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020 死ねないハイエルフ


 レーゼイン・エンリはハイエルフだ。

 エルフの平均寿命は数百年。

 だが、ハイエルフは違う。

 自分がどれほど前に生まれ、いつからこの世にいるのかも、忘れてしまった。

 それほど長い年月を生きている。


 18歳で彼女の成長は凍結された。

 永遠に若い身体のまま生き続けている。

 同じエルフ族の少年少女が、彼女より先に息絶えるのを見てきた。

 人間など、瞬きする間に死んでいく。


 数千年の時を生き、生き続けることに悩む少女。

 いつ死ねるのかもわからない、この身。

 死ねない、それがどれほどの苦しみか、エンリ以外にわかる人間はいないだろう。

 いつしか彼女は、自分の身を呪うようになっていった。


 彼女の誕生は、エルフ族と邪神との対立の起源にまでさかのぼる。

 何千年前から邪神がこの世に存在したかはわからない。

 だが、人間がまだ文明を持たず、ドワーフから青銅の機具を与えられる前の話。

 その当時、邪神は主にエルフ族と戦っていた。


 エルフは邪神との終末戦争に備え、1万年に一度咲くと言われるマザーツリーの花を少女達に与えた。

 マザーツリーの加護を受けた少女達はハイエルフとなり、神聖な武具を身につけ邪神との戦争に駆り出された。

 ほとんどのハイエルフは、その時に死んだ。

 奇跡的に生き残ったのがエンリ、ただ一人。


 人間は彼女を神と崇め、最高神エンリルの名を取りエンリと呼んだ。

 彼女はいつしか神と同一視され、邪神復活の度に終末戦争の表舞台に呼び出されるようになる。

 そのときに召喚される異世界からの戦士と共に、エンリは戦った。


 人、エルフ、そしてドワーフ。

 彼らが滅亡の淵まで追いやられ、そしてギリギリのところで邪神の封印に成功する。

 1000年に一度、繰り返される終末戦争。

 だが、エンリは気づいているのだ。

 こんなものは、ただの儀式に過ぎないと。


 邪神……。

 エンリは邪神の臆病さを憎んでいた。

 邪神は知っているのだ。

 世界を滅ぼしてしまえば、自分まで死んでしまうことを。

 だから世界を滅ぼす一歩手前で、戦いを放棄する。

 自らを封印し、1000年の眠りに就いてしまう。

 それが人間には、邪神との戦いに勝利したように映るのだろう。


 違う。違うのだ、人間達よ。

 邪神が1000年の眠りに就くのは、ダメージを受けたからではない。

 人やエルフやドワーフが、元の生息数まで回復するのに1000年かかるというだけなのだ。


 邪神は、なんて卑劣なのだろう。

 死ねない悩みを抱えたエンリとは、正反対の生き方。

 このまま邪神に頼っていたのでは、自分は永遠に生き続けてしまう。


 エンリはアンズを見つめた。

 この少女だ。

 自分の前に落ちてきた青い星であり、唯一の希望。

 滅びの尾をまとった、究極の屍魔獣アンデッド


 ――彼女こそが、新しい邪神にふさわしい――


 エンリの頭の中で、終末への論理が組み立てられていった。


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