表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

24/40

023 お風呂回だそうですよ!


 石造りの巨大なコカトリスの石像。

 その開いた口から、滝のような湯が流れていた。

 列柱の立ち並ぶ地下室。

 いや、地下神殿というような広さであろう。


 あのあと、コハルは風呂に逃げた。

 死龍ティアマトを持つコハルに興味を抱いたエンリ様に、解剖されかけたからだった。


 コハルは腰を湯に沈め、ため息を吐く。


 雫がしたたる左手の甲を撫で、言った。


「オマエは本当に、死龍ティアマトなのか?」


 ぎょろり。

 睨むように左眼が、見つめ返してくる。


 ――左様。最高位の神獣、死龍ティアマトとは我のことだ――


「そんな最高位様が、どうしてオレの左手に?」


 ――何も好きこのんでこんな場所にいるわけではない。身体を失い、ここにしか居場所がなくなった。それだけのこと――


「オレに力を貸してくれるのか?」


 ――たわけ。貴様に死なれては困る。居場所が他にあるなら、助けぬ――


「力を貸してくれるってことだな?」


 ――そうなるな――


「アンズはどうしてアンデッドに? 何故、オマエが召喚できた?」


 ――貴様に我が力が宿ったのと同じ理由だ――


「返答になってない。アンズはどうして、アンデッドに?」


 ――貴様と違い、すでに死んでいたからだ――


「トラックに轢かれたのはオレも同じだ。アンズが死んだ理由を、聞きたい」


 ――答えても構わぬが、本当にいいのか?――


「どういうことだ? さっきから意味がわからない」


 ――アンデッドとは呪いによって存在しているようなもの。死因を答えてしまえば呪いは解け、この世から消滅するぞ。いいのか?――


「それは迂闊に聞けないな。だけどまあ、オマエに答える気がないのもわかったよ」


 コハルは左眼をさすった。

 本物の瞳とは、手触りが違う。

 表面が水晶で覆われているように、ゴツゴツしていた。


「オマエは邪神と戦うつもりなのか、左眼……」


 ちゃぷん。


 左眼は答えない。

 代わりに、湯の上を波が走った。


 湯気の合間から、人影が現れる。


「ティアマトは邪神と戦う宿命。この世界の神話に、そう書いてあるんですよ」


 妙に艶のある女性の声。

 エンリ様ではない。


「コハル。ティアマトに選ばれし少年。その眼は危険です」


 顔を上げたコハルの目に、美しい女性の上半身が映る。

 彫刻のように均整の取れた裸体。

 一糸まとわぬ美人のお姉さんが、湯につかっていた。

 乳房に濡れそぼった金色の長い髪がかかっている。

 コハルにとって刺激が強すぎる登場の仕方だった。


 ちゃぷん。


 全裸の女性は、水面を蹴立ててコハルに近づいた。


「これは危険な眼です。早急に取り外さないと、あなたに危害が及んでしまいます」


 瞬きする間もなくコハルの横に立ち、左手を取る女性。

 誰なのかと、考える間すらなかった。


「創世神話の中に、ティアマトの記述があります。最高神マルドゥク様に反逆した愚かな神、ティアマト。身体を二つに裂かれて、片割れは空に、もう片割れは地面に返ったと……」


 波が落ち着いた瞬間、うつむくコハルの目に彼女の下半身が映る。

 その姿に、コハルは戦慄した。

 彼女の下半身は、長く伸びるヘビの尾だったのだ。


(コイツ……ラミアー……?)


「甘いですね。今頃気づいたんですか――!」


 ラミアーは右手を振りかざすと、鋭い爪を伸ばした。


「邪神様に反逆する愚か者め! ここで死ぬが良い!!」


 爪が振り下ろされるその瞬間。


 ――ヒュン!


 コハルは退悪の剣(エゾロディネガル)で首を叩き落としていた。


「そこまでです! 不届き者! このエンリが駆けつけたからには……あれぇ?」


「ちょっと遅かったみたいです。エンリ様……」


 ぶっしゃあ!

