪」


 お姫様走りでコハルに抱きつくエンリ様。

 雑居ビルくらいの大きさのサンドドラゴンが、砂を蹴立てて向かってくる。


 ズドン! ズドン!


 前足が地面を叩く度に、大地が揺れた。

 地震大国ニッポンに暮らしててもこんな揺れ経験したことない、そのくらいヤバい地響きだった。


「なんだこのマッチポンプ」


 自分でモンスター召喚して、自分で怖がる。

 絶対やるとは思ってたが、本気でやるとは思わなかった。

 MMORPG終盤で、やることなくなった最高レベルウィズの遊びである。


「なあ、エンリ様……」


「きゃーかっこいー! 勇者様~助けてくれるんですね~!」


「勝手に死んでろ」


 ドンッと、エンリ様を突き放した。

 よろよろとサンドドラゴンに向かって後退すると――。


 バクリ!


 巨大な口が、彼女を丸呑みにした。


「あー食べられちゃいましたねー……」


「ちっとも悲しくないのは、何故かしら?」


「むしろすがすがしいな」


「サンドドラゴンさん、空腹だったのかな?」


 それぞれに好き勝手なこと言う勇者一行。

 誰一人、心配していなかった。


 コハルはコカトリスの綱を取り、馬車を発進させる。


「消化にしばらくかかるだろうし、行こう」


「そうね」


 サンドドラゴンを無視して、進み始める一行。


「ふっふっふっふ」


 サンドドラゴンの口の中から、不適な笑いが聞こえた。


「はわぁ~。何か構って欲しそうですよ」


「振り向くなアンズ、忘れるんだ」


 アンズの腕を引っ張った瞬間、背後でものすごい光が走った。

 目を瞑っても届くような、鋭く眩しい光。

 閉じたはずの網膜に、稲光が刻まれる。


「ライトニングストーム!」


 呪文の詠唱と共に、稲妻がサンドドラゴンの喉を引き裂く。


 すとん。


 エンリ様がスカートを翻しながら、砂漠に着した。

 そのまましなを作り、可愛くポーズを決める。


「魔法少女♪ エンリ様参上♪ えへっ!」


 サンドドラゴンに食べられた一瞬の間に、エンリ様は衣装チェンジを完了させていた。


「……なんでちょっと露出上がってるんだ?」


「欺されないでコハル君、胸にパッド詰めて盛ってるわ」


「わー……、最低ですねエンリ様……」


 すさまじいほどの高威力魔法を披露したのに、評判が散々だった。


「ま……負けませんよー!」


 これもどこから取り出したかわからない、謎ステッキをぐるぐるさせるエンリ様。

 無駄にポーズを決めると、呪文を唱えた。


「エンチャント・アースバインド! グレーターエレメンタル! わっほいエルブン・インフェルノ~!」


 間抜けな詠唱とは裏腹に、すさまじい火炎が砂漠を灼いた。

 炎の竜巻が砂を散らし、サンドドラゴンがダメージを負う。


「すげー」


 ハイエルフの使う、最高レベル魔法。

 しかもエンチャントで強化しまくり。

 王都も5秒で灰になるんじゃないかという火災旋風。


 露出のキワい魔女っ子からは想像できない破壊力だ。


「――ギャオオオオン!」


 サンドドラゴンの鋭い咆哮。

 ダメージを負い、手負いの獣よろしく目を血走らせた。

 燃えさかる火炎をまといながら、コハル達に向かって突進してくる。


「トドメいきますよ~! メテオストライク!」


 高速で降り注ぐ隕石が、サンドドラゴンに命中した。


 ――ズドオオオオン!


 ぐらりとよろめくと、砂の中に巨体を沈める。

 数十メートルはあろうかというサンドドラゴンが、魔法たった三発で轟沈した。


「レンリはこういうの――」


「無理。エンチャント一発かけただけでMP切れよ」


 いつの間にかレンリは、装備を宝玉から弓に切り替えていた。

 魔法に関してはエンリ様に任せておけば良い、との判断だろう。

 懸命だと思った。


「で、これ経験値とか入らないのか? パーティー組んでるから均等に入る展開だろ?」


「ああ、そういうのないわ、この世界」


 無慈悲に言い放つレンリ。

 ちょいちょいと、アンズがコハルを引っ張る。


「どうした、アンズ」


「はわぁ、お兄さん……あれ」


 アンズが、地面に置かれた小石を指さす。

 小石は不思議なことに、小刻みに揺れていた。


「……? ただの、石だろ」


 言いかけた刹那。


「――ギャオオオオン!」


 すさまじい地割れが、大地を引き裂いた。

 くすぶる砂煙をかき分け、巨体が現れる。

 サンドドラゴンだった。


「仲間を殺されたら、怒って出てきたんだって」


「え? ちょ――。もう一匹なんて聞いてな――」


 バチン!