 と、ラミアーの返り血を浴びているコハル。

 その姿を呆然と見つめるエンリ様とアササギ。

 どうやら助けに来てくれていたらしい。


「あらー……。格好良く助けようと思ったんですけど……。必要なかったみたいですね」


「コハル様は金貨3000枚の賞金首とも渡り合ってますし、アンズちゃんも倒しています。強いんです、コハル様……」


 ぜぇぜぇと、静かな浴場にコハルの荒い呼吸が響いていた。


 ……そして。


「ごーしごーし♪ どうでしょー♪ コハル君♪ お背中流されるのは~♪」


「エンリ様、血にお湯を掛けたら固まってしまいます。何千年も生きてるのにそんなこともわからないんですか。この抜けエルフ……」


「うぇーん、アササギちゃんイジワル~」


 バスタオル一枚だけをまとったエンリ様とアササギ。

 二人の白肌に囲まれ、身体を洗われるコハル。


 ぴたりと、エンリの胸がコハルの背中に密着した。


「エンリ様にコハル様を独占されるのはムカツキます。アササギも加わります……」


 アササギは石けんを泡立てると、そのままコハルの身体にこすりつける。

 すべすべとした皮膚の感触が、コハルをくすぐった。

 まさかの素手!?


「あ、あのー……二人とも……」


「コハル様は黙っていてください……」


「アササギちゃんずるーい! 私ももっと密着する~!」


 胸の谷間に液体石けんを流し込むと、エンリ様の身体がのしかかった。

 にゅるり。

 バスタオル越しの柔らかな胸の感触が、コハルの背中に伝わる。

 さすがレンリのお姉さん分、胸が……はるかに大きい。


「何自分の身体、スポンジにしてるんですか……」


「へっへーん、アササギちゃんにはマネできないでしょー! 主に胸の意味でー!」


「ア、アササギにだってできますから……!」


 対抗心を燃やしたのか、アササギも自分の身体に石けんをつける。

 つうと、柔肌がコハルの腕を滑った。

 二人の嬌声が耳元で響き、コハルの理性も限界に迫ったそのとき――。


『……お兄さん……』


 ……ちゃぷん。


 水音が立った瞬間、足下に暗黒の尾が伸びた。


「アンズ……?」


 どこから現れたのか、水面にぬっとアンズの顔が浮かぶ。


「こ、これはだな……」


 ヤバイこれ殺される流れだとコハルは身構えた。


 バシャバシャ。


 水面から幾本もの暗黒の尾が現れ、魔獣の姿をさらすアンズ。

 湯気が流れて、尾の先端が現れると……。


『家の外にたくさんいたよ。危なかったね』


 アンズの尾は、ボロぞうきんみたいになったラミアーを掴んでいた。

 その数数十体。

 妙に殺気立っていたのは、外で戦っていたから、らしい。


「エンリ様、結界が破られてますよ……」


「ティアマトの名前を出したのがマズかったですねー。邪神の天敵ですから」


「ということは、放棄ですね。ここも……」


 深いため息を吐くアササギ。

 以前にも同じことがあったのだろう。


「アンズちゃんも混ざりませんか~?」


 アササギの心配をぶち壊すように、間抜けに声を掛けるエンリ様。


『混ざらない。お兄さん、返して』


 ひょいっと、コハルの身体が尾に持ち上げられる。


 ばっしゃーん。


 そのまま湯に引きずり込まれた。


「はわぁ! えへへー、お兄さんとお風呂です!」


 アンズに抱きつかれて、湯に沈められるコハル。

 自分の手の中にコハルを収めて気が済んだのか、殺気が消えていた。


 ぶくぶくぶく。


「いいな~、アンズちゃん。お兄ちゃん独り占めで」


「コハル様沈んでますが……」


「この館がここまで賑やかになったのも、久しぶりだな~」


「エンリ様。誰かお忘れになってませんか……」


「そういえば、レンリちゃんいないね~」


「レンリ様はいつも、はぶらレンリされてますね」


 ……。


 はぶらレンリはその頃、屋根の上で星を見ていた。


「くちゅん! 何か階下が騒がしいけど、どうしたのかしら?」


 ちょっぴりホームシックになっているレンリ。

 浴場の一件を聞いてぶち切れるのは、翌日なってからだった。


「後書きだそうですよ、右手さん……」

「それはそうと、アササギはちっとも活躍しませんね、左手さん……」

「アササギは強いんですよ、ぐるるー。ね、右手さん……」

「アササギの出番を増やすヒントは、評価ボタンにあるそうですよ。左手さん……」

「最新話のページにあるアレですね。ポチリすると、アササギの出番が増えます。すばらしいことです、右手さん……」


「ここまで読んでいただいて、ありがとうございます。これからもアササギは頑張ります。読者様……!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] アササギ がんばれ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