 突如出現したサンドドラゴンの攻撃で、エンリ様は吹き飛ばされる。

 すんでのところでプロテクションをかけたせいか、魔法の球をまとったまま転がった。


 バラバラバラ。


 転がる衝撃で道具袋が破けて、中身のポーションがばらまかれる。


 バクリ。


 そのポーション群を、サンドドラゴンが食べた。


「おい、なんかピカピカ光ってるぞ」


「光ってるわね。あれ、全部強化ポーションよ」


「レンリ……。強化ポーションの色を教えてくれ」


「エンチャントパワーが赤、スピードが緑、耐性が青、魔法防御が黄緑」


「全種類光ってるな」


「そうね」


「つまり、すげー強くなってるってことだよな」


「そうなるわね」


 メキ……メキメキメキ……。

 筋力の増強されたサンドドラゴンの体躯が、倍以上に膨らむ。


「えーい♪ エルブン・ヘイストぉ♪」


 エンリ様がヘイストかけた。

 敵に。

 サンドドラゴンに。


「って、超強くなってるじゃねーかぁ!」


「きゃ、きゃあああ!」


「わわっ、こっちこないでください……」


 追いかけ回されるコハル達。

 その間に、人影が割って入る。

 アンズだった。


『壱ツ目之ノ尾ハ、幻影ヲ操リ――』


『弐ツ目之ノ尾ハ、混淆デ火葬シ――』


『参ツ目之ノ尾ハ、華ニテ常世ヲ沈メル――』


 ヒュン!


 アンズの身体から、漆黒の影が伸びた。


 サンドドラゴンの巨体に巻き付き、そのまま吸収していく。


『お兄さんを虐めるヤツは許さない。死ね』


 ――ズン!


 瞬きする間に、サンドドラゴンは影に沈んだ。


「え? 嘘? 一撃……」


 エンリ様の顔が、引きつっていた。

 ハイエルフの魔法でも仕留めるのに三発かかった魔獣が、たった一撃で消滅したのに驚いてるのだろう。


 アンズの強さは、昨日嫌と言うほど見せつけられた。

 エンリ様がアンズの尾を見るのははじめてなので、きっとショックを受けたのだろう。


「い、行きましょうか」


「行きましょうかも何も、レンリとアササギもう出発してるぞ」


 恐らくこういうボケをかますと理解していたのだろう。

 エンリ様とつきあいのあるレンリとアササギは、リアクションを返すこともなく無視して進んでいた。


「ねえ、コハル君。本当に、ダンジョンに向かうつもりですか?」


 急に真顔になって、エンリ様が呟く。

 足下に魔方陣が淡く現れ、服装を元に戻していく。


「いきなりなんだよ。ダンジョンにはちゃんと行く。ここまで来て、引き返すなんて嫌だぜ」


「それは何のため?」


「何のためって、王様からの勅命だからだ」


「お使いをするために、向かう気なんですね」


「乗り気じゃなさそうだな。昨日までは、あんなにパーティーに加えてくれって言ってたのに」


「コハル君がこの世界のことを……いえ、人間のことを知らなすぎるからです」


「この世界に転生する前から、ずっと人間だよ」


「そうですか……」


 徒歩で1時間。

 ダンジョンまでの距離は、そんなもののはずだった。

 だって八王子駅前から、小宮公園までしか離れてないはずなんだから。


 ガラゴロガラゴロ。

 進めども進めども、永遠に砂漠。

 オアシスどころか草木一本も生えてない。


「おかしいな」


「おかしいですね……」


「待って、村があるみたい」


 丘の向こうに、環濠が広がっていた。

 麦畑に囲まれた村。


 だが、どうも様子がおかしい。


「――!?」


 先行していたレンリが息を呑む。

 村から、火の手が上がっていたからだ。


「ウィンドウォーク!」


 風の魔法を使って、レンリが加速した。

 弓エルフは全種族中最高の俊敏さを誇る。

 斥候に出るなら最適だ。


 数分後、首を振りながらレンリが戻ってくる。


「小人族の村で、手遅れだった。行きましょう、生存者はいないわ」


 馬車を進めさせようとするレンリを、コハルが止めた。


「モンスターに襲われたのか?」


 無言で、レンリが首を振る。


「コハル様。基本的に、モンスターは村を襲いません。この世界のモンスターは人間以上に賢いので、雑用は別のものにやらせるのです……」


「アササギ……それはいったい……?」


「それ以上考えてはいけないわ」


「さっきから何なんだよ、レンリ。村が燃えてるんだぞ。何かに襲われたってことは――」


「私達の目的は、ダンジョンに向かってアバドンを倒すこと。村を救うことじゃない」


「でも……」


 コハルの問いに答えず、レンリもアササギも先に進んでしまう。


 そのまま、1時間歩いた。


「また同じ村だ」


「本当ですね……」


 明らかに同じ場所を回っていた。

 時間経過はしっかりしているようで、村の大半が燃え尽き、ぶすぶすと黒煙がくすぶるだけだ。


「誰かがカーズブラインドの魔法を使ったのでしょう……」


「魔法切れないと、同じ場所を回り続けるのか」


「ええ……」


「誰だろーなー、そんなバカなことしたヤツー」


「……あ、あははは! 誰ですかねー!」


「普通に敵と戦うのに飽きてるヤツだよな」


「き、きっとですね! 高レベルすぎてただの冒険に飽きてるんですよ~。で、縛りプレイを自分に課しちゃうっていう。ね?」


「ね? じゃねーよ。さっさと魔法を解け」


「かけるのは得意なんですけど~。そのぉ。自分の魔法って、ほら、強力すぎて……自分じゃ解けないっていうかぁ~」


「レンリ、頼む」


「無理よ。ハイエルフのカーズブラインドなんて、解けるわけないじゃない」


 そのまま3日が過ぎた。

 ダンジョンは、まったく見えてこない。


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